ヴィンテージ:4
「ハルくんそろそろ上がる時間じゃない?」
「レジ締めしたら上がります」
ケンジさんはヤマトの集配の荷物の整理をしながら声をかけてくれた。俺は左手で札束を挟み込み右手親指と人差し指でそれを弾いて、ボンヤリとソレを眺めながら枚数を数えて返事した。
一枚くらいくすねてもバレないんじゃないかとか下らないこと考えながら、価値があるとされてるオッサンの顔をパチンと弾いて売り上げを計算してレジに打ち込む。ウチも全自動レジに代わったらこんなアナログな事しなくて済むんだろうなとか、それなら俺は用済みになるのかもしれんな、なんて思いつつタイムカードを切る。
「ハルくん今日夜空いてる? 合コンあんだけど君来たら盛り上がるから手伝ってほしいんだけど」
「すんません。今日は親が帰ってきてるんですよ。家に泊まるつもりらしくて帰って支度しなきゃならなくて」
ケンジさんはそれを聞くと急に興味無さそうにふーんと一言呟くと、カウンターに戻って行った。
俺には家族なんかいない。けど、そんな事この場所じゃ何も関係ない。それでいいからコンビニバイト選んだし、家から徒歩15分の微妙に遠い立地にして、なるべく同僚と会わない様な工夫をした。それでも、合コンに誘われるしたまに行くし行っては賑やかしに使われて疲れて家路に帰る。月五万のアパート1DKに逃げ帰る。誰も俺の本当を知らないって事だけが心の拠り所だった。
おつかれした。店長は軽く微笑んですぐにExcelの数字に虚な目を返す。ナオコさんは途中まで帰りが同じなのでしつこかったが、高校生ってバレたらサークル内で揉めますよ、と言ったらそれとなく話題を変えて今日はあきらめたみたいだった。歳上の垢抜けた女性との談笑はボンヤリした生活感にもったいない感覚を覚えるが、三叉路が近づくと「じゃまた今度のシフト…明後日か。またね」手を振りナオコさんは繁華のある右手へと歩いていく。一瞬立ち止まり後ろ姿を覗くと、スマホで当てに電話をかけていた。俺は三叉路を左へと曲がり電柱の明かり以外眩しさのない住宅街へと歩を進めた。
「数合わせだよな。当たり前か」
ボソリ呟くとアスファルトに目を落とし、行き先を覚えたアパートへと足は勝手に進んだ。
築三五年、それなりにボロい安アパートのポストを開けると、何も入っていない事を確認した。そろそろ公共料金の督促来てるはずなんだけど。足を置くと一回毎に煩わしいカタンと音の鳴る階段のまでボソボソ独りごちながら登っていると、
「これ入ってたけど」
階段の一番上から急に声がして驚いて頭を上げると、そこに清原が紙を指で摘みペラペラ振りながら腰掛け見下ろしていた。
_その5
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