キングオブコント2022ファイナリスト寸評(その3)。3位・や団、準優勝・コットンは、数年前なら優勝していた

前回の続き

・ロングコートダディ(吉本興業 大阪)[2年ぶり2回目]

 初めて決勝に出場した2年前は7位。そして今回も、決勝7位。結果だけ見れば前回からの上積みがないように見えるが、内容は決して悲観するほど悪くなかった。むしろ上々。少なくともネタは2年前より遥かに面白かった。
 だが、それでも上に行けなかった理由は、ロングコートダディがつまらなかったからではなく、戦いのレベルが2年前よりも急激に上がったからに他ならない。ロングコートダディも以前より良くなっているが、周りもそれと同じくらい、あるいはそれ以上に面白くなっている。これが筆者の見解になる。
 彼らの2本目のネタを見てみたかった気持ちもある。だが、今回の決勝戦を見た限り、たとえもう一方のネタであっても、上位3組に残ることは難しかっただろう。それくらい全体のレベルが高かったわけだが、少なくとも彼らは下を向く必要はない。繰り返すが、ネタは面白かった。5番目に登場したロングコートダディに対し95点という高得点をつけたのは、審査員のロバート・秋山。少なくとも秋山は、その時点(5組目まで)ではロングコートダディが一番面白かったと評価した。だが一方、「90は全然高い点数なんですけど、今日の僕の中では一番低い点数ですね」と述べていたように、松本さんの評価は高くなかった。昨年のM-1と同様、審査員によってその評価というか、好みが割れたという印象だ。
 そんなロングコートダディに対して個人的に気になっていることを言えば、両者の役割についてだ。10ヶ月前、M-1決勝で披露した漫才ネタでは、ネタ作成者の堂前透がいわゆるボケ役で、ツッコミ役を演じたのは相方である小太りの兎だった。ボケとツッコミがわかりやすい、コント師らしい漫才でM-1を沸かせた姿が記憶に新しいが、一方、今回コントで見せた両者のキャラクターは、漫才のときとは全く違う。奇人というか、少しおかしなキャラを演じるボケ役の兎と、それにシンプルなツッコミを入れる堂前。M-1の時とは別のコンビに見えたと言えば大袈裟だが、そこに多少なりともギャップを感じたことは事実だ。よく言えば器用と言えるが、悪く言えば、まだスタイルがカチッと定まっていないコンビに見えたと言い換えてもいい。
 2016年に優勝したライス、最多6回の決勝進出の記録を持つさらば青春の光、今回のファイナリストでもあるニッポンの社長ーー。この辺りのコンビも、ネタによってボケ役とツッコミ役がよく変わるグループになる。いずれもキングオブコントで活躍した実力派だが、一方、その役割を変えたことで、決勝戦で失敗したコンビも存在する。その代表格と言えるのが、2015年のロッチと2018年のチョコレートプラネット。それぞれ1本目で圧倒的なネタを見せたにも関わらず、2本目のネタでの大幅なキャラ変更が仇となり、ほぼ確実かに見えた優勝を逃した姿は今もなおこちらの記憶に鮮明だ。
 ロングコートダディは今後どうするのか。気になるのはそこだ。ロッチやチョコプラは、少なくとも上記の件以降、ネタの際にはある程度両者が演じるキャラクターの方向性を定めている。そうした意味においても、注目したいのは今年のM-1だ。昨年決勝の舞台を踏んだロングコートダディは当然、今回も有力な候補の1組になる。もし今年も決勝に進出すれば、M-1、キングオブコント、M-1と、主要大会で3回連続決勝進出となるわけだが、その可能性は決してそれほど低くは見えない。25〜30%くらいはあると僕は見るが、はたしてどうか。昨年同様、淡々とボケる堂前と、それにリアクションする兎というスタイルなのか。他のコンビとは被りそうにないそのネタのセンスは悪くない。今後のキャラの推移に目を凝らしたい。

・や団(SMA)[初出場]

 2本披露したネタの順番は、準決勝と同じ。1本目の「バーベキュー」のネタがハマりそうなことは、準決勝を見た時に筆者にはある程度予想することができていた。それに対して、予想外だったのは2本目の「雨」のネタ。このネタを準決勝で目にした時は正直あまりよくは見えなかったが、決勝では一転、1本目のネタと同じくらい高い評価を受けた。
 準決勝は2日に分けて行われるが、決勝戦は当日のみの勝負。1本目で作った良い流れが、その約60分後に披露した2本目にも良い影響を与えた。もし「雨」のネタで1本目を戦っていれば、上位3組に入れたかどうかはわからなかったと僕は思う。
 最終結果は3位。とはいえ、2位のコットンとの差は僅か1点。その差は文字通りの紙一重だった。さらに言えば、今大会、最もこちらの印象に残ったのが、トップバッターのクロコップとこのや団になる。こちらに強烈なインパクトを与えたのが、クロコップの「ホイリスト」と、や団の「バーベキュー」のネタだった。
 特にや団。1本目の「バーベキュー」のネタは、正直言って完璧。文句のつけようがない、まさにパーフェクトなネタだったと僕は思う。あくまでもこちらの記憶によるものだが、東京03が優勝した時(2009年)と同等か、あるいはそれ以上の出来だったのではないか。トリオの王道を行くような、正統性の高い展開力抜群のネタだった。
 これまでほぼ無名、しかも平均年齢が40歳を超えたいわゆる“おじさんトリオ”が、ここまで面白いネタを披露すると予想した人はどれほどいただろうか。ここまで全く売れていないや団にとっては、今回の成績は十分喜ばしい結果となったはず。だが、そんな彼らの3位が少々もったいなく見えるのは僕だけだろうか。あえて思い切って言えば、数年前のレベルなら余