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シリアと福島 世界を舞台にした恩送り ペイ・フォワード記事Vol.18

12年越しの取材で見えてきたもの

ナジーブ・エルカシュさんは、シリア人ジャーナリスト。NPO法人チームふくしま理事長の半田真仁さんとは、2011年の東日本大震災からの付き合いです。東京に住むナジーブさんが震災の様子をレポートしようと思っても、当時はどこに行けば話が聞けるか全く分からなかったそう。福島県は東京から被災3県に入ろうとしたら真っ先に通る場所。そこで活動していた半田さんと知り合い、福島県の実情を知るためにあちこちに連れて行ってもらったそうです。

ナジーブさんは福島県、宮城県、岩手県とを巡り、東日本大震災の被害を伝えてきました。その中での気付きが、彼の故郷シリアの難民と結びつきます。

ナジーブさんがシリアでも実現したいと語る岩手県大槌町の「風の電話」↓


ふたりの出会いを振り返るナジーブさん(左)と半田さん(右)

ふるさとを失った 福島とシリアの人々

ひまわりを植えることで福島に元気を届けようとしてきたチームふくしま。当初は、放射能の影響で人が住めなくなった場所にひまわりを植えることへのバッシングもありました。しかし、チームふくしまは、故郷を奪われてしまった人の悔しさや切なさ、それを乗り越えようと奮闘する気持ちを尊重して、ひまわり里親プロジェクトとして支援をし続けてきました。この様子が絵本になったものが『ぼくのひまわりおじおさん』です。

https://youtu.be/dYkeLFvZ8WQ


ナジーブさんにはこの絵本の内容が、故郷を追われて戻れない国内で避難をしている子どもたちの様子と重なって見えました。そこでこの本をアラビア語に翻訳し、現地の子どもたちにプレゼントすることになりました。

https://youtu.be/_-70BkeMzrs


2021年3月の贈呈式の日、シリアの子どもたちと日本とをオンラインでつなぎました。子どもたちは劇をしたりして、日頃の学びの成果発表をしてみてくれました。さらに、絵本をもらうと、「この本を大切にします。」「頑張ってたくさん勉強します。」などと口々に感想を言っていました。


先生に読んでもらったあと、自分たちでも読んでみる生徒たち


生まれ故郷を離れるというつらい経験をしているのに、福島の子どもたちもシリアの子どもたちも、なんとか前を向いて今を生きようと必死なのだと感じました。

そして、つらい経験をしたからこそ、他につらい思いをしている人たちを思いやることができるのでしょう。また、こんなにつらい思いをしている人が外国にもいるのだから、自分たちもめげずに頑張ろう、という気持ちになったのでしょう。福島の人たちとシリアの子どもたちとの絆はこうやって培われていったのです。

2022年12月にはドバイでもこの絵本を贈呈しました。この様子は以下のURLからひまわり新聞20号の12ページで読むことができます。


地震と内戦で生活の基盤を失われたシリア人のゆくえ

皆さんもご存じのとおり、2023年2月6日早朝(現地時間)、トルコの南東部、シリア国境の近辺でM7.7の直下型地震が起こりました。ナジーブさんの故郷シリアの北西部でも大変な被害がありました。さらに内戦の影響で、地震直後に空爆があったとも報じられています。

地域ごとの被災人数は以下のマップで見ることができます。

https://app.powerbi.com/view?r=eyJrIjoiZTNiODA0OWUtZDU4Ni00NDQzLTgzYTUtZGM0YWM5MmRlODEwIiwidCI6IjBmOWUzNWRiLTU0NGYtNGY2MC1iZGNjLTVlYTQxNmU2ZGM3MCIsImMiOjh9

このような地震や内戦の影響で、シリアからトルコに逃げると「シリア難民」、シリア国内に逃げると「シリア避難民」と呼び分けられます。支援の手厚さを考えると、「シリア難民」より「シリア避難民」の方が状況が厳しいといいます。例えば、シリア国内では停電していない時間が2,3時間だとそうです。世界からは震源地であるトルコに支援が集中していますが、ナジーブさんとしては、「シリア難民」も「シリア避難民」もどちらも支援したいと考えています。

オリーブと桃の共通点

ナジーブさんは半田さんに「シリアと福島を繋ぐものを持ってきました。」といって袋を開けました。その中にはオリーブの実が入っていました。一体オリーブの何が福島とつながっているというのでしょうか。

実は世界的に愛されているオリーブの発祥の地が、このシリアのイドリブ県なのです。しかし、今回の地震の影響で故郷を追われる人が数多くいました。東日本大震災で故郷を追われた福島県民の象徴的な食べ物といえば桃。「オリーブ」も「桃」も、それぞれシリアと福島の「故郷への誇り」を意味しているのです。

イドリブ県がオリーブの発祥の地

このオリーブが復興と平和の証として、福島や日本の皆さんに認知されることを夢見ています。


本物のオリーブの味を味わってください!

お医者さんとパン屋さん

このような非常事態でも、子どもたちは必死に生きています。ナジーブさんによると、日本に来て驚いたことのひとつが、日本の子どもに「将来なりたいものはなに?」と聞くと「パン屋さん」や「お菓子屋さん」という答えが返ってきたことだそうです。なぜ驚いたかというと、常に人命に関わるような状況を生きているシリアの子どもたちに同じ質問をすると多くの子どもが「お医者さん」と答えるのだそうです。「お医者さんになって、自分の家族や人の命を救いたい」という想いは、子どもたちがつらい状況に置かれているからこそ生まれるもの。日本の子どもが「パン屋さん」や「お菓子屋さん」になりたいと言えるのは、日本が平和だからこそだとナジーブさんは語ります。

子どもたちの夢の違いから、その国の平和の状況が分かるということにはっとさせられます。どうしたら子どもたちが環境に振り回されずに自分らしく生きていけるのか。大人が寄り添って考えたいものですね。

友人から受けた恩を、彼の故郷に送りたい

この12年間ずっと福島・東北を想い、活動をしてきたナジーブさん。半田さんはナジーブさんへの感謝の想いを、シリアの震災支援として形にしようと活動しています。半田さんは、これはナジーブさんから受けた恩をシリアに送る、恩送りだといいます。時間も国も飛び越えた恩送り。私もそんな半田さんとナジーブさんの力になりたいと思っている人の一人です。

震災をバネに交流を継続してきた福島とシリアのこどもたち
初めて新聞に「OTAGAISAMA(お互いさま)」という言葉が横文字で記載されました


ナジーブさんの母国を救うために、支援団体がはっきりしている募金をお探しの方はこちらをご覧ください。チームふくしまが2023年2月28日まで窓口となって募金を集めています。

関連動画はこちらからご覧いただけます。

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