マンチェスター・シティ対パリ・サンジェルマン戦寸評。メッシがいるから勝てないパリ・サンジェルマン

 スコアは2対1。だが、この試合を実際にフルタイム観戦した人は、はたしてどんな印象を抱いただろうか。パリ・サンジェルマン(PSG)に先制を許したマンチェスター・シティ(マンC)が、その後鮮やかに逆転勝ちした見応えのある一戦。1点差の試合だったが、終始ホームのマンCがゲームをコントロールした、スコア以上の完勝劇だった。マンCが前半にあったチャンスをものにしていれば、3対0、あるいは4対1でもおかしくなかったと思う。両チームにはそれくらいの差が存在した。

 最終的なボール支配率は、55%(マンC)対45%(PSG)。だが、実際にはそれ以上の開きを感じた。この試合の前日、ベンフィカ相手に61%の支配率を記録したバルセロナよりも、遥かに良いサッカーだった。目に優しい綺麗なサッカー。偉そうに言えば、こちらの好みに100%合致した、まさに理想的なサッカーとなる。

 少なくとも前半、PSGにチャンスらしいチャンスはほとんどなかった。マンCの選手がよほどのミスをしない限り、あるいはPSGの選手がよほどスーパーなプレイを成功させない限り、PSGに得点が入りそうな匂いはしなかった。一方でマンCはその逆。いつ点が入ってもおかしくない、それくらい一方的にPSGを攻め立てた。

 それだけに、後半5分にエムバペが奪ったPSGの先制点は、正直予想外だった。ネイマール、メッシ、そして得点者のエムバペという、自慢の豪華3トップが絡んだ、劣勢のチームに希望を与える得点。そして、この得点をきっかけに試合は一段と面白くなっていった。

 試合を優位に進めながらも先制を許した、ホームのマンC。だが、PSGの先制ゴールは、メッシが送った横パスがマンCのディフェンダーにわずかに当たり、コースを変え、右サイドに構えるエムバペの足元に入るという、いわば不運な失点だった。

 並のチームならこのまま気落ちしていたかもしれない。ズルズルとPSGのペースになっていったかもしれないが、この日のマンCにそうしたムードは皆無だった。彼らに慌てた様子は一切なかった。

 ここでマンCのグアルディオラ監督が見せた采配も、チームの逆転を呼び込む、効果的な一手だったと思う。先制点を奪われた4分後、オレクサンドル・ジンチェンコに代え、ガブリエル・ジェズスを投入。0トップ役としてセンターフォワードのポジションを務めていたベルナルド・シウバを、それまでジンチェンコがいたMFのポジションに下げ、代わりに入ったジェズスをセンターフォワードに据えた。ベンチに下げる選手と異なるポジションの選手を投入する、いわゆる戦術的交代だ。

 マンCの基本布陣は、本格的なセンターフォワードを置かない、0トップ型の4ー3ー3。その中でも筆者が最も目を奪われるのは、4ー3ー「3」の「3」の両ウイングが、タッチライン際に常に大きく開いて構えているところになる。この試合で言えば、右がリヤド・マフレズで、左がラヒーム・スターリング。そしてその後ろには、両サイドバックが彼らを高い位置でサポートしている。展開が詰まれば逆サイドへ。パスの出しどころに困れば、とりあえず両サイドへ。この両ウイングにボールが収まれば、数秒間はキープできる。仮にボールを奪われても、自軍ゴールからは遠いので、簡単にピンチになることもない。この両サイドをうまく使ったパス回しこそ、試合がマンCペースで進んだ大きな理由になる。

 同点弾となった1点目は、敵陣深くに飛び込んだ右サイドバックのカイル・ウォーカーからの折り返しを、中央のジェズスがコースを変え、その奥にいたスターリングが押し込んだもの。前半から執拗に続けていた、まさにサイド攻撃により生まれた産物になる。圧巻だったのは逆転弾となった2点目。右サイドのマフレズから左サイド奥のベルナルド・シウバへ、そしてその折り返しをジェズスがシュート。右、左、真ん中。幅を十分保っておいて、PSGの真ん中の守備の間隔が少し空いた所を突く。このマンCの2点目は、相手を攻略する得点のお手本のような道筋を描いていた。まさに完璧なゴールだった。これぞマンC。そして、グアルディオラ監督が目指す理想のサッカーとも言える、美しい展開からのゴールだった。

 一方のPSGの布陣も、マンCと同じく4ー3ー3。だが、こちらはマンCとは違い、そう言われなければ、4ー3ー3には見えてこない。その布陣図は、多くの時間、ほぼ崩れた状態にある。それは、4ー3ー「3」の「3」を務める3人のポジショニングに問題があるからだ。

