無人タクシーは儲かるか?
無人タクシー開発会社のレイオフのニュースが最近多い。
https://www.detroitnews.com/story/business/autos/2024/02/15/michigan-based-av-startup-may-mobility-reduces-workforce-by-13/72618523007/
https://www.theverge.com/2023/12/14/24001357/cruise-layoff-quarter-employee-gm-driverless-spending
https://techcrunch.com/2023/01/24/waymo-lays-off-staff-as-alphabet-announces-12000-job-cuts/
無人タクシーは儲からないのだろうか。
そこでアメリカで無人タクシーを運営しているウェイモとクルーズの収支を調べてみる。
ウェイモはそれぞれグーグルの子会社で、クルーズはGMの自動運転車開発部門のため明確な決算というものが存在しない。そこで公開情報から軽く計算してみる。
2500人の人員を抱えるwaymoは年間10億ドル以上のコストがかかっていると言われている。ではそれに対する収入はどうだろうか。
ウェイモの公式サイトでは、4000万マイル走行したとされている。アメリカでのUberの価格は大体2ドル/マイルぐらいなので、全てに対して報酬が支払われたとすると、8000万ドルになる(実際はほとんどは実験走行なので収入はもっと少ない)。
ではクルーズはどうだろうか。
GMのCFOはクルーズに年間20億ドルかけていると説明している。収入はどうだろうか。
クルーズの公式サイトでは、数百万マイル走行したとされている。同様に報酬が平均2ドル/マイルだと仮定しても数千万ドルにしかならない。
つまり、ウェイモもクルーズもこれまでに得た収入が数千万ドル以下なのに対して、年間10億ドル以上のコストがかかっているのである。
それに対して以下のようにマッキンゼーは2030年には無人タクシーは普通のタクシーどころか自家用車よりもコストが下がると予想している。
無人タクシーの開発はディープテックと呼ばれ、確かに大きな初期投資が必要であろうことはわかる。しかし、本当に無人タクシーは儲かるのか考えてみた。
魔改造ジャガーと魔改造BYD
まず特徴的な無人タクシー車両を見てみよう。
普通の自動車にはない不自然な突起たくさん付いている。普通のタクシーにこのような突起は付いていないので、ここでコストが発生していそうだ。
ウェイモのサイトによるとこれらは人間の目の代わりとなるセンサー(Lidar, Camera, Radar)と記載されている。無人タクシーを実現するための主要なコストとなりそうだ。
これらのセンサーのコストを考えてみたい。が、センサーにある程度詳しくないとこれらのコストを見積もることは難しい。
ウェイモは自動運転界隈では超有名なので誰かブログとかで解説してないかなーと思ったら以下のようなサイトが見つかった。
センサーのキャリブレーションを行っている会社の技術ブログでウェイモに搭載されているセンサーについて解説してくれている。しかもざっくりコストについても予想してくれている。これでウェイモの無人タクシーの改造コストの一部がわかる。
この技術ブログによると、確認できたセンサーは全部で51個で大体4万~5万ドル、日本円にして600万~750万円であると語られている(Lidarユニットはwaymo自家製らしい)。
ウェイモの無人タクシーのベース車両であるジャガーのI-PACE自体が1000万円程度なので、waymoの魔改造I-PACEはセンサだけを考慮すると2倍程度と考えられる。
600万~750万円と見積もられているのは、車両の周囲を計測する外界センサのみ、車両の加速度などを計測する内界センサ、追加の計算機、LiDARの開発費、実装コストなどを含めると3倍、4倍となるかもしれないがそれを調べてコスト計算するのはさすがに難しい。
厳密な資料を作ってるわけでもないし、開発費も含めてざっくり3、4倍ってことにしてもいいかなーと思っていたところでこのような無人バスを見つけた。
これはティアフォーがBYDのバスをベースに製作販売している無人バスのMinibusだ。ウェイモのジャガー同様に普通のバスにはないセンサーがたくさん付いている。
ティアフォーはオープンソースの自動運転ソフトウェアを開発している会社だ。オープンソースソフトウェア(OSS)の開発をしているだけに?公開されている情報も多く、このMinibusに搭載されているセンサの情報も一般公開されているスライドの中で示されていた。
これを見ると合計21個の外界センサが搭載されていることが分かる。丁寧にセンサー構成を書いてくれているので、センサーの価格を調べて全部足せばウェイモの無人運転よりも正確にセンサーのコストは分かるだろう。
しかし、このMinibusを取り上げたのはそれが理由ではない。
実は、このMinibusのベースとなるバスは普通に日本で売られていた。そのため、元となるバスの値段からこの無人バスの価格を引くことで実装コストの上限が分かるわけだ。
さて、この元となるバスはBYD J6 1.0というバスだ。すでに販売は終了しているが、価格は1950万円(税別)だったようだ。
そして、ティアフォーのMinibusの価格は5000万円以上らしい(5000万円以上だったらいくらかわからないじゃないかというツッコミはご遠慮ください)。
したがって、改造費用は大体3000万円ということがわかる。このコストをドライバーを省くことで回収し利益を上げる必要がある。ドライバーコストを毎年1000万円とすると3年で通常の有人バスに対して有利になり、それ以降は有人バスよりも有利になりそうである。
