キングオブコント2024決勝直前に思うこと

 現在活動休止中の松本人志さんの代役として審査員に抜擢されたのはじろう(シソンヌ)だった。

 決勝を明日(10月12日)に控えたキングオブコント2024。M-1グランプリと並ぶメジャーなお笑い賞レースながら、この文章を書いているいま、世の中はあまり盛り上がっている感じはしない。というより、大会そのものへの関心が薄い感じだ。「誰が優勝しても特段、お笑い界に大きな変化はなさそうだ」。おそらく多くの人が多少なりともそうした認識を持っているのだと思う。「お笑いはM-1だけ見ておけば十分」、「スターはM-1から生まれる」。熱心なお笑い好きならともかく、そこまでではないライトな視聴者にとって、キングオブコントは絶対に見逃せない大会というわけではない。世間のムードを察するとそんな感じに見える。

 M-1が毎年華々しく見えるのに対して、キングオブコントは地味。ロングコートダディやコットンなど、例年に比べると今回のファイナリストにはそれなりに売れている顔は多い。一見、華はあるように見える。だが今回に限れば、審査員から松本さんが抜けた穴はそれ以上に大きい。緊張感、華々しさが少なくとも3割くらいは減った印象だ。今回新たに審査員となったじろうの抜擢も、あえて言えば大会の地味さに輪をかけた人選に見えてくる。

 もちろん、じろうを悪く言うつもりは微塵もない。というか、これは至極当然の人選だ。歴代優勝者のなかから新たに1人加えるならば、現時点では彼が最も相応しい。岩崎う大(かもめんたる)も十分できそうだが、あの顔ぶれに加えるには知名度的に少し難しい。ライスやジャルジャルはあまりそうしたタイプに見えてこない。コロコロチキチキペッパーズ、ハナコ、空気階段らは芸歴的にさすがにまだ早い。となれば、適任者は自ずと絞られてくる。3年前(2021年)に現在の審査員に刷新された際、「次点はじろうかな?」とは、筆者に限らずおそらく多くの人の頭をよぎった見解ではないか。今回のじろうの抜擢がごく自然に見えた理由だ。

 筆者のようなお笑い好きであれば誰が審査員になろうと大会への興味が薄れることはないが、そうではない人の場合はどうだろうか。たとえば発表の前から噂のあった内村光良さん(ウッチャンナンチャン)が仮にその代役になっていれば、少なくともいまよりもっと話題になっていたはずだ。こちらの現実的な希望は設楽統さん(バナナマン)だったが、その場合でも同様。両者ともタレントとしての華はじろうを大きく上回る。いまよりもう少し注目度は高まっていたような気がする。

 これはあまり言われていないことだが、近年のキングオブコントは常にその最高値を更新し続けている。早い話が毎年面白くなっている。具体的に言えば、審査員が刷新された2021年以降。空気階段、ビスケットブラザーズ、サルゴリラと、過去3大会の王者はいずれも時の大会記録を更新する点数を叩き出すド派手な優勝を飾っている。もちろん凄かったのは優勝者だけではないが、大会全体のマックス値が右肩上がりを続けていることは紛れもない事実だ。最高得点に関しては2019年のミルクボーイで止まっているM-1とは少し事情が異なる。今回誰にどんな点数がつけられるのかは本番のお楽しみだが、ここ最近の大会の流れからすると、再びとんでもない点数が出ないとも言い切れない。この緊張感のある審査こそ、普段の番組では見られない賞レース最大の魅力に他ならない。見逃しは禁物と思わず言いたくなる。

 しかし繰り返すが、大会への関心は決して高そうには見えてこない。松本さんのいない今回はとりわけそうしたムードを感じる。こじんまりした空気のなか、あっさりと終わってしまいそうな気配を感じる。滅茶苦茶面白い可能性を秘めているのに、多くの人に気づかれないまま通り過ぎようとしている。これではもったいないとは率直な意見だ。もちろん視聴率がどれほどのものになるのかはわからないが、少なくとも例年を大幅に超えるようなことはないだろう。内村さんのような大物が代役でない以上、新たなファンの関心を惹くことは難しい。内輪的なものになりつつある気がする。

 松本さん不在となるキングオブコントははたしてどのような盛り上がりを見せるのか。決勝戦に目を凝らしたい。

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