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最後くらいは

そのとき、冗談じゃないと思った。
そのとき、と言うのは、朝、出勤途中の最寄り駅前の大きな交差点の信号待ちをしていたとき。

渡れば駅と言うところで、夫が言ったのだ。
「暇になるよ。何するか考えとかないとね」

夫は運動不足になるからと言って、自分が在宅勤務の時はこうして、毎朝出勤する私についてくる。

そして、信号が赤で立ち止まった時、私に聞いてきたのだ。
「今の職場あと何年?」
「来年の3月で終わり、前も言ったと思うけど、そのあとはもう勤めに出ることはしない。今の職場がすごく幸せだから、いい形で終わりたい」
そう答えた私にさっきの言葉を言い放ったのだ。

冗談じゃない。
そう思った私は夫に
「暇かどうかは私が決める」
と言って、信号が青になるやいなや、横断歩道を駅に向かって駆けた。
彼がどう思ったかは知らない。

仕事してなかったら暇だって。
彼はそうかもしれないけれど、私は違う。

なんで私のことまであの人が口を出すのだろう。
思えばいつもそうだった。
私によかれと思って言っているのだとしたら、それは違う。
最後くらいは好きなように行きたいよ。

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