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とんだ誕生日プレゼントからとんだが消えた誕生日

職場から帰ると何やらピーピー鳴っていた。
キッチンに急ぐと冷蔵庫が開きっぱなしだった。
中のものはみな温かくなり、汗までかいていた。
最後に家を出た末っ子の仕業に違いない。
怒りのあまり彼にslackを送った。
「何時に家を出たのかな? とんだ誕生日プレゼントをどうもありがとう」
その日は誕生日だった。

間髪入れず彼から返事があった。
ただならぬようすを感じたのだろう。
訳もわからないだろうにのっけから謝ってきた。
「ごめんなさい、家を出たのは10時半です。何かしていましたか」
げっ7時間以上!
私がいきさつを怒りに任せて書いて送ったら「わざとでないことをそこまで言われると死にたくなります」とよこした。
「さよなら」とかも書いてある。
その返事にむしろこちらのほうが驚き、なんとかなだめて、彼にいつものように帰るように言った。
「もうその頃には怒ってないと思うよ」と。
確かにそこまで怒ることではない。

数時間後、汗をかきかき彼が帰ってきた。
私がいつも通り迎えると、ほっとしたようすだった。
入浴や食事を済ませてひと段落して自室に戻っていった。
そしていきなり「おかあさん、誕生日おめでとう」と大きな箱を差し出した。
見ればルルド。
いつも肩凝りに悩んでいた私を見て、彼と、家を出ている長男とで相談して決めたらしい。
「アマゾンで買って、研究室に今日まで置いてた。おかあさん、ピンクがいいかなと思って」と言う。
「これで僕の指の痛みも減るかな」とも(彼にいつも肩をもんでもらっていた)。

命に関わることでもないのに、私からあんなひどい内容のslackを送られ、重いルルドと帰宅した彼が新美南吉の「ごんぎつね」のごんのように思われた。
ちなみに誕生日の数日前から「プレゼントなにがいい?」と何度も尋ねてきた夫からのプレゼントは「おめでとう」という五音だった(別になにもいらなかったが)。

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