キングオブコント2023決勝展望

 今週の土曜日(21日)に迫ってきたキングオブコント2023決勝。その優勝者を予想するのは難しいが、準決勝の戦いを視聴した者としては「過去最高レベルの大会になるのではないか」と思わず言いたくなる。これは予感というより、むしろ確信に近い。少なくとも期待値は過去最高レベルだった昨年を大幅に上回った状態にある。それほどに僕はこの決勝戦を楽しみにしている。

 ゼンモンキー、隣人、ファイヤーサンダー、カゲヤマ、サルゴリラ、ラブレターズ、蛙亭、ジグザグジギー、や団、ニッポンの社長。以上10組が決勝を戦う顔ぶれだが、個人的な予想では、10組は下記のように大きく3つに分類される。

第1グループ(優勝候補)=ジグザグジギー、カゲヤマ、ニッポンの社長

第2グループ=ファイヤーサンダー、隣人、ラブレターズ、蛙亭、や団

第3グループ(ダークホース)=サルゴリラ、ゼンモンキー

 筆者の好みも少し入っているが、準決勝で目にしたネタの出来やそれぞれの知名度などを踏まえると、だいたいこんな感じになる。もちろんあくまで予想なので、当たる要素もあれば、当たらない要素もある。前回は優勝候補筆頭と予想したニッポンの社長がまさかの最下位に沈んだり、ダークホースと思われたや団が3位に食い込んだりと、まさに予想外の連続だった。そしてその象徴がビスケットブラザーズの優勝になるわけだが、今回もそうした番狂わせは少なからずは起こるはず。そのムードをいまこの時点で感じるのは誰か。そして気になる各グループの情勢や決勝戦の展望などを、(個人的に)期待値の高い順に1組ずつ触れていきながら今回詳しく述べてみたい。

○グループ名(所属事務所)[決勝出場回数]

・ジグザグジギー(マセキ芸能社)[7年ぶり3回目]

 準決勝視聴後のこの欄でも記しているが、今回の準決勝で筆者が最も面白いと思ったネタを披露したのがこのコンビになる。準決勝2日目に披露した例のネタは、はたして決勝の舞台で目にすることはできるのか。そしてその出来栄えと反応はいかに?。決勝戦の大きな見どころのひとつと言ってもいい。
 筆者はジグザグジギーを今回の優勝候補の筆頭に推しているわけだが、それは予想というよりもむしろ願望に近い。できれば彼らのようなタイプの芸人に優勝してほしい。これまであまり目立ってこなかった、いわゆる職人系のタイプ。ここで優勝する以外に活躍の道が開けそうにない、地味ながらも実力派の芸人と言ってもいい。
 例えばジグザグジギーと同じく優勝候補に推しているカゲヤマは、仮に今回優勝を逃したとしても、大会後のバラエティ番組で活躍しそうなムードがすでに漂っている。筆者は「ラヴィット!」(TBS)ですでにその片鱗を視聴済みだ。また4年連続4度目の決勝となるニッポンの社長も同様に、たとえ優勝を逃したとしても、すでにある程度売れている彼らにそこまで大きなダメージはないだろう。
 だが、マセキ芸能社所属のジグザグジギーは違う。最低でも優勝を争うくらいでなければ、キャリア的にもこの先の階段を昇ることは難しくなる。今回はまさにそうした中での決勝進出だった。ネタが仕上がっている今回は彼らの芸人人生でおそらく最大のチャンスではないか。準決勝のネタを見ると思わずそう言いたくなる。
 そんなジグザグジギーに筆者が良い匂いを感じたのは、キングオブコント準決勝の少し前。6月28日放送の「ラヴィット!」で彼らの姿を見たときだった。「ジグザグジギーなかなかいいな」とはその時抱いた感触になるが、結果はその3ヶ月後にキングオブコント決勝進出という形で早くも目の前に現れることになった。個人的にはボケ担当の宮澤聡にどことなく面白そうな匂いを感じる。
 あのバカリズムやナイツも果たせなかった、マセキ芸能社初のメジャー賞レース王者が誕生するは高い。彼らが良い順番で登場することを祈るばかりである。

・カゲヤマ(吉本興業 東京)[初出場]

