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【第66回岸田國士戯曲賞最終候補作を読む】その7

7作目はピンク地底人3号さんの『華指1832』

候補者について

ピンク地底人3年[ぴんくちていじんさんごう]
1982年生まれ。京都府出身。同志社大学文学部文化学科美学芸術学専攻卒業。ピンク地底人/ももちの世界 劇作家・演出家。初の最終候補。

(写真撮影:chanmi)

候補作について

昨年9月、ももちの世界第7回本公演としてインディペンデントシアター2ndにて上演。

■時、場所
 
2019-2020年〈現在〉と2001年〈過去〉
 京都市南区の高架下にあるダイナー「water lily」 

■登場人物
2019年-2020年〈現在〉
 桐野京子 45歳 ひかるの母 日本手話を使う。
 桐野ひかる 
20歳 京子の息子 発語と手話を使う。
 森田優子 33歳 ひかるの恋人、料理研究家 日本手話を使う。
2001年〈過去〉
 桐野京子 25歳 ひかるの母 日本手話を使う。
 桐野健人 35歳 京子の夫 発語と手話を使う。
 木下マミ 38歳 京子の友人、納棺師・手話通訳士 発語と手話を使う。
 近藤拓次 
35歳 マミの同僚、娘が難聴 発語と手話を使う。

 声(高架橋) 手話を使う。
 ラットマン  発語を使う。

■物語
 京都駅から南東に伸びる京阪沿線の高架下に、ポツリと佇むダイナー「water lily」。経営者の桐野京子は、コーダである20歳の息子、ひかると静かに暮らしていた。ある日、ひかるは恋人である森田優子をダイナーに連れてくる。すぐに意気投合する京子と優子であったが、次第に、優子に隠された過去が明らかになる。COVID-19が猛威を振るう中、宙に描く、あなたの指先が燃える時、悲劇が起こる。【公演チラシより】

総評

 実際の上演は未見だが、元となった短篇戯曲「華指212度」(『せりふの時代2021』掲載)は読んでいる。このタイトルはもちろん、ブラッドベリの『華氏451度』から来ているのだが、華氏212度は摂氏で言うと100度で水が沸騰する温度で、華氏1832度だと人体が燃える温度だとか。

 本作の特色は何と言っても、日本手話を作劇に本格的に取り入れているという点であろう。タカハ劇団『美談殺人』では田中結夏さんが手話通訳兼出演をされていたが、本作のようにほとんどの人物が手話を使うという作品は極めて珍しい。
 アカデミー賞作品賞、助演男優賞にノミネートされている『コーダ あいのうた』が話題だが、本作のひかるもコーダ(Children of Deaf Adults)の一人。父親は20年前、絡まれたボクサーを助けようとして命を落とし…ということになっているが、実はそこには秘密がある。現在と過去を行ったり来たりする構成や、「声」「ラットマン」といった存在もあり、最後まで面白く読んだし、もう一度読みたくなった。
 しかしこれ、本作が受賞となったら、史上初めて筆名に算用数字が含まれた受賞者ということになるな。ふざけた名前だと思われるかも知れないけど、ケラリーノ・サンドロヴィッチさんだって相当ふざけた名前だからね。笑

 ところで、2001年9月21:00のシーンでマミが『科捜研の女』シーズン3を見たがるシーンがあるのだけど、テレビをつけたら9.11同時多発テロのニュースが映し出される。ただ、あの日、各局が緊急報道番組に切り替わったのは22時台だし、『科捜研〜』はそもそも木曜の放送だし、シーズン3は同年11月からなのでやっていなくて当たり前なんだよねぇ。これはあえてなのかな。『ウソコイ』と言われても当時を知らない人にはピンと来ないだろうし。笑

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