初戦ザンビアに大勝も良し悪し。W杯なでしこジャパンの行方を占うポイント

 筆者はサッカー好きではあるが、女子サッカーを日頃から常にチェックしているというわけでは全くない。目を凝らすのはせいぜいW杯や五輪の時くらい。早い話、女子サッカーに関しては完全にミーハーというわけだ。

 今回のW杯メンバーでも顔と名前が一致するのはせいぜい6〜7人。登録選手は23人なので、チームの半分以上はあまり知らない選手たちになる。それなりのサッカーファンである筆者がこの程度の情報量であれば、特段サッカーに詳しくない視聴者の知識量は推して知るべしである。

 日本で女子サッカーに大きな注目が集まったのは、言わずと知れた2011年のW杯優勝だ。サッカー女子日本代表、通称なでしこジャパン。大会で活躍した(優勝に貢献した)その中心メンバーたちは当時一躍、時の人となった。大会MVPを獲得した主将の澤穂希を筆頭に、宮間あや、丸山桂里奈、川澄奈穂美、永里優季等々、それなりにキャラの立つ選手も多く、チームも含め国民的な人気を獲得したことは記憶に新しい。

 W杯優勝の翌年(2012年)に行われたロンドン五輪では決勝でアメリカに敗れたものの、過去最高成績となる銀メダルを獲得。俗に言う“なでしこフィーバー”が巻き起こったのは、W杯で優勝した2011年7月から2012年末頃までの出来事になる。その後2015年W杯までは大きな大会こそなかったものの、メディアに取り上げられる機会もある程度キープしながら、それなりの人気を保つことはできていたと記憶する。迎えた2015年のW杯でも決勝まで勝ち上がり、再びアメリカと相まみえた。結果は2-5で完敗。W杯連覇こそならなかったが、当時の戦力を考えれば、準優勝でも十分すぎる成績だった。

 2011年ドイツW杯優勝、2012年ロンドン五輪銀メダル、2015年カナダW杯準優勝と、立て続けに好成績を収めたなでしこジャパン。その好成績と女子サッカーへの注目度はまさに比例関係にあった。なでしこジャパンの活躍が続く限り、女子サッカーの人気が急激に落ちることはなさそうに見えた。少なくともこの頃は。

 2011〜2015年までと比べれば、2016年以降から現在に至るまでははたしてどうだろうか。時が経つにつれ栄光のW杯優勝メンバーが次々と去っていくなでしこジャパンに対し、それまでと同じような熱量で彼女たちに目を凝らすことができた人は決して多くなかったと思われる。それくらい女子サッカー界にとって、2016年リオデジャネイロ五輪の出場権を逃したことは痛かった。本大会のグループリーグ落ちではなく、五輪に出場することすらできなかった。言い方は悪いが、なでしこジャパンの転落が始まったのはここからになる。

 リオ五輪予選敗退をきっかけに、およそ8年間監督を務めた佐々木則夫監督が退任。新しく高倉麻子監督が就任すると、それに伴いメンバーも徐々に変わっていた。2019年のフランスW杯、2020年(実際に行われたのは2021年)東京五輪は、そんな高倉監督の元で挑んだ大会になる。結果は2019年W杯がベスト16で、東京五輪はベスト8。かつてに比べると見劣りする成績であることは事実である。一度離れてしまった人たちを再び振り向かせるには少々難しい成績と言い換えてもいい。

 「なでしこジャパンは澤や宮間がいた頃のほうが強かった」。「いまは知ってる選手がいないから、その分昔より弱くなった」。そうした声もたまに耳にする。またそう言いたい気持ちもわかる。だが、はたしてそれは本当なのか。2016年のリオ五輪予選敗退はともかく、前回4年前のW杯(2019年)と2年前の東京五輪の戦いぶりは、少なくとも僕の目にはそう悪くは見えなかった。前回フランス大会のベスト16で日本が敗れた相手オランダはその後結果的に準優勝を果たした強豪だ。その4年前の1-2という敗戦は日本にとって惜しい試合だった。また東京五輪でも似たようなことは言える。日本とグループリーグで対戦して引き分け(1-1)たカナダは、最終的には決勝まで勝ち上がり見事金メダルに輝いている。さらには日本を準々決勝で破った(1-3)スウェーデンも決勝に進出したファイナリストだ。スウェーデン戦も日本にとっては少し不運な要素を含む試合だったので、実際に日本とスウェーデンにそこまでの大きな差はなかったと見る。

 オランダ、カナダ、スウェーデン。何が言いたいのかといえば、決勝に進出したチームとなでしこジャパンとの差は、思い切って言えばほんの僅かだったということだ。なでしこジャパンも悪くないが、それ以上に他国も強くなっている。日本が弱くなったのではなく、かつてに比べ周りのライバルがより強くなったという感じだ。

