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あの言葉に励まされて

3年半ほど前から、とある大学のメンターとして活動している。
「メンター」とは「よき助言者」や「良き相談者」といった意味だそうだ。

具体的には、社会人である私たち大人が、学生と個別に面談したり、話を聞きたいという学生のグループと懇談したりするというものだ。

学生から尋ねられるのは、まず資格について。
それをどう生かし、どう職業につなげればよいかという質問が多い。

また「仕事と子育ての両立」についてもよく尋ねられる。
私が面談した学生たちは決してキャリア志向ではない。
けれども将来の生活に漠然と不安を感じているようだ。
それで結婚・子育てしながら共稼ぎを続けたいと思っているのだ。
そして、そのためにはどのような将来設計を立てたらいいのか、考えているのだ。

それとは別に、今の自分を取り巻く環境について、話し合うこともあった。たとえば、新型コロナウィルス感染症が拡大し始めたころのメンタリングでは、オンライン授業中心で思うような大学生活を送れない苦しみを訴える学生もいた。

今の若者は、二十歳前後でも多感な年頃だ。
職場の図書室でもそうだが、話を聞いてくれる第三者の存在を必要としている学生たちの思いをひしひしと感じている。

とここまで、さも学生の役に立っているようなことを話してきたが、そうではない。実はこの活動は自分のためだったのだということを白状する。

この活動を知るきっかけは新聞の紹介記事だ。
けれども応募動機となったのはその時の自分の境遇だった。
当時、職場で同僚からひどいパワハラにあっていたのである。
どうしようもないほど自信を無くしていた。
本当につらい毎日だった。
なんとか環境を変えたいという思いだった。
応募書類は懸命に書いた。
だが自分に価値を見いだせなくなっていたので、書類選考が通った時は本当にうれしかった。
「こんな自分でも」と、とても晴れがましい気持ちで、笑顔で大学での面接に向かった。

といって、私には積み上げたキャリアは何もない。
でも、面接で教授にこう言われた。

あなたのこれまでの生き方は、あなたにしか経験できなかったことです。
そしてそれこそが学生がロールモデルを考えるヒントになります。
今の学生は、身近に母親くらいしか大人がいません。
大人の女性と話をするという機会は大切です。
あなたがその機会を与えてあげてください

「私のこれまでの生き方は、私にしか経験できなかったこと」という言葉はそれからの私の励みとなった。

また、私にメンタリングを申し込んでくれる学生たちの存在は、苦しんでいた当時の私の支えとなった。
幸いにして仕事に恵まれている今でも、学生たちの存在が私の支えの一つとなっていることに変わりはない。

 あなたのこれまでの生き方は、あなたにしか経験できなかったこと。
 そしてそれこそがこれからの世代の助けになる。

いくつかの起業や仕事についての本を読むと、この言葉は私たち世代にとっては、新たに何かを始めようとするときに大切な言葉のようだ。
そして「そのためには自分の幼いころからのこれまでの生き方をすべて棚卸しするということが重要だ」と言う。
私はまだそこまではできていない。
何かはわからないが、これから何かを始めるために、まず、それから始めなくては。

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