無人運転でも監視員が必要
ウェイモやクルーズの無人タクシーの動画を見るとちゃんと無人で運転されていることがよくわかる。
ドライバーにかかっていた人件費がまるごとなくなると思うかもしれないがそんなことはない。
代わりに監視員の人件費が発生する。
waymoや cruiseには自動運転車両を遠隔で監視するチームが存在する。
ここで自動運転を語る上で欠かせないレベル分けについて確認する。ウェイモやクルーズはどのレベルになるかというとレベル3の自動運転になる。
ウェイモやクルーズがレベル4自動運転だと書いてあるものもあるが、人間のジェスチャーなどを判断するために人間が介入することがあるため正確にはレベル3自動運転である。
(リンク先は2021年のサイトで現在の状況は分からないが、無数にあるエッジケースに対応するために今でも人間による判断は必要であると思われる。)
となると、監視員1人で何台の自動運転車両を監視すればいいのかという話になる。監視員1人で1台を監視しているのでは絶対にUberやタクシーに勝てない。
1人で何台の車両を監視すればUberを超えるのか
先程求めた自動運転車両への改造コストと人件費を基に考えてみる。
改造コスト(3000万円、耐用年数5年)
Uberドライバー・監視員人件費(年間1000万円)
と考えると、1人で2台の自動運転車両を監視してUberと同じぐらいになる。インフラやエンジニアのコストを考慮すると3台以上の自動運転車両を管理することでUberより優れたサービスが提供できる可能性があることがわかる。
1人で何台の車両を監視できるかは、システム限界が発生する確率や、緊急事態が発生する確率、1人でいくつの車両内外の様子を監視できるかなど様々な要因を基に決める必要がある。
1人で何台の監視ができるのかについては、日本の永平寺町でも実証実験が行われている。
以下の画像のようにゆっくり動くカートのようなものでコースも2kmの直線区間である。1人で3台のカートを監視している。
公道を走る無人タクシーを運営するウェイモやクルーズは1人で3台の監視程度ではおそらく儲からないのでより多くの自動運転車両を監視する必要がある。
まとめると、
無人タクシーで儲けるためには、人間の判断を要求するタイミングを減らせるように自動運転の性能を上げることと、多くの自動運転車両を監視するための効率的な監視オペレーションを構築する必要があることがわかった。
稼げてないクルーズ、たぶん稼げてるウェイモ、稼げてるテスラ
公道でのレベル4自動運転は様々なエッジケースが存在するため実現が難しく、自動運転開発企業は遠隔監視でのレベル3自動運転で利益を出そうとしているということがわかった。
遠隔監視でのレベル3自動運転で利益を上げるためには、監視員1人あたり3台以上の自動運転車両を監視する必要があり、そのための高い自律性を持つ自動運転車両の開発と、監視員の効率的なオペレーションが必要だ。
ということで、自動運転界隈ではウェイモやクルーズが監視員1人あたり何台の無人タクシーを監視をしているのかが1つの注目点となってた。
2023年10月ニューヨークタイムズがクルーズに関する衝撃的な報道があった。
クルーズは1.5人で1台を監視していたのだ(1人で0.67台相当)。
さっき行った計算によると、1人当たり3台以上は監視しないとまずいということだったのに、1人あたり0.67台監視していたということはUberやタクシーに勝てるような技術レベルになっていなかったということである。クルーズは現在、人間を引きずってしまう事故を起こして運行を停止している。
それに対して2024年3月このようなニュースがあった。
ウェイモは営業面積で5倍以上にすることを発表している。
例えば、監視員1人で自動運転車1人を監視していた場合、単純に赤字を5倍にするようなもので合理的ではない。
つまり、既に監視員1人あたり3台以上の監視ができている状況なのかもしれない。
あまりにウェイモとクルーズに差がありすぎて逆に心配になってしまうが、天下のグーグルなので十分な性能の自動運転技術と監視オペレーションが完成していると信じたい。
最後にテスラのFSDに少し触れたい。FSDはフルセルフドライビングの略でドライバーをアシストするレベル2自動運転である。
FSDはテスラ車購入時のオプションになっていて、1万5,000ドルで付けることが可能だ。つまり、テスラは自動運転機能をオプションで売っていてゴリゴリに稼いでいる。
これまでにいくら稼いだのか計算してみる。
以下のツイートによると、2022年12月時点で28万5000人がFSDを購入しているらしい。
FSDの価格は変化しており、昔は数千ドルだったので、平均取得単価を8000ドルぐらいと考えると3000億円以上売り上げている。
『イーロン・マスク 下』 によるとテスラのオートパイロットチームは200人であることがわかる(この本はネットにはない情報がたくさんあって面白い)。
200人で3000億円以上売り上げているのであれば十分利益を上げられているのではないかと考えられる(もちろんここまで単純な話ではない)。
テスラは自動運転界では断トツで稼いでいる企業だ。
と、無人タクシーに関してはウェイモに期待!、頑張れクルーズ!ということで今回の記事は締めさせてもらう。
今後は「最適な自動運転アーキテクチャ?」とか、「何をもって自動運転車は安全か?」とか、「生成AIは自動運転に役に立つのか」みたいなnoteを書きたいなと思っている。。。
「無人タクシーは稼げるか」についてこんな情報もあるよーだったりここ間違えてまっせということがあれば是非コメント等で教えていただきたい。。。
でわでわー
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?