 なでしこジャパンと言えばその組織力を売りに世界のトップクラスまで上り詰めたチームと言えるが、そうした集団性の高さを他の多くのチームも鍛えてきた。日本の武器が日本だけの武器ではなくなってきた。近年のなでしこジャパンの成績が伸び悩む大きな要因だと見る。

 そして今回、なでしこジャパンの成績を占う意味で最も重要なのは、当たり前の話になるが、監督の采配に他ならない。その采配で全てが決まる。そう言っても過言ではない。

 冒頭でも述べだが、筆者が女子サッカーに目を凝らすのは、最近ではこうした大きな大会の時くらいになる。普段そのプレーを見ていない選手たちに対して、少なくとも僕はあまりとやかく言いたくないクチだ。というより、普段のプレーを見ていない人が選手たちのプレーに対してあれこれと述べる資格はない。それができるのは、普段からキチンと彼女たちのプレーに目を凝らしている人。実際に現場まで足を運んで女子サッカーの試合を見たりするなど、女子サッカー界にそれなりのお金を落としている人たち。そうした歴とした“ファン”以外の人は、少なくとも選手に対してはあれこれと何かを述べるべきではない。僕はそう思う。

 とはいえ、監督に対してあれこれ述べることは別の話だ。女子サッカーに詳しくないのであまりハッキリとしたことは言えないが、選手とは違い、監督は少なからずの報酬を協会から得ていると思われる。選手よりもかなり多い額を、である。少なくともピーク時よりも人気の低下が明らかな日本の女子サッカー界で、選手たちがそこまで優れた環境や良い報酬でプレーができているはずがない。いまも昔も厳しい環境で頑張っている選手を批判するような気には全くならないのだ。

 前置きが長くなったが、ここからがようやく今回のW杯の話になる。先日行われたザンビア戦。結果は5-0で日本の圧勝だった。内容的にもスコアとほぼ同じ。日本にあと2、3点入っていてもおかしくなかった。言い換えれば、それくらいザンビアは弱かった。直近で強豪ドイツを倒したとのことだが、とてもそんな強いチームには見えなかったといえば失礼か。記録上のシュート数は0。男女を含め、W杯でこれほど日本が一方的な試合を見たことはない。

 今大会の出場国数は32。これは昨年行われた男子のカタールW杯と同じだ。女子のW杯は前回のフランス大会は24カ国だったので、32カ国で行われるのは今回が初となる。その枠が拡大されたことで、上位と下位の差が突如大きく開くことになった。日本対ザンビアはまさにそんな試合に見えた。

 今大会の日本の目標はどの辺りなのか。「正直、準々決勝(ベスト8進出)ぐらいからしか見てもらえないと思うんです」。大会前のある番組でそう述べたのは主将の熊谷紗希だが、おそらくその辺り(ベスト8)が妥当な線なのだろう。実際に大会前に筆者が目にしたウィリアムヒル社のブックメーカーの優勝予想でも、日本の人気は上から数えて11番目だった。ちなみに1番人気はアメリカで、以下イングランド、スペイン、ドイツ、フランス、オーストラリア、スウェーデン、オランダ、ブラジル、カナダ、日本……となる。

 目標はベスト8。これはカタールW杯に挑んだ森保ジャパンと同じだ。とは言え、なでしこジャパンの世界的な評価は、相対的に見れば森保ジャパンより遥かに高い。つまりはベスト8よりも上、ベスト4以上も十分狙える位置にいる。そう言ってもいいわけだ。ベスト8なら5試合、ベスト4まで行けば最大7試合を戦うことになる。そうした視線を傾けると、僕には少し物足りなく見えるところがある。

 ザンピア戦。日本の池田太監督は選手を4人しか交代させなかった。4人目を投入したのは後半のロスタイム(後半48分)に入ってからだったので、実質的にはほぼ3人と言ってもいいかもしれない。1試合で最大5人まで使える選手交代枠を少なくとも1つ余らせたまま、試合終了のホイッスルを聞いた。

 多くの選手を使いながら勝つ。今後の可能性を広げながら勝つ。短期集中トーナメントにおけるこの鉄則に従えば、交代枠を使い切らないその采配に対して、先行きに不安を覚えずにはいられない。しかも相手はほぼ無抵抗に終わったザンビアだ。後半17分に3点目を奪ったその時点で、日本の勝利は99%以上揺るがないものになった。そこで少なくとも一気に3人くらいは替えられる余裕は生まれたはずだが、1人目の交代が後半21分で、続く2人目と3人目が後半32分という遅さだった。

 繰り返すが、泡沫候補のザンビアを相手に、この程度の選手交代では不満が残る。試合の展開的にも十分余裕があったにもかかわらず、なぜ交代枠を残すのか。1人でも多くの選手を使い、あらゆる選択肢を模索しながらグループリーグを突破することがベスト8以上を狙うチームの常道であることは、男子を含む過去のW杯やEUROなどを見れば一目瞭然になる。男子の森保監督をはじめ、日本人の監督はその辺りの選手のやりくりがあまり上手ではない。池田監督の選手交代を見て思わずそう言いたくなった。