 決勝を前にこんなことを言うには勇気がいるが、カゲヤマはブレイクする。優勝するかどうかはさておき、その露出が大会後に大幅に増えることは間違いない。前回決勝を戦った同じ吉本所属のいぬ(前回決勝9位)より、期待値は明らかに上だ。
 ネタは2本とも外れる可能性は低い。それこそ優勝しても不思議はない出来だった。2本ともネタが面白いとなれば、上位進出は固い。そこで想起するのは、前回準優勝のコットンだ。彼らもまた前回の準決勝では質の高いネタを2本披露し、決勝の舞台でも安定した戦いぶりを見せたことは記憶に新しい。
 コットンはご承知の通り、昨年のキングオブコント準優勝後に大ブレイク。いまやヒルナンデスのレギュラーに抜擢されるなど出世街道を邁進しているが、カゲヤマははたしてどうなるか。決勝での結果次第だが、少なくともビジュアルではコットンに劣る。タイプ的には汗かき役というか、イジられ役が似合うタイプに見える。また、ネタにもそうした要素はふんだんに詰まっている。「ラヴィット!」でもお馴染みの益田康平は、大会後にはそうした体を張るリアクション芸人的な道に進むのではないか。
 そのスタイルをひと言でいえば、直球。ストレート。変化球では全くない。だが、パワーは十分。良いタイミング(順番)で彼らが登場すれば、爆発が起こる可能性は高い。というわけで筆者は優勝候補に挙げているわけだが、願わくば優勝よりも大会後に売れて欲しいという気持ちのほうが強い。「ラヴィット!」以外の場所でも彼らの活躍を見てみたい。そして繰り返すが、その活躍度は決勝での結果に正比例する。
 理想的な出順は6〜7番目。今大会の行方を左右する1組だと考える。


・ニッポンの社長(吉本興業 東京)[4年連続4回目]

 名前的にも経験値的にも、今大会の大本命。さらに今回はネタは2本とも大丈夫そう。にもかかわらず(優勝予想の)3番手に落ちる理由は、その前評判の高さに他ならない。
 決勝進出は今回で4回目。しかも4年連続だ。今回のファイナリストの中では1番の常連組。言い換えれば、最も正体が割れているコンビである。決勝戦初出場のカゲヤマ、そして7年ぶり(3回目)の決勝となるジグザグジギーとは、その新鮮さという点で大きく劣っている。ネタの面白さは同じくらいでも、その辺りは常連のニッポンの社長には多少不利に働く可能性がある。
 とはいえ、だ。そうした不利な要素を圧して余るほど、今回のニッポンの社長のネタは仕上がっている。台詞を飛ばすとか、音響のトラブルとか、よほどのミスがない限り、前回のような空振りは考えにくい。だが逆に言えば、今回4度目のこの機会を逃せば、その優勝は今後さらに難しくなるだろう。実力的には十分足りていても、それより先に賞レースを戦う芸人としての賞味期限が切れてしまう可能性がある。そうした意味でも彼らは目を凝らすべき存在なのだ。
 ニッポンの社長が優勝できそうなチャンスは今回が最後ではないか。そこで個人的に少し不安になるのが、彼らの出番順だ。過去3回におけるそのファーストステージでの出番順は、8番(2020年)、5番(2021年)、9番(2022年)と、いずれも悪くない順番だった。つまり今回は、天の配剤に従えば、早めになる可能性は高い。仮にトップバッターを引き当ててしまっても、文句は言えない状況にある。
 繰り返すが、ネタバレなどがない限り、今回のネタに問題はおそらくない。彼らの結果を左右する最大のポイントは、その出番順にあり。トップバッターのほうが逆に面白いかもしれないが。

・ファイヤーサンダー(ワタナベエンターテインメント)[初出場]

 名前的には無名だが、その経歴をよく見るとそれなりの実力派であることがよくわかる。準決勝で見せたネタはまさに彼らの実力がよく発揮された、2本とも目の付け所が光るセンスのいいネタだった。少なくとも最下位はなさそうに見えるが、上位3組に入るにはやや微妙という感じか。だが、その決勝進出は文句なし。僕的には4〜5番手という感じだが、この辺りのグループの評価が実際にどう出るかが最も読みにくい。彼らが収める結果が、今大会のレベルの高さを推し量るバロメーターになるのではないか。個人的にはそんな気がする。
 妥当なラインは4位から6位の間。3位以上に入れば大健闘。

・隣人(吉本興業 大阪)[初出場]

 知る人ぞ知る隠れた関西の実力派が、ついにこの舞台にやってきたという感じだ。はたして準決勝で披露した例のネタを審査員たちがどう評価するか。インパクトと技術を兼ね備えた、予想がしにくいタイプのネタ。今回の決勝戦を混沌とさせる曲者であることは間違いない。

