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書評 「多様性」 by 冨田直子さん

冨田直子さんは、有限会社 Will Wind (ウィル・ウインド)を経営されているSDGsファシリテーターです。とても感性豊かな書評をいただきました。

多様性という心地よさ

素晴らしい本に出会いました。拙稿「SDGsのすごい会社」でも取材させていただいた長瀬土建さんを知るきっかけとなった、ドイツ在住、森林コンサルタント池田憲昭さんが、このたび、『多様性:人と森のサステナブルな関係』を出版されました。
拝読し、満たされた読後感に浸っています。森の家でしばらく過ごしてきたような、森林浴をしてきたような、そんな気持ちでしょうか。
多様性が認められた世界というのは、自分自身もありのままでいることを許された世界であり、その心地よさが、この本にはあるのだと感じます。
加えて、池田さんの文体がまた心地いいのです。音楽好きの池田さんにより、音楽になぞらえた表現が随所に出てきますが、それだけでなく、池田さんのルーツや、池田さんが森や人々と向き合う中で、森の時間に寄り添えるようになっていく一連のストーリーが、登場する人物や生き物たちと共に、美しいハーモニーとなって響いてきます。
今後、森について知りたいという人がいれば、私はまずこの本を薦めるでしょう。
誰もが親しめる平易な文で、森という多機能な存在が、全方位から紹介されています。ドイツで行われてきた近自然的森林業の話から、ドイツの森林官が羨むほどに豊かな土壌、木の成長量、生物多様性を持つ日本の森の可能性、そしてドイツに習い日本でも行われている道づくりからはじめる森づくりの取り組み、さらに地域に富をもたらす多様な木材産業の話から、生活とレジャーの場としての森林までと、あらゆることに触れられています。そして、先人たちの試行錯誤により、豊かで持続可能な森と社会の在り方がドイツにはすでにあるという事実は、私たち日本人に勇気と希望をくれます。技術的な内容もわかりやすくリズミカルに書かれており、日本の森の可能性にどんどんと心が躍っていくのです。
また、SDGsの本質を学べる本としても、大いにおすすめしたい一冊です。本書では、森を通じ、SDGsのいう不可分性を感じ取れます。環境視点だけではなく、人々が森林産業を通じてどのように豊かに暮らせるか、そして、森の幼稚園といった教育や福祉、心身を癒す「Shinrin-yoku」の広がりにまで話が及びます。
さらになんといっても300年前、ドイツの森でカルロヴィッツによって生み出された「サステナビリティ」という言葉に関する丁寧な考察が、この本にはあります。人類がサステナビリティの大切さに気付いていく過程と、多様性の意義に気づいていく過程とは、まるで右足と左足の関係にあるようです。一歩ずつ歩みを続け、叡智を積み重ねてきた結果今日があるのだということが、ドイツの先人たちが辿った森との向き合いを通じて描かれています。SDGs に関わるものとして、この原点に触れられる学びは大変貴重です。
また第5章「多様性のシンフォニー」で、脳神経生物学者ゲラルト・ヒューターの著作にあると紹介されている「脳の省エネ」の話は、多くの示唆に富んでいます。人類は、最大のエネルギーを消費する脳の「省エネ化」のために、この複雑で多様な世界をあえてシンプルに捉え、生き抜いてきたというのです。よって、二項対立化、整然と整理する、単作・一律で何かを育てる、といったことは人類の生存戦略の一つであるとのこと。大変興味深く、それゆえの進化もありましたが、何事も過ぎたればです。池田さんの書かれる通り、今の持続可能なソリューションの実践者の共通項は、多様で複雑な世界を「理解し、受け入れ、多様性を活用している」という下りには共感を持って読みました。多様であることを、むしろシンプルに楽しんでしまいたい、そんな思いが、読み進める中で湧いてきます。
SDGsのいう「誰一人取り残さない」世界に向き合うには、自然界(人間界も含む)における「多様性」への理解が欠かせないと感じてきましたが、本書はそれをもう一段深いレベルで問い直す機会を私にくれました。
誰もが、種の垣根を超えた生命の尊厳と向き合い、次世代を想う数百年という時間軸と共に、自分らしく、心地よく、豊かに暮らせる世界――。これからの自分の在り方、世界の在り方を考えていくためにも、何度も読み返したい本に出会えました。そして、森づくりへの思いを、また一層強く持ちました。
是非、多くの方に読んでいただきたい一冊です。
森に散歩にいくように、またページを開きたいと思います。
冨田直子

本の販売サイト:
https://www.amazon.co.jp/gp/product/B091F75KD3

本のイメージスライドショー:
https://youtu.be/ZmwJY3dijxk


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