 日本の2戦目の相手はコスタリカで、3戦目はスペイン。ここからは奇しくも昨年のカタールW杯における森保ジャパンと同じ相手(国)と戦うことになった。戦う順番も同じで、初戦で勝っている点も同じだ。森保ジャパンは2戦目のコスタリカ戦を初戦のドイツ戦からスタメンを5人変更して臨んだが、なでしこジャパンもそれくらいの変更がなければこの先は苦しいと考える。

 大会前に目にしたブックメーカーによればコスタリカはザンビアよりもさらに低い評価を受けていたので、日本がコスタリカに勝つ可能性はおそらくそれ相当に高いと考える。仮にコスタリカに勝てば勝ち点は6となり、決勝トーナメント進出はほぼ濃厚だ。グループ一の強者である3戦目のスペイン戦は消化試合になる可能性は高い。

 このグループリーグの3試合でフィールドプレーヤーの20人を全て使い切るくらいでなければ、5試合目、6試合目は見えてこない。同じメンバーを使い続ければ、終盤にチームとして息切れを起こす。手が詰まった状態で強者と戦うことになる。少なくとも僕はそう思う。

 そしてもうひとつ触れたいのは、なでしこジャパンの布陣についてだ。これまでの佐々木監督時代、高倉監督時代は、一貫して中盤フラット型の4-4-2を使用してきたなでしこジャパンだが、今回使用しているのは同じ中盤フラット型でも3バックの3-4-3。4列表記で表せば3-4-2-1と言いたくなる、一般的には守備的と言われる布陣である。

 佐々木監督の時代からこれまで10年以上なでしこジャパンの試合を見てきたが、この布陣で戦うところを見るのは今回が初めてだ(正確には直前の親善試合パナマ戦になるが)。これまでおそらく15年以上は使用し続けてきたであろう、なでしこジャパン伝統の4-4-2をなぜ変更したのか。その理由について監督が大きな声でハッキリ述べていないところもある種問題だが、弱小ザンビア相手でもその問題点というか、布陣の短所を見て取ることができた。

 ザンビアの布陣は4-1-4-1、いわゆる3FW系の1トップだ。この相手の1トップに対して、日本は3バックの3人(石川璃音、熊谷、南萌華)が常に相対する恰好だった。そしてザンビアが3FW気味に向かってきた際は両ウイングバック(右・清水梨紗、左・遠藤純)が最終ラインと同じ高さまで下がり、易々と5バック然となった。

 相手の1トップに対して3人、3FWに対して5人が構えれば、当然のことながら前方にいる人員は減る。そこからボールを奪っても前に人が少ないので、満足な攻撃を仕掛けることはできなくなる。これは守備的なサッカー以外の何物でもない。もっとわかりやすく言えば、カタールW杯本番で突如として見せられた森保ジャパンのサッカーだ。

 ザンビアの攻撃力並びに反発力が低かったのでそうした布陣の短所が浮き彫りになるシーンはなかったが、相手が強くなればおそらくそれ相当に押し込まれるだろうなと、ザンビア戦を見ながら思った次第だ。防戦一方の守備的サッカー(カウンターサッカー)に陥れば、日本の良さは発揮されない。高い位置からのプレッシングとそれに伴うボール支配率の高さを活かしたアグレッシブなサッカーこそ、かつてW杯で優勝したなでしこジャパンのサッカーではなかったのか。今回の3-4-2-1にはそうしたかつてのサッカーが拝めそうな匂いがあまりしない。ザンビアを相手に後ろに人が多いサッカーを見せられると思わずそう言いたくなった。

 池田監督はおそらくカタールW杯の森保采配に感化されたのではないかとはこちらの勝手な推測だが、それは結果だけを求めた守備的なサッカーに他ならない。負けた場合には何も残らない、敗れたときの後悔が大きい後ろ向きなサッカーでもある。攻撃的な4-3-3や4-2-3-1ではなく、なぜ3-4-2-1なのか。その理由についてそれなりの場所でそれなりの誰かがキチンと述べない限り、少なくとも日本のサッカーはこれ以上先に進まない。曖昧にしてはいけない、重要なポイント以外の何物でもない。僕はそう確信する。

 サイドを突かれると容易に5バックになる3バック。そうした守備的な布陣を採用するチームに、はたして幸は訪れるのか。コスタリカ戦。注目すべきはスタメンの顔ぶれと、その3-4-2-1。はたして初戦からスタメンを何人変えることができるか。そして、3バックが5バックになる頻度はいかほどか。そこを見れば、この先の可能性もある程度占うことができると見る。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?