・ラブレターズ(ASH&Dコーポレーション)[7年ぶり4回目]

 お笑い好きなら知っている身長160センチ台のちびっ子コンビが、再び決勝の舞台に戻ってきた。同じく4回目の決勝進出のニッポンの社長とは違い、こちらは2016年以来の7年ぶり。加えてその過去最高成績は7位(2011年)と、これまで決勝の舞台で存在感を存分に発揮してきたかといえば、正直ノーだ。活躍が目立つのはゴッドタンとか深夜のラジオとか、いわゆるそちらの方面ばかり。その所属事務所(ASH&Dコーポレーション)も、彼らの特異性、異端性に輪をかける。当たり前の話だが、いわゆる吉本っぽさはゼロ。今回久しぶりの決勝進出となったわけだが、そこでこれまでの燻りを吹き飛ばすような活躍をしそうかといえば、微妙だ。ゴッドタンなどを見る限り面白いことはわかるが、なんといおうか、面白さがわかりにくいのだ。ネタもそうした傾向にある。悪役というわけではないが、少なくとも万人から好かれそうなタイプには見えない。準決勝でのウケは良かったので決勝進出は妥当に見えるが、ネタに関しては少なくとも筆者の好みからは少し外れている。僕はどちらかと言えばわかりやすくシンプルであっさりしたネタのほうが好みになる。ラブレターズを強く推せない理由に他ならない。
 個人的に決勝で確認したいのは、配信では途中で無音の部分があった準決勝2日目のネタ。こちらの方がウケも良さそうだったので、できれば決勝で披露してもらいたい。

・蛙亭(吉本興業 東京)[2年ぶり2回目]

 言わずと知れた人気者。今回のファイナリストのなかでは、おそらく知名度はダントツだろう。2年前、初出場の決勝ではトップバッターという悪いクジを引いたが、今回はたぶん大丈夫のはず。準決勝ではネタは2本ともにウケがよく、決勝進出はそのネタ終わりからなんとなくだが見えていた。とはいえ、個人的な好みで言えば、僕にはあまりそのネタは面白く見えてこない。蛙亭がすでに全国クラスの売れっ子になってしまったということもあるが、それを差し引いても、なんというか、いまいちハマらないのだ。もちろん嫌いではないのだが、まるでエアポケットに置かれたように、彼らのネタがそれほど面白くは見えてこない。その要因はハッキリとはよくわからないが、強いて言うならば、少しわかりにくいところだろうか。先述のラブレターズ的と言ってもいい。少なくとも“あっさり”ではない。その辺りがネタを作っているイワクラの特徴なのだろう。だが今回はそれに加えて、前回優勝したビスケットブラザーズ的な、いわゆるキャラクターのインパクトを活かしたタイプのネタになっている。中野周平が演じるそのコントのキャラがはたしてどれほどハマるのか。ハマれば3位以上もあり得るが、ハマらなければ下位に沈む可能性もある。正体がバレている人気者にも関わらず結果が想像しにくい困った存在といえば失礼だが、そこは決勝戦でのお楽しみにしたい。

・や団(SMA NEET Project)[2年連続2回目]

 昨年の決勝戦。何を隠そう、初出場のや団について、その決勝直前に筆者は「(準決勝)1日目のネタであれば、マックス3位通過もあり得ると見る」と述べている。そして決勝では、戦前にこちらの言った通りというか、想像した通りの結果(3位)となった。
 今回、昨年に続いて決勝に進出したのは、ニッポンの社長とや団の2組のみ。ニッポンの社長は準決勝を見た限り少なくとも昨年より期待できる。ではや団はどうかといえば、率直に言って前回よりも落ちるとはこちらの見解だ。甘く見ても横ばい。前回(3位)を越える可能性は高くないと考える。
 繰り返すが、や団は2年連続の決勝進出だ。前回のネタは当然ながら、昨年と同じ顔ぶれである審査員5人の頭の中には入っている。つまり、前回より面白くなければ点数は当然低くなるわけだ。それが5人同時に行われれば、得点は一気にガクンと落ちる。あくまでなんとなくだが、そうした光景がこちらには浮かんでくるのだ。
 その手の内はすでにバレている。とすれば、ややワンパターンになりがちな彼らのネタは途端に危なく見えてくる。準決勝では前回を越えそうなインパクトをこちらに与えることはできなかった。前回好成績を収めたグループが、翌年の決勝で空振りに終わるのはキングオブコントではよくある話だ。
 はたして結果はどちらに転ぶのか。少なくとも優勝はない。や団には申し訳ないが、今回最下位の可能性が最も高いグループとはこちらの見立てである。

