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主夫が提言するこれからの父親支援 〜『イクメン』世代のジェンダー観と男性問題〜 6

6 男女共同参画事業への提言


 この10年間、いろいろな行政の父親支援事業を請け負って来た。それはNPO法人として企画提案から関わった事業もあり、講師として受託した場合もある。それらの経験からこれからの父親支援、その中でも講座の企画についての具体的な考え方をご提案して、この文章の結びにしたい。
 まずは対象。これは誰よりも父親本人が優先だ。今現在、子育て興味関心がある父親に向けて、父親の子育てのメリットを伝えること。子育てに関わりたいけれど、職場の状況や妻との関係で育児に関わりにくい状況におかれている父親は多い。そんな父親たちが自信を持って子育てに関わるために背中を押せるような講座。
 父親講座で常に課題となるのが、参加するのはすでに子育てに意欲のある父親ばかりで、本当に届けたい子育てに関心のない父親が参加しないということだ。その課題は募集対象の書き方で緩和できる場合がある。父親を主な対象とするが、そこに母親も参加可とする。これが夫婦ともにいちばん申し込みがしやすい。主な対象を父親と書くことで、父親には自分のための講座ということが伝わりやすくなり、母親も可とすることで妻から夫を誘いやすくなる。
 それでも参加しない父親への啓発のために、母親向けの講座を実施するのも効果的だ。夫婦で子育てをされているのなら、夫婦で同じ講座を受けて共通認識を持ってもらうのが理想的。しかし、それが難しい場合は、別の方向からアプローチする方法がある。妻から夫を子育てに誘うためのコミュニケーション方法をお伝えする講座。平日に実施すると母親の参加がとても多い。無関心な夫に困っている妻がいかに多いかを実感している。この母親講座の中でも父親育児のメリットをお伝えすることで、妻が夫を遠慮なく子育てに巻き込む後押しができる。
 次に講座の内容や目的について。講座の内容を大きく2通りに分けてみる。ここでは家事・育児・遊びなどのジャンルではなくて目的で分ける。その講座を通して父子・夫婦に何を得てもらうのか、どう生活に生かしてもらうのかという目的。一つは父子の共有体験、もう一つは夫婦間の家事育児のシェアだ。
 父子の共有体験の内容はなんでも構わない。親子が一緒に楽しむ時間を作る。それは特別な遊びでもいいし、ごく普通の絵本読み聞かせでもいい。父と乳幼児が一緒に過ごす時間を作り、過ごす方法の選択肢をたくさん持つことによって愛着関係がより強くなる。それは乳幼児期の子供の安定につながり、将来の子供が思春期にさしかかり不安定になった時にも、父親として子供と関わるための土台になる。
 次に夫婦間の家事育児のシェアについて。これは主夫としての私見だ。男性向け料理講座の定番に『そば打ち』がある。そば打ちがいけないということではない。だけれどもそば打ちは家事ではない。家庭での家事を伝えるという意味ではあまり効果的でないと感じる。男女共同参画で父親支援の講座ならば父親が家庭料理を楽しむ内容にしていただければと思う。これは料理に限らない。全ての家事は特別なことではなくて、日常的に夫婦で取り組むもの。パパ料理研究家の滝村雅晴氏が勧めるトモショクProjectや、NPO法人tadaima!の家事シェアはこのような考えによるものだ。
 父親・夫婦・母親、それぞれを対象にしての父子の共有体験と夫婦間の家事シェアが、これからの『イクメン』に重要な支援だと考える。ただ、子育ては母親だけではできないし夫婦2人だけでもできない。これらに加えて祖父母世代に自信を持って孫に関わってもらったり、地域住民による子育てサポーターを養成したりするような講座を実施すれば、子育てに奮闘する父親母親への大きな支えになる。
 いずれにしても対象を明確にすることが重要だ。たとえば対象が父親ならばその父親が「自分のための講座」だと感じられること。それが結果的に父親の子育てを促進する最も強い力になる。たとえば私自身は12年前に『子育てパパ力検定』を自分のための検定だと勝手に確信して受検したことが、現在に至るまでの活動の原点になっている。

 私が主夫になったのは自分が子育てをしたいというごくごく個人的な動機からです。でもそこからはたくさんの壁がありました。もっと父親が自然に子育てを楽しめる社会にしたい。そのために家庭・職場・行政、様々な側面から応援をお願いいたします。

和田のりあき マジックパパ代表
「子どもがワクワクする大人になる!」が合言葉。小学四年生からマジックを独学。学生時代にはマジック道具の実演販売アルバイトでNo1の売り上げを記録。TVプロダクションに就職し報道カメラマンに。和歌山毒物カレー事件などで密着取材をする。娘の誕生をきっかけに主夫になり、保育士資格を取得。NPO法人ファザーリング・ジャパン関西理事長、保育園園長を経てマジックパパを起業。9年間で500回の子育て講座やイベントを開催。看護師の妻と長女次女の女系4人家族。
2019年度 吹田市立男女共同参画センター調査研究報告
男性問題から見る男女共同参画〜ジェンダー平等の実現と暴力・DVの根絶に向けて〜
に寄稿した記事の再録です。

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