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#10 「甘さ」の味覚障害が教えてくれたこと

写真は昨日の月と夜桜。3ヶ月前の元日に、#9 ふたつのエネルギー代謝システムと「祓い」の力を書いてから、はや桜の季節です。
この間、生理学noteをサボって何をしていたかというと、ケトン体をエネルギー代謝のメイン回路にする「自分のカラダ実験」をしていました。

いわゆる「ケトジェニック食」と呼ばれる方法です。言葉や身体感覚と結びついた生理学と言いつつ、今回の実験は、分子栄養学の領域。

「どんな食べ方がいいのか」は人によって異なるし、わたしは学者でもお医者さんでもないので、自分の施術や講座全般に言えることですが、次のようなことはやらないようにしています。

・現代科学で、古代の叡智の真実性を検証しようとすること
・特定のメソッドを、「正しい」ものとして教えること
・自分の理念やそれを裏付けるデータを掲げて啓蒙すること

シンプルに前置きすれば、ケトジェニックだろうがファスティングであろうが、場合によって適した時と適さない時はあるわけで、あくまでもわたしの一個人の体験ってことです。
ブログやnoteは、抽象化された見解ではなくて、一人ひとりの体験を発信するのが適してるよねって思います。

ケトジェニック食は、適度なタンパク質とカロリー源として高脂質を摂取し、糖質をメインエネルギーとする回路から、脂質をメインエネルギーとする回路にメインを切り替え、ハイブリッドさせる食事方法です。
オーバーカロリーや代謝の低下で内臓脂肪をため込んでいる場合、すみやかに体脂肪が落ちるので、ケトジェニック・ダイエットとも呼ばれています。

食べる内容がガラリと変わるので、1ヶ月ほど情報収拾して整理し、自分の体質や状況でできるかどうか、いま食べている内容や時間の観察と、それら全データの記録から始めました。

食べ物というより、アミノ酸やMCTオイルの摂取、その量の見極め、肝臓に負担をかけるのでそのケア、錆びついた回路を回すためのサプリメントなど、そういったことに手間のかかるやり方です。
その手間がいちばんの学びで、いちばんオイシイところ。

ケトジェニックを開始して、糖質をいきなりゴンと制限したら、甲状腺が悲鳴を上げ(ふだんから投薬してもFT3が低め)、低T3症候群になってしまいました。皮膚のかゆみ、髪の毛もいっぱい抜けて、つらかったなー。

糖質制限は、だいたいの目安がこんな感じ。
1. スーパー糖質制限:1日の糖質摂取量30〜60g
2. スタンダード糖質制限:70〜100g
3. プチ糖質制限:110〜140g
4. ロカボ:70~130g

ふつうに定食とか食べてると一食で糖質100g前後あったりします。ケトジェニックの導入期は、糖質を20g以下に抑え(食品に自然に入っている程度しか取れない)、枯渇させて、すみやかにケトン体が出るようにします。その後は期間や状態を見ながらだいたい50gほどに抑え、減った分を良質な脂質で補っていくのが通常です。(詳しい説明は専門家へ)

わたしは低T3症候群が出たので、いったんスタンダードの100gに戻し、治ってから、また徐々に減らしていって(徐々に減らすのが一番だるい)、スーパーな20g制限を1週間ほどやり、その後は一日60g、泳いだりたくさん運動する日は90gを摂っています。
ぜんぶ測ってアプリにつけているので、大変と思いつつ次第にマニアックな喜びに浸されていきます。

結果、この2ヶ月で体脂肪率が4%減量。体重は脂肪分しか落ちていないので、筋肉も保たれ、まあ成功かな、という感触。内臓脂肪の多い男性ならもっと大きく減量できるでしょう。
除脂肪よりメリットがあったのは、細胞の再生が明らかに前より活性化したこと。素材とエネルギーが揃って、体が喜んで働いているし、気分や感覚もとても良いです。

ただし、途中で糖質を摂る日を入れないと、体は基礎代謝を下げてくるかもしれません。わたしはOura Ringで睡眠、体温、心拍の変化を追っかけながら調整していました。

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今日のコンディションはこんな感じ。Oura Ringはわたしの睡眠時間がお気に召さないので、いつも「もっと寝ろ!」と叱られています。神経系がおかしくなって倒れそうになった三日前の金曜の夜は、如実に落ちている。代謝の波は、体温変化で確かめられます。

今日まで続けてみて、結論が二つ。
一つは、そろそろ実験のやめ時だなという感触が、ちゃんと内側で分かるようになったこと。
すべては波で、食も代謝もリズムなんだなあという思いが強くなりました。

もう一つは、これは意外な副作用で、人工甘味料によって「甘み」の味覚障害になったことです。

何に入っていたかというと、EAA(必須アミノ酸)のパウダー。
プロテインにしろEAAにしろ、元は美味しくない(というかアミノ酸は、体の中を嗅いだような味がする)ので、いろいろフレーバーがついています。