・サルゴリラ(吉本興業 東京)[初出場]

 サルゴリラと言われて真っ先に想起するのは、元々は「ジューシーズ」というトリオ(3人組)だったということ。アメトーークなどにもよく出演していた松橋周太呂がトリオから脱退したことにより、残った赤羽健壱と児玉智洋による幼馴染2人によって結成されたコンビ。メンバーの児玉はコンビの名付け親でもある又吉直樹との関係が深いことでも知られているように、トリオ時代も含め、吉本ではそれなりの活躍をしてきた、いわゆるベテランの部類に入る芸人になる。年齢は両者ともに今年で44歳。意外にも今回の彼らによってファイナリストの大会最年長記録は更新された。最近はM-1での錦鯉の活躍もあってかこうしたベテランファイナリストへの驚きは少ないが、トリオの解散なども踏まえても、彼らがこれまで陽の当たらない芸人人生を送ってきたその苦労ぶりが偲ばれることに変わりはない。
 トリオ時代も含め、こうした賞レースでの決勝進出は初。最年長ながらもダークホース的な存在というわけだが、今回のネタは率直に言って優勝するレベルではないとはこちらの見立てだ。ひと言でいえば、可もなく不可もなく。つまらなくはないが、底抜けに面白いという感じでもなかった。M-1の決勝に初めて進出したときの錦鯉のような、特別な魅力は特段感じなかった。
 直感で言えば下位候補。僕の予想はこうなるが、サルゴリラにとっては、今回決勝に進出したこと自体が本来快挙に値するのではないか。決勝の結果はどうあれ、その後にある程度は与えられるであろうチャンスの場でしっかりと活躍することのほうが、ある意味では重要だと僕は思う。下馬評を見ても、優勝する可能性は低い。ならば今回はいっそのこと顔見せ程度の気楽な気持ちで挑んだ方がいい。ボケ担当の児玉はどちらかと言えばリアクション系の芸人に見えるが、ツッコミ担当の赤羽はなんとなく芸人としてのスジがよさそうなタイプにも見える。44歳は確かにベテランではあるが、近年ではまだギリギリなんとかなりそうな年齢だ。変に欲張らず、伸び伸びとした姿でネタを披露してほしい。

・ゼンモンキー(ワタナベエンターテインメント)[初出場]

 サルゴリラと同様、知名度の低いダークホース候補だが、こちらはいわゆるファイナリスト最年少。今大会唯一の20代のグループになる。とはいえ、その名前は少なからずお笑い好きの間には浸透していた。筆者がゼンモンキーを初めて見たのは何年か前の「ENGEIグランドスラム」(フジテレビ)だったと記憶するが、そこに出演したこと自体に彼らへの期待値の高さを窺い知ることができた。思ったよりも早く結果を出したなという印象だ。
 キングオブコント、ワタナベエンタ所属、トリオ芸人と言えば、真っ先に想起するのは2018年に優勝したハナコだろう。当時のハナコも全国的にはほぼ無名の若手だった。今回のゼンモンキーとその立ち位置は似ている。ハナコはそこで優勝をはたしたことで一気に出世街道を歩むことになったわけだが、今回のゼンモンキーがそんな先輩トリオに続くことができそうかといえば、正直なところ難しいと言わざるを得ない。
 なんと言っても今回は相手が強い。ゼンモンキーのネタも悪くはなかったが、他の9組を退けるほどのパワーがあったかといえば、ノーだ。あくまでも準決勝で見たネタに関してだが、このレベルで優勝できるほど近年のキングオブコントは甘くない。
 スタイルはあえて言えばオーソドックス。「3人」という武器を活かしたネタであることは間違いない。だがその人数の分だけ自ずと採点は厳しくなりがちだ。少しでも物足りなければ、「3人ならもっとやれるだろう」という思いが視聴する側の頭には確実によぎる。ハナコをはじめ、東京03やロバートといった、過去の王者トリオのイメージも少なからず浮かんでくる。同じく今回のファイナリストのや団も含め、トリオへの採点も今回目を凝らすべきポイントになるだろう。
 同じトリオであるや団との対決、そして同じ事務所所属のファイヤーサンダーとの対決で、軍配が上がるのははたしてどちらか。6位以上でも大健闘に値すると僕は思う。

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