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【第66回岸田國士戯曲賞最終候補作を読む】その8

8作目は福名理穂さんの『柔らかく搖れる』

候補者について

福名理穂[ふくな・りほ]
1991年生まれ。広島県出身。ぱぷりか主宰、劇作家、演出家。初の最終候補。

(写真撮影:矢野瑛彦)

候補作について

昨年11月、ぱぷりかの第五回公演としてこまばアゴラ劇場にて上演。

■時、場所
 
2021年11月中旬、広島県広島市。
 第1話・第4話:小川家の自宅
 第2話:良太の離婚する前の自宅
 第3話:樹子と愛の自宅

■登場人物
 小川幸子(67歳・母)
 小川良太(41歳・長男)
 小川樹子(36歳・長女)
 小川弓子(31歳・次女)
 ノゾミ(34歳・良太たち兄妹の従姉妹)
 ヒカル(15歳・ノゾミの娘)
 志保(34歳・良太の妻)
 愛(33歳・樹子の同棲相手)
 真澄(33歳・産婦人科医・愛の友人)
 信雄(31歳・小川家の近所に住む農協)


■物語
 広島県の田舎町にある小川家には母・幸子(こうこ)、離婚して戻ってきた長男・良太、次女・弓子、そして火事で夫を失った良太たちの従姉妹ノゾミと娘のヒカルが暮らしていた。父が家の前の川で溺死してから1年。長女の樹子(たつこ)は父親の一周忌に同棲相手の愛を連れてくる。

総評

 実際の上演は観ていて(感想ブログはこちら)、戯曲を読んでみたいと思っていたので今回の最終候補入りはありがたい。
 改めて読んでみて思ったのは、人の生死というものは周りの人間に少なからず影響を与えるということ。本作にはノゾミの夫と幸子の夫、それぞれの死によって関係性が小川家に変化をもたらす(ついでながら、冒頭のノゾミの夫の死後の火葬場のシーンはない方がいいと思う。その後で幸子の夫が死んだ1年後のシーンになるので、上演を観た際は人物関係がちょっと分かりにくかった)。
 また、良太は子供が出来なかったことで志保と離婚することになるが、その一方で2人の担当医だった真澄は産婦人科を辞めて実家の農業を継ぐことになり、樹子と愛に拾われた子猫を引き取るというのも面白い巡り合わせ。

 内容自体は悪くないのだけど、「話は勧めておいた」「気に並んのなら」「生活習慣を整えていく事を進めています」「基準値を達しています」「3日しか立っとらん」「コーヒーを飲む干す」「着いて来る」「ヒジリジリと」といった誤変換、てにをはの間違いなどがあまりに多い。「良太」が一ヶ所「長太」となっているところもあり。これはあくまで上演台本で発表を前提としていないものとは言え、白水社に渡す前にチェックしたらいいのに。あと、産婦人科医が患者(良太)に「旦那さま」と使うのも違和感。

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