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【第68回岸田國士戯曲賞最終候補作を読む】その8 山田佳奈『剥愛』


候補者について

山田佳奈[やまだ・かな]
1985年生まれ。神奈川県相模原市出身。□字ック主宰、劇作家、演出家、映像監督。初の最終候補。

(撮影:shinya watanabe)

候補作について

昨年11月、□字ック第十五回本公演としてシアタートラムにて上演。その後、愛知、大阪でも上演。

■時代、場所
 現代、地方の集落にある剥製師の工房。
 【0】
 【1】
 【2】翌日
 【3】3日後
 【4】
 【5】
 【6】

■登場人物
 千田菜月(33)
 (58) 剥製師
 (28) 菜月の妹
 章平(25) 叔母の息子
 サイケ婆(56)
 (40)

■物語
 
帰るより他なかった。漫画喫茶に寄って時間を潰すのも、コンビニのイートインスペースを陣取るのも気が引ける。循環バスだと実家まで片道40分、おそらく帰れば夕飯時だ。こんなクソ田舎で暮らすことに、いまの自分は耐えられるだろうか。先日離婚すると戻ってきた菜月は、街に覆いかぶさる薄い暗い雲を眺めてため息をついた。地方都市はたいてい山が身近だ。周りには田畑も多く、隣近所に行くにも買い物に行くにも、不便な立地であることを当然として誰もが暮らしている。そういう意味では、山間の集落でどこに需要があるのかわからない剥製の工房なんかを営んでいる菜月の実家も例外ではない。仕留めた動物の皮を剥ぎ、鞣して縫製し、さらには仕上げとして着色を施して、生きていた頃の姿にまで復元する剥製師。剥製業界のピークはいまからおよそ50年前。狩猟家が52万人ほど存在し、バブル期だったこともあって作れば売れる時代ではあったが、動物の尊厳を訴える動物愛護団体やビーガンの出現など、社会の動きが変化して需要も今では殆どないといって等しい。客と言えば、先日ペットの猫が亡くなり剥製にして欲しいとやってきた物好きぐらいなもので、時代に取り残されつつある剥製師に依頼をしてくる人の数は少ない。そんな伝統的で希少な職業を生業とする父のもとに、ある日、男がやって来る。父は、「尊い沢山の命の犠牲の上に成り立っている仕事だから」と、その男が生きていく為に雇うことを決めるが、一方で、菜月は、過去にあった事件以降つきまとう、振り払いたくても難しい業のようなものに頭を悩ませていた。愛されるべきは被害者か加害者か。それともそれを傍観する者たちか。物質的な美しさを愛する自然主義者の想いは、寂しい動物たちの雄叫びに変わっていく――。【作品公式サイトより】

総評

 この作品は実際の上演を観ているが(こちら)、戯曲を読んでも印象は変わらず。むしろ「満足感を感じさせる」という表現にツッコミを入れさせている割には「エコバック」や「バッドマン」という表記を用いているあたり、この人は言葉に関心がないのだなと分かる。内容そのものよりもその時点で私にとっては賞にふさわしくないと感じられる(もちろん、選考委員がどう判断するかは別問題ですが)。

最終候補作8作読んでの予想は以下の通り。

本命 なし
対抗 なし
大穴 メグ忍者『ニッポン・イデオロギー』と金子鈴幸『愛について語るときは静かにしてくれ』

というわけで、3年ぶりの該当作なし!
以上!笑

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