#3 人体の構成要素:物質性、生命性、魂性、精神性

この記事では、葦江祝里が「言葉や身体感覚と結びついた生理学」のマガジンをお届けしています。今回は第3回。

前回の記事「鏡と言葉、色と空間」では、
日本語の母声発声にひもづいた五柱は、身体空間において、光、熱(火)、水、地の四元素と、四元素をつなぐ結び、全五要素を表していることを概観しました。

二足歩行のヒトは、人体の頭部(光)、胸部(熱=火)、腹部(水)、四肢(地)、それらをつなぐ脊柱のライン(結)として、空間的・感覚的に五要素を体験しています。

この五要素は、だるま落としのように五つが並んでいるわけではなく、頭部、胸部、脊椎、腹部、四肢の五坐(座とは空間的配置のこと)に、それぞれ五柱が働きかけています。それが5柱×5坐のマトリックスです。五柱の働きを見ていきましょう。
五柱の働きを見てから、それが人体においてどのように空間配置されているのかを見て、そこから頭部、胸部、腹部など実際の生理的な営みを紐解いていく流れです。

なぜこんな回りくどいことをしているかというと、「あたまで理解しないため」です。世界的な解剖学者三木成夫は、「しかけしくみの解剖学」ではあたまが主役になるのに対して、「すがたかたちの解剖学」ではこころが主役になる、といった。人の形姿をそのように形作った力の本質は何なのかを心でつかむために、魂や精神も含めた人の体を見ていきたいのです。

五柱の主な働きを表にしました。

FireShot Capture 092 - note生理学 - Google ドキュメント - docs.google.com

物質的な現象から人体の生理を見ていく従来の生理学では、人体を器官や器官系に分け、その構造や仕組みを知り、メカニズムを見ていきます。
言葉や身体感覚と結びついた生理学では、構造や仕組みをそのように与えている実質は何か、ヒトの心身全体の営みと生理学がどう関わっているのかを見ていくため、古来から宇宙生成を語ってきた枠組みを借りて、魂や精神も人体の構成要素として取り上げます。

物事の観察を物質的現象に限定することで科学的発展を遂げたのは、悠久の進化の中ではごく最近、19世紀以降のこと。以来、わたしたちはその恩恵を深く享受しつつも、わたしたちの心身はそれだけでは語りきれないことを直感的に知っています。

喜びや生きがいはどこにあるのか。もっとこうなりたい、これが欲しいという願いを抱いたとき、その力はどこから来るのか。
健康と病気の仕組み、死と生の間を見ていきながら、そういった魂の問いかけにも応えていけるような枠組みを用意しようとすると、現代生理学を古来からの宇宙生成神話で下支えしたほうが、より強度と深度が増すと考えています。

地柱の物質性:肉体

地柱の物質性は、鉱物に代表されます。地球は、核の大部分が鉄、マントルは二酸化ケイ素と酸化マグネシウム、大気は窒素、酸素、アルゴン、炭酸ガスなどから組成されています。宇宙には水素とヘリウムがたくさんあります。人体は、多量に必要な炭素、水素、窒素、カルシウム、リンのほか、硫黄、カリウム、ナトリウム、塩素、マグネシウムの少量元素、さらに鉄、フッ素、ケイ素、亜鉛、マンガン、銅、セレン、ヨウ素、モリブデン、ホウ素、クロム、コバルトなどの微量元素を必須としています。ヒト血漿中の元素濃度、人体中の元素濃度は、海水と似ています。人体において物質性をなす体を、肉体と呼びます。

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Na:ナトリウム、K:カリウム、Ca:カルシウム、Mg:マグネシウム、Zn:亜鉛、Fe:鉄、Cu:銅、Mn:マンガン 、Ni:ニッケル、Co:コバルト、V:バナジウム、Mo:モリブデン
出典:月刊うちゅう 2013年4月号 Vol.30 No.1 p.06-11 桜井 弘(京都薬科大学名誉教授)

水柱の生命性:エーテル体

生命の定義は多説ありますが、ここでは深入りせず、増殖と代謝を行なうものとします。子孫を増やし、栄養摂取して細胞を形成し、生命活動を営む代表は植物です。鉱物界と植物界の間には、細菌などの原核生物界、原生生物界があり、彼らの営みが代謝を支えています。
また細胞はその代謝活動に、光、空気、水を必要とし、ウイルスは他生物を利用して増殖しますが代謝は行ないません。
光は天柱の属性、空気は火柱の属性を持ちます。水は水柱の属性ですね。こうして見てみると、水柱の生命性には、光、火、水からの働きかけを受け入れ、肉体(鉱物)に命を与える実体があるようです。これをエーテル体と呼びます。エーテル体は、概念としての生命力や生命素材として名付けられたエーテルなどの曖昧なものではなく、受け入れ・与える微細器官としての体を指します。

火柱の魂性:アストラル体

火柱の魂性は動物に代表されます。植物との大きな違いは、神経系が発達していること。神経細胞(ニューロン)の連鎖によって作られる神経を通して、外部の情報の伝達と処理を行なっています。生体の外部からの刺激は、外皮の触覚や目や耳などの特殊感覚器官がこれを担い、生体内部環境のの営みは、自律神経系がこれを担っています。
動物と一口に言っても、クラゲやイソギンチャクのように散在神経系を持つもの、中枢化が進んだ神経系を持つもの、神経管の前端に脳を有する脊椎動物まで多岐にわたります。受け取った感覚を複雑に処理し、知覚に上げ、かつヒトのようにその情報を高度に思考する動物もいます。感覚器官を感覚体、感覚受容と、それを安全か危険か、栄養か毒か、快か不快かを表象する微細器官を感覚魂と呼び、感覚体と感覚魂を合わせてアストラル体と呼びます。微細器官は目には見えません。
これらの言葉の定義は、ルドルフ・シュタイナーの『神智学』(高橋巌訳/ちくま文芸文庫)によっています。

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天柱の精神性:自我

動物と人間を区別するのは、心身から受け取った感覚を「わたし」に関連づける働きがあるかどうかです。ヒトは、「わたしがいる」という意識をもち、感覚や感情、思考をもち、記憶をもち、それによって手段を用いることができ、幸福を求めて高度な文明を築いてきました。「わたし」に関連づける働きを自我と呼びます。自我に対応する器官は血液です。
血液は人体において、唯一の流動組織体です。人間の自我、つまり感覚や感情、思考を自分のものとして受け取る意識に、血液は体のどの組織よりも早く反応し、変化します。わたしたちの体験はそのまま、血液の動きとなるのです。
血液は体内で、他のすべての器官系に依存して巡っています。体のあらゆる器官は、血液が動物とは違う自我の表現になれるよう、長い進化の時をかけて準備してきました。
腕を地上から自由にし、骨盤を立てて絶妙な重心バランスを見出し、頭蓋骨を天に向け、自我体験を言葉に出せるようにしたのです。
人間だけがもつ自我の体験と表現の自由は、天柱の精神性の特徴です。

人体の形式には、
物質性:鉱物的な形姿としての肉体素材
生命性:植物的な形姿としての細胞増殖・代謝系
魂性:動物的な形姿としての神経系
精神性:人間的な形姿としての血液系

があることを見てきました。

次回は、中柱の働きを含めて、それらがどういうふうに「坐」に配置されているのか、体の植物軸、動物軸、そしてその二つを結ぶ中間軸について書きます。

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