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母が資格を生かせていたら

「資格なんかとっても仕方ない」
それが母の口癖だった。
医師も弁護士も国家資格なのに、と心の中で母の無知に反抗した。
けれど、ふと思い出した。
私が小学生の頃に1度だけ母が「昔、不動産関係の資格を取った。行政書士も医療事務も」と話したことがあったのだ。
確か、両親が不動産業を営んでいることに関連して聞いた。
資格を持っていたのは母だった。

その時は何も思わなかったが、先日、母に尋ねてみた。
母は以前「行政書士なんて誰でも取れる」と豪語し、
私もそれを信じ込んでいたが、
資格のことを調べていて「行政書士」が難関だと知ったからだ。
聞けば、赤ん坊の私をおんぶして一生懸命に勉強していたという。
母が23,24歳の頃の話だ。
けれど、母がその資格で仕事をすることはなかった。
母は30代半ばで夫、つまり私の父を亡くしたが、
資格ではなく、県や市からの委託調査業務やパート、新聞配達で生計を立て
私と妹を大学まで行かせてくれた。
確かに彼女にとっては「資格など役に立たない」ものだった。
「もったいなかったね」と私が言うと、「そうだね」と母は笑った。
けれど、それは時代や環境もあったのかもしれない。
年齢、性別、土地柄、、、
さまざまな壁に立ちふさがれたことだろう。
母が私に「法曹界」という望みをかけたのもそれならわかる気がする。
私はその母の望みには応えなかったけれど。

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