 右・メッシ、中央・エムバペ、左・ネイマール。基本的にはこの形だが、なかでもメッシのポジショニングは率直に言って酷い。これは今に始まった話でもないが、メッシが1試合を通して右サイドにいる時間はかなり少ない。その8割方は、たいてい真ん中付近にポジションを取っている。つまり、右サイドバックが上がらない限り、PSGはサイドの高いポジションにボールを運ぶことができないのだ。よって、サイド攻撃やサイドチェンジが決まることもほとんどない。高い位置でもサイドチェンジを何本も決めた、マンCとの大きな違いになる。

 自由に動き回るメッシ。その穴をカバーしようと、エムバペが気を利かせて右サイドに流れることもある。だが、エムバペ一人が頑張るだけでは、この穴を埋めることはできない。メッシの逆サイドにいるもう一人のスターにも、自由に動き回る癖があるからだ。

 左サイドで構えるネイマールにも、メッシほどではないが、ポジションに頓着のない自由奔放な動きが目立つ。よって、PSGの3トップの3人が、その本来のポジションに位置していることはほとんどない。本来3つあるはずの攻撃ルートは、大抵2つ、あるいは全員が重なって真ん中の1つのみになりがちだ。この試合でPSGのチャンスが得点シーン以外ほぼなかったことと、これは深い関わりがある。

 さらに言えば、メッシ、そしてネイマールの守備力はかなり低い。活躍するのはほぼマイボール時のみ。いわゆるプレッシングに貢献できないので、相手ボール時、PSGは常に2人も「死んだも同然」の選手が発生することになる。得点の期待を抱かせるプレーをしてくれるのならばまだ納得できる話だが、そうでない場合は、かなり困った話だ。マンCの前線と比較すれば、その相手ボール時への対応は一目瞭然になる。
 
 メッシはもはや特別な選手ではない。この試合を見ていると、とりわけそう思った。「さすがメッシ!」と思わず、感嘆するようなシーンはほぼゼロ。今シーズン前の大型補強が話題を呼んだPSGだが、正直言って、メッシの獲得に関しては首を傾げたくなる。今のメッシに、PSGをチャンピオンズリーグ優勝に導くような活躍を期待できるかと言えば、明らかにノーだ。もちろんボールを持てば依然として怖い存在ではある。だが、ポジショニングの悪さやプレッシングへの貢献度などを天秤に掛ければ、そのメリットよりもデメリットの方が圧倒的に目立つ。

 もちろんこれは確率の問題だが、メッシ的な選手はもはやこの世界で通用しづらくなっているとは、こちらの見解になる。ネイマールしかり。クリスティアーノ・ロナウドしかりだ。スター的な気質を持つ選手は、もはや時代遅れなのか。

 一方のマンCに「メッシ」や「ネイマール」、「クリスティアーノ・ロナウド」はいない。スター不在。独特な臭いを持つ、ある種の特別な選手は皆無だ。チーム一のスター選手、ケビン・デブライネが欠場したこの試合では、とりわけそうした傾向が強かった。真面目で勤勉。そして、監督が掲げる理想のサッカーを忠実に実践してみせた。

 一時期、メッシやクリスティアーノ・ロナウドの加入が噂されたマンCだが、彼らの獲得を逃したことを果たしていまでも悔やんでいるだろうか。むしろ獲得しなくてよかった。おそらくこれが本音ではないか。この試合を欠場したジャック・グリーリッシュ(今季加入)の方が、僕には正解に見える。チームにとてもうまくハマっている。

 この日のマンCは欠場者多数。というわけで、選手交代も1人しか行えなかった。だがそれでも、ほぼベストメンバーのPSG相手に、試合内容で圧倒した。誰が出場しても、特段チーム力は変わらない。同じ金満クラブのPSG相手に、まさに選手層の差を見せつける形となった。

 この日、同時刻に行われたグループAのもう一試合でグラブ・ブルージュがライプツィヒに敗れたことにより、グループ2位での通過が確定したPSG。だが今のままでは、少なくとも優勝はない。今のメッシの使い方では、その先は見えている。彼に相応しいポジション(0トップ)を用意するか、それとも思い切ってスタメンから外すか。マウリシオ・ポチェッティーノ監督の手腕に注目したい。

 昨シーズンの準優勝チームと、一昨シーズンの準優勝チーム。ともに初優勝を目指す今シーズンの戦いだが、果たして勝利の女神が微笑むのはどちらか。個人的には、決勝トーナメントでの再戦に期待したい。

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