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やりがい?

今年の梅雨入りは近畿では平年より21日も早いそうで、現時点(2021年5月中旬)で、もう梅雨入りしています。記録的な早さだそうです。とは言えコロナ禍の真っ最中、爽やかな天気が続いたとしても不要不急の外出ができない状況ですので、まあいいかなぁと思いつつ、梅雨の長雨・大雨による土砂崩れや出向道の崩落等、送信所設備への影響が心配されます。そんな今年はおかしな気候ですが例年5月中旬と言えば新入社員研修が終わり、スーツ姿がまだしっくりこない若者達が街に出始める頃合でもあり、就活中の学生達が就活スーツ姿で歩いているシーズンかと思います。
弊社でも「技術にも新入社員の採用を検討しなければならない」という事で、昨年度に他業界から着任した人事担当者から「最近の若者達、特に技術者の採用では明確なビジョンが必要であり、FM放送局の技術員になると、どんなやりがいや楽しみ、スキルアップでき、どんな活躍ができるのか?そういう点をアピールして募集をしたい」と相談がありました。
改めてそう聞かれると、特に他業界から来た方に説明できるようには、即答できませんでした。という事は応募してきた学生さんにも明確に説明できないという事になります。FM局技術員の“やりがい、楽しみ、身に付くスキル…難しい問題です。多くのラジオ局、特にFM局の技術員は少人数で、送信技術、送出技術、中継技術、音響技術、IT技術、建築や電源設備、社内外の情報システム、場合によっては社内ITインフラ、PCやコピー機やFAX等のOA設備、もしかすると蛍光灯などの社内機器のメンテナンスまで何でも面倒を見ている方もいるかと思います。「放送設備を含む電気製品一般担当」(=コンセントに刺さるものは技術に聞け!)という立場の技術員もいるかもしれません。こういう説明したときに「是非やりたいです!」という学生さんがいるでしょうか?
送信所業務等で協業する共建某局の若手技術員に休憩中に聞いたことがあります。君はなぜ局の技術、送信技術を志望したの?彼の回答は、学生時代の研究室が空中線をやっていて、そういう職種を選んだことと、将来は研究者として研究開発などもやってみたい、と。なるほど!理系出身の若者としては王道の答えです。私も30数年前、学生時代に思い描いていた姿も同じでした。現実は、浪人して入った大学では留年し、そうしているうちにバブルも弾け就職が厳しくなり、進学して状況の変化を待っていたら更に状況が悪化し、いざ就職活動では「故郷に支社があるから」という理由で、あるメーカーに採用いただき、そのメーカーで放送設備の提案や設計開発業務に従事している中でもっと安く、もっと安くという見積や価格交渉という「お金の話」が嫌になり、もしかすると提案先(=放送局)の技術になればお金の話をしなくてよくなるかと思い、ちょうどその頃、そのメーカーの事業再編という話があり将来に不安もあったことから、縁あってFM大阪に転職しました。が、やはり今度は導入時や保守、その他費用の掛かる案件に対する安く安くの様々な圧力への対応や、各協力会社様に対し、やはりお金お金の話をしてしまっています。そして日々の業務では「放送設備を含む電気製品一般担当」…。毎日が状況に追われ、やりがい等考えたことがありませんでした。若者たちに対し「これが局の技術のやりがいだ!こういうスキルが身に付く」と言えるようなことがあるのだろうか、と自問してしまいます。
数年前に弊社の採用面接(集団)の面接官をさせていただいた折に、学生からの逆質問で「皆さんのやりがいは何ですか?」と聞かれ「番組内でリスナーの電話相談で自殺を止めたこと」や「クライアントの要望以上の提案をして、成功したときのうれしさ」など制作・営業担当者は分かりやすくやりがい、楽しさを語っていました。その時は「技術は例えば災害時などでも放送を止めないとか、営業や制作がやりたいことをなんとかして実現し、営業や制作がリスナーやクライアントの心に届く放送を提供できるようにバックアップすること」みたいな格好いいことを言ったような気がします。また転職スカウトを断る理由として「ご提案の職種では一部の技術しか見られませんが、それに反し放送局の技術は社全体をみることができ楽しいのでお断りします」というような言い方をしたこともあります。
局の技術者にとってシステムが思った通り動いたときやトラブルをうまく解決した時など、達成感満足感は様々にあるかと思います。それもやりがいだと思います。
 コロナ禍の中、自由に対する制限という話が出てきています。個人的には“自由に対する制限”という考え方は嫌いなのですが、設備の場面では限られたコストの中でという考え方もあります。その限られた中で最大限自由に理想のシステムが出来たらそれもやりがいになります。電気製品一般の面倒を見れる局の技術者は自分の理想とする設備を自由に設計・実現できる可能性もあります。
前任者から、君(=私)は設備の初期設計時や、提案依頼書を書いているときが一番楽しそうに見える、と言われました。確かに自由にシステムを思い描いているとき、それは楽しい時間です。その後、各社様と色々やり取りをする中で、個人的には嫌な「お金の話」をする羽目になるのですが…。そうなんです、本当はお金の話なしに、良いものが作りたいなあと思っているのです。自由に制限なく。コロナ禍の中、せめて想いだけは自由でいたいと思う今日この頃です。

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