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夜のおもてなし

昔、学生演劇をやっていた時。
私は演出が欲しい音楽を集める担当。

演出にイメージを伝えられて、音楽を探すので、通常はこちらが知っている曲を提案することが多かった。だがたまに演出が希望の音楽を言ってくることがあった。その場合は、レンタルCD店を片っぱしから当たって探すことになる。

ある時、演出が希望の音楽を言ってきた。「この映画で流れていた、この音楽が欲しい」と。映画のサウンドトラックならば、簡単に見つかると思っていた。けれどその時は違った。VHSのビデオテープやレーザーディスクでも見つかったのに、CDでは見つけることが出来なかった。

VHSだと、テープが伸びて音が汚い可能性がある。レーザーディスクならきれいな音がダビングできるかも。。。

「でもいったい誰が、レーザーディスクプレイヤーなんて持ってんだ?」

会う友人にことごとく聞いても、持っていないと言う。でも可能性にかけて、聞き続けた。

聞ける友人も少なくなってきて、他の方法を考えた方がいいかもしれないと思い始めた頃、ダメ元で、ある友人に話をした。

するとその友人の実家にあると言う。喜んだものの、そんな高価な機材を、貸して下さるかどうかは分からない。でも可能性はゼロではないし、貸とりあえず聞いてくれるようお願いしてみた。

友人はそのことを親御さんに話してくれた。そして驚くことに、貸して下さることになった。

ただ機材の引き取りには、間に入ってくれた友人は来られず、劇団のメンバーと2人、車で伺うことになった。約束は、夜の20時くらいになった。

当日。

伺うお宅はかなり山がちなところで、おまけに初めて通る道。早めに出たものの、道に迷ってしまった。当時は車にナビがついているわけでもなく、携帯電話もない。公衆電話から、遅れる旨を友人のお母さんにお伝えして、地図帳で道を再確認しつつ向かった。

何とかたどりついたのは、夜の21時。仲の良い友達ならばまだしも、会ったこともない方のお宅で、この時間。恐る恐るインターホンを鳴らした。

すると出てこられた友人のお母さんは、笑顔で中へ招き入れて下さった。私たちは遅れてきたことをお詫びし、家の中へお邪魔した。

通されたリビングには、既に、テレビから外されたレーザーディスクプレイヤーが置いてあり、すぐに持ち出せるように準備してくださっていた。

遅かったし、お礼を言って、そのまま帰るつもりだったが、友人のお母さんは「お腹空いてない?」と言って、私たちを座るように促し、目の前に手作りの太巻きとおいなりを出してくださった。それも2人前とは思えぬ量。

驚く私たちをしり目に、友人のお母さんは、お茶を2人分、注いでくれている。私たちは、有難く頂くことにした。そして、がっついた。公演前の作業後、すぐに友人の実家へ向かったので、昼から何も食べていなかった。

そのあとの車中、おいしかった太巻きとおいなりの話で盛り上がり、一日の疲れはぶっ飛んだ。


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