セールにつられて、ついフレーバーと甘みのついたのを買いましたが、1日、筋肉を保つためのEAAをチビチビと飲んでいたら、あれよあれよと言う間に舌がおかしくなり。
わたしが飲んだやつには、スクラロースが入っていました。

もう一つ、筋トレの動画を流しているトレーナーさんの中で素敵な人がいて、その日がお勧めしているプロテイン、これもあかんかった。

パッケージはキン肉マンでめっちゃ可愛いんだけど、甘味料はスクラロース、アセスルファムK。とくにアセスルファムは、口に入れた瞬間にヤバイ感じがする。

ふだんは、甘いもの食べるならちゃんとした砂糖で、お菓子よりご飯派のほうなので、こうやって糖質制限してみると、世の中にいつの間にか糖質オフ、糖類オフの謳い文句を掲げた食品があふれかえっていることに、ようやく気づきました。

糖質オフの代わりに入っているもの、超ヤバイ。

わたしの味覚障害は、甘さだけ。もったいないから捨てずに、ノンフレーバーと量を調節して飲んでいるから、そのうち治るでしょう(楽天的)。毒より体の回復力を信じる。

甘さといっても、油脂の甘さはまったく損なわれず、ちゃんと分かります。野菜のほんのりした甘さも分かる。だから、ケトジェニックに慣れて糖質が少なくても、味覚的にはほぼ困らない食生活です。おやつも2ヶ月たってみると、ほとんど欲しいとも感じなくなります。
お肉もお魚も野菜たちも、塩胡椒、ハーブ塩、酸味でめちゃ美味しい。

わたしの舌の上の「食卓の味わい」から何が消えたかというと、砂糖、人工甘味料、異性化糖と呼ばれるブドウ糖果糖液糖の甘さだけ。
果物は食べてないからわからないけど、少し試したら、果糖も分かっていない感じでした。ラカントも甘さを感じません。

今の科学では、舌にある甘味細胞は分子的に二種類あり、二つで一つの甘味物質を感受すると言われています。
甘味細胞の興奮が、いくつかの情報処理を経て脳へ伝わる、と。

砂糖のたっぷり入ったアズキ缶とか食べたらどうだろうと思い、買ってみたけど、ただただ、トロトロしたあずき色の液体でした。

完全に不味い、と感じるようになったのは、甘いものよりも、旨味として甘さが足されているようなもの。ソース、醤油の類は、甘さが消えてみて、「今までこれを旨味と脳は騙されて食べていたんだな」と思い知りました。

舌の受容体の問題というより、糖の甘味の意識が、脳のどこに働きかけているかの問題のように感じます。何かを騙し、騙されて、それを食べていたような。

なんやかや入った市販のソースはともかく、なんで醤油もダメなんだろう、大豆と小麦と塩しか入ってない、悪くないものを使っているのに。
菌ちゃんたちが小麦からブドウ糖を分解する、その甘みがないと、醤油はちょっとした地獄味です。

大豆のタンパク質は旨味を感じるアミノ酸やペプチドに分解されているはずなんですが、なんというか、アミノ酸そのものの味(上にも書いたけど、体の中を嗅いだような味)しかしません。

数年前のオーストラリアのドキュメンタリー映画『あまくない砂糖の話』を観ました。今もamazon primeにあります。これは、現代人の1日のシュガー摂取量(砂糖にして40杯分)を60日間摂り続けたらどうなるか、という「自分のカラダ実験」を記録したもの。

この実験のポイントは、ジャンクフード、甘いお菓子、甘いジュースはとらず、健康にいいよ、と宣伝されているような食品や飲料からとるということ。砂糖にして40杯分は、小さい角砂糖4gが160個で、カロリーは640kcal。低脂質、低カロリーで健康的だよという(今でもそう言われているかは不明)異性化糖もバンバン入っています。

結果、彼の飲み食いした砂糖たちはどんどん体脂肪へまわり、処理しきれなくなった肝臓が「もう無理!」と悲鳴をあげ、血糖値の乱高下で躁鬱気味になっていきます。

糖による甘さの感覚が鈍磨してから、あらためてこの映画を観たら、映画のメッセージである「わたしたちの脳は砂糖とそれを売る者に騙されている」という言葉が、よく分かります。

自分で記録して追っかける数字は、思い込みや言い訳が通用しません。
どんなエビデンスよりも雄弁に、わたしの、あなたの体調を語ってくれる言葉のひとつになりえます。

それは、ずっと数値がないとモニタリングできない、ということを意味するのではなく、わからなくなっていた体の声を聞けるようになったり、どこからどこまでが自分の適応範囲か、という波の幅が感覚でわかるようになるための、定点観測になってくれるということです。

カロリーも体温も体脂肪率、数字や平均値に意味があるのではなく、変化をつかむことに意味があります。
つかんでしまえば、手放してもいい。

でも、おもしろいからまだモニタリングは続けます。
味覚と、体内の栄養素について、もっと知りたい。

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