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母の血

 実家の母が、「今度清水ミチコのライブがあるんだけど行きたい」と言ったのが今年の元旦だった。あけおめの挨拶もそこそこに、私がチケットを取り、母に送った。
 ついこの間、念願のライブに行ってきた母は、すごく楽しかったようで満足そうなメールを朝イチで送ってきた。

 73歳になった母は、なかなかのチャレンジ精神の持ち主だ。
介護施設で今も働きつつ、映画や読書や落語に音楽に、興味のあるものを見つけては楽しんでいるようだ。いつだったか、父とケンカしたその勢いで電車に乗り、行ってみたかった弘前に行ってそのまま一泊したらしい。あ、私の実家は秋田なので隣県に行っただけなのだが、それでもその行動力には驚かされる。
 一念発起して介護士の資格を取ったり、運転免許を取ったりしたのは50代だった。働いていた職場のリストラにあったことが原因だったけど、母なりに落ち込んで、それでも働かないと生活できないから、と切り替えて目の前の壁をコツコツクリアした人だ。切り替えの下手な私には羨ましい行動力だ。

 私は胃の痛みや疲労、生理痛や頭痛に悩まされる40代を送っている。
母の40代はどうだったんだろうかと思い出すと、毎朝胃酸を飲みながら、休むことなく仕事に行っていた。仕事から帰ってくると必ず甘い物を食べてから、食事の準備を始めていた。父と共働きで、私と妹を育てる中でいろんな悩みやストレスを抱えていたんだな、と想像できる。

 母のチャレンジ精神で欲を言えば、スマホの使い方を覚えないことだ。
今回のメールも、すべて父が母の代わりに送ってくれたものだ。母のスマホは架けても電源すら入っていないため、父のスマホに架けて母に代わってもらうことが多い。いつか電源を入れて電話ができるようになって欲しいものだ。

 父を介した母からのメールに、「母の今年の目標はいろいろ体験してみたい、だそうです」と書かれていた。今の私は母のように、チャレンジ精神に溢れているとは言い難い。目の前のことをクリアするのに精一杯、家に帰るとドッと疲れてしまうことが多い。私の今は、かなり冴えない毎日だ。でも、母が母なりにコツコツクリアしたろう、40代以降の人生があって今の母ができあがっているとしたら、その子供である私にも、その血は流れているはず。この思いは、結構私の元気の素になっている。
 
 母がしてみたいいろんな体験を手助けできるよう、私も私なりのコツコツで協力していこうと思った。
 そのためにも母よ、スマホの電源は入れておいてください(笑)
 

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