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ゴードンさまさま

奥さんが2人目の妊娠で大変だ、休ませてあげたいとのことで、長男が子ども(孫)を連れて7か月ぶりにうちにやってきた。
2歳そこそこの子どもだ。
半年間のこころとからだの成長は驚かんばかりだろう。
しかもこれからちょくちょく来るかもしれないと聞き、前の晩はぬいぐるみに布団掃除機をかけてきれいにし、喜ぶかもしれない絵本をチョイスする。
そして、そうそうあれどこにあったけ、とナイロン製の赤い鞄を探した。
10年ほど前にこっちに引越しした時は見てなかったから捨ててしまったかも。
そう思いながら彼の置いていったものが押し込まれているクローゼットの扉を開いたら、青い薄色の猫のついた布の肩掛け鞄が手前に置かれていた。
長男がちょうど孫くらいの年頃の時、私の妹が贈ってくれたものだ。
一緒に贈ってくれた長女宛てのはもう残っていないことを考えると、本当に彼は物持ちがいい。
積もるほこりを丁寧に払ってファスナーを開けると、果たしてそこには私が「あれどこにあったっけ」と探していたものの一部分が入っていた。

次の日、やってきた子どもが「お父さんの実家」に慣れ始めたころに、絵本やぬいぐるみを見せるが関心がない。
それじゃあと肩掛け鞄を持ってきてファスナーを開けた。
出てきたのは、ミニカー。
後ろの部分が開くごみ収集車。
動物運搬車にはパンダが2頭入った檻が載っている。
お決まりのはしご車。
クレーン車。
パトカー。
スポーツカー。
ライオンバス。
荷台の上がるアート引越センターの車などなど。
電池を入れれば走って音を出す消防自動車や飛行機は、子どもが泣くので電池はやめておいた。
開けられる場所をぱかっと開けたり、伸ばせる場所を伸ばしたり縮めたりして遊んでいる。
けれど、一番興味を持ったのは機関車ゴードン、ヘンリー、パーシーだった。
それぞれ長女、長男、次男が好きだった。
あの子らがそれをどうやって遊んでいたか、私には記憶がない。
今、子どもはからだを床に擦り付けて、手で車体を動かしながら、様子を凝視している。
何度も何度も。
時間を忘れたように。

私が鞄から出してきた数々の品物を見て、長男が「それ、捨てられなくてしまっていたものだ」と言う。
色とりどりのプラスチックのコマは長男が幼稚園の卒園の時にもらったらしい。
戦隊シリーズの銃もあった。
万華鏡も。
長女が弟のために作った仮面ライダーのお面も。
わかるわよ。
「宝物を入れてたんでしょ」

長女や長男が小さい頃、私が幼い頃に遊んでいたひらがな積み木や鞄の中に入っている木琴で遊ばせたことがあった。
私がその時抱いた感慨を長男もまた抱いているのだろうか。

あまりに気に入っているようすなので長男に「ゴードン持って帰る」と聞いてみたが、「いや、いい。ここに来る口実になるから」と言う。
そのときはそういうものかと思ったが、すぐ彼の言葉の意味を理解した。
そのあと少し日が翳ってきてから外遊びに出たところ、どれほど時間が経っても何度帰るか尋ねても帰らない。
それでふと思いついて「おうち帰ってゴードンと遊ぶのとどっちがいい」と尋ねたら「ゴードンと遊ぶ」と言って速攻で走り出したのだ。
ゴードンありがと。

奥さんの容体が落ち着くまで、ゴードンには頑張ってもらわないと。

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