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オンデマンド印刷のペーパーバックという選択

今春に出版した『多様性〜人と森のサスティナブルな関係』は、電子版と共に、オンデマンド印刷方式でのネット販売を採用しています。
ペーパーバックという耳慣れないものが何なのかわからない、という人も結構いますし、また「なぜ書店で売っていないの?」という質問も複数の方々からありました。
ここで詳しく説明します。
オンデマンド印刷は注文が入ってから、一冊づつ印刷して販売する方式です。通常ネットでの注文から2-4日で届きます。
ペーパーバックとは、印刷本の一種なのですが、欧米によくある少し大きめの文庫本のように、カバーがなく、ソフト表紙にそのまま表紙デザインが印刷されたものです。私は、本の表紙は読むとき邪魔になるので、すぐ取ってしまうので、個人的にシンプルで好きです。
ではなぜ私がオンデマンド印刷のペーパバックを、ネット大手に依存する形で販売する方法を選択したのか? 
森林・木材でも再生可能エネルギーでも、多くの人が利益を得られる地域分散経済をずっと推進してきた私が、これを選択したことに違和感を抱かれた方々が結構います。
背景はこうです。
本屋で売って地域経済に貢献したい気持ちはあるのですが、日本の「普通」の出版流通構造ですと、30-40%の本が返品廃棄処分になっています。それは雑誌と本を一緒に扱う日本の特殊な本の流通システムにあります。自分の本が、しかも木を使って作られた本が、3から4割、出版社に返品され(出版社は買い取らなければなりません)、焼却処分されるのは避けたかったので、オンデマンド出版を選択しました。いいソリューションが見つかる、構築するまでの当面の手段として。
日本の一般的な本の流通システムは、多くの出版社を経営難に陥いらせている一つの原因とされています。書店は、取次という仲買流通業者の自動化された流通プログラムに載せられて送られてきたものを書棚に並べて、売れなければ無料で返せばいいというシステムです。梱包された本が開けられもしないまま返品される場合もよくあるようです。
書店の自律心や個性が育ち難いシステムで、また、この流通システムでは、顧客の細かな特殊な需要に迅速に対応できない、という問題が何十年も顕在化しています。
他の国に比べて日本で出版される本が短命なのも、このシステムに起因している、という指摘もあります。出版社の多くが、返品される本の支払いを新刊の発売で補う、という悪循環に陥っています。せっかくの価値のある良い本が、数年で絶版になっています。
ここに書いたことは、数々の論文や記事に書かれていることです。日本の出版業界の特徴と問題についてドイツ語で書かれたウィーン大学の修士論文もあります。
一方で、この問題を解決するために、新しい流通ルートを開拓する出版社や、個性ある自律したマーケッティングをする書店の動きもあるようです。数の上ではまだわずかですが。
ネット大手だけに頼った出版・販売には、私は最後まで躊躇したのですが、資源の無駄遣いをして、出版社も書店も読者も筆者も幸せにしにくい構造を支援するより、ネット大手に依存して資源の無駄を出さない、絶版にする時期は自分で決められる構造を優先しました。
でも並行して、日本の美徳「無駄をなくす」を実践して書店にも並べられるシステムを探っています。
現在、森はNHKの朝ドラの舞台であり、多くの人たちから関心が注がれているテーマなので、おかげさまで、ここ2週間ほど、ペーパバック版は、売筋ランキングで部門1位のベストセラーとなっています(ランキングは1時間おきに変わります)。
できれば新書版(文庫本)も出版したいので、その時には、資源の無駄遣いがでない形で書店にも並べられるようにします。

書籍の販売サイト:
https://www.amazon.co.jp/gp/product/B091F75KD3


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