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~第3回 共同親権制度導入に対する葛藤 それでも共同親権制度に賛成する理由~

神奈川県横浜市戸塚区の女性ライダー弁護士西村紀子です。

 一人の弁護士として、一人のライダーとして、そして、一人の人間として、日々感じたり観察したりしたことで、皆様のお役に立つと思えることを、つぶやき発信していきます。

 本日は、一人の弁護士として、
  "共同親権制度導入に対する葛藤 それでも共同親権に賛成する理由(3)"
です。
  前回(2)では、共同親権導入反対を主張される方達のバックボーンの考察と、そのようなバックボーンゆえに、導入反対を主張される方達が、「DV事件」の中に紛れ込んだ「虚偽DV」「DV冤罪」等で、連れ去られた子どもに会えずに苦しんでいる非同居親の人たちの苦しみを直視することができていないであろう問題について、つぶやきました。
 前回はこちら
   ↓

 ただし、ここで念のため書いておくべきことがあります。
「虚偽DV」「DV冤罪」とは、どういうことであるのか?
ということです。

 前回、筆者は、痴漢冤罪事件になぞらえましたが、痴漢冤罪事件と決定的に異なることがあります。
 痴漢事件は、電車等でたまたま居合わせた主に2名の間で、その短時間に「加害者」による「被害者」に対する「痴漢行為」があったかなかったか、という問題です。せいぜい数分~30分程度の、極めて短時間の問題です。
 この中で、
    「痴漢行為」があったかなかったか?
は、ゼロか100か、オールオアナッシングです。

 これに対して、「DV」は、婚姻ないし同居期間中という、比較的長い時間の出来事が問題になるわけです。
 当然、夫婦間にしろ、恋人間にしろ、いろいろなことがあるわけです。
 夫婦喧嘩もたくさんあるでしょう。


 そのような多くの色々な出来事がある夫婦関係の中では、相手方配偶者に対して、
    全く嫌な思いをさせたことはない
    全く苦痛な思いをさせたことはない
    何も悪いことをしたことはない
ということは、特に破綻した夫婦関係においては極めてまれで、むしろ
   もう二度と夫(妻)の顔を見たくない
と思わせるような出来事の一つや二つはお互いにあってもおかしくはないのです。

 ただ、それが、配偶者暴力防止法にある「配偶者からの暴力」(=身体に対する不法な攻撃であって生命又は身体に危害を及ぼすもの、または、これに準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動(配偶者暴力防止法第1条1項))に該当する
      「身体に対する暴力等」
がに該当するものであるのかどうか、そしてそれ故に、子どもを連れ去られて
    子どもに会えない
    子どもの居場所がわからない

という辛くて悲しい事態になっても仕方が無いほど深刻なものであるのか、ということが問われてくるといえると思います。

(DV(ドメスティックバイオレンス)については、以下のサイトが詳しいです。)



 このように、「虚偽DV」「DV冤罪」といっても、それは、連れ去った配偶者との関係で
    100%自分は真っ白
    100%自分は一方的な被害者
ということは、(連れ去り配偶者の不貞事案等でない限り)極めて稀で、連れ去り配偶者に対して
    もう二度と夫(妻)の顔を見たくない
という思いをさせたことはなんらかの形であっただろうということです。

 他方で、なんらかの、
もう二度と夫(妻)の顔を見たくない
という思いを他方配偶者にさせていたとしても、それが、
    「身体に対する暴力等」
に該当はしない、というケースは多々あると思われます。
 要は、どっちもどっち、的な事件です。

 ところが、問題を難しくするのは、そのような該当しないケースであっても、連れ去りを行った同居配偶者の中には、離婚事件での自分の「被害者」的立場を強調して非同居配偶者を弾劾するために、夫婦間の嫌だった出来事をかなり大げさに誇張し何倍にも膨らませて、あたかも、
     「身体に対する暴力等」
があったかのように構成して主張してくることが多々あるわけです。
 このような主張がそれらしく一定の効果をもってしまうため、非同居配偶者は、家庭裁判所や(相談や届けがなされていると)警察・役所等の行政からは、
DV加害者かもしれない
という眼差しで見られることになります。現状では、離婚訴訟で勝訴しても、名誉回復は微妙な状況です。
 これは、子どもを連れ去られて居場所もわからなくなった非同居配偶者を、さらに苦しめることとなってしまう現実があります。

 このように、「虚偽DV」「DV冤罪」には、
    長い夫婦の生活の中での様々な出来事が問われてしまう、
    様々な出来事があるため、お互いに真っ白ということは極めて稀
    他方で様々な出来事があるため誇張することによってそれらしい形になってしまい、DV加害者という主張が一定の効果をもってしまう
という面があるのです。


 このような状況になってしまうと、本当に大変で、悩ましいのです。
 こういうケースに限って、訴訟で裁判所から早期和解を勧められますが、裁判官は、非同居配偶者の名誉のことなど考慮しませんので、せめてわずかでも名誉回復をしたいと考えると、訴訟を徹底的に戦って勝訴判決を勝ち取るほかないことになってしまいのです。
 現状の法律の不備は、本当にひどいと思います。
 だからこそ、原則共同親権導入で、現状を打破したい、という想いです。


 他方で、非同居配偶者の方達にも考えていただく必要があると想うことがあります。


 筆者は、子どもを連れ去られた非同居配偶者が、
   親権の喪失・停止(民法第834条~)
に該当するような、子どもに虐待等を行っていたような事案でない限り、非同居配偶者と子どもとの定期的な面会は認められるべきであると考えています。
 そして、それを達成するためにも、原則共同親権の導入に賛成の立場です。

 ただ、連れ去られて、さらに時には不本意なDV加害者のレッテルを貼られて、本当に苦しい立場にあることは本当にわかるのですが、それでも、
     自分は一方的被害者
     連れ去った配偶者が100%悪い
という気持ちでいていい、というものでもないな、と考えています。
 前記のとおり、長い婚姻生活の中では、お互いに真っ白ということはなく、なんらかの
もう二度と夫(妻)の顔を見たくない
とおもわせるなんらかの出来事や苦しみはあったろうからです。
 相手のそのなんらかの苦しみを理解して手当することができなかったことを踏まえて、(原則共同親権が導入されれば)今後も続く共同養育関係を念頭に、連れ去った相手を思いやれるようになることが必要です。

 もちろん、相手を思いやるべきは、連れ去った配偶者も同様です。
 連れ去った側の同居配偶者が、非同居配偶者を、自分との関係だけでなく、子供との関係まで100%否定して、同じく親である非同居配偶者と子供との関係を断絶することは、前記の親権停止・喪失が妥当するようなケースでもない限り許されないと考えています。

 破綻した夫婦で、子どもの連れ去りがあったりすると、互いを思いやるということはとても難しいことになるかもしれません。
 それでも、どんなに難しくても、原則共同親権の導入のためには、その難しいことが必要だと思います。
 相手を思いやることを先に出来た方の主張こそが、大きく説得力をもつ。
 そのように想います。
(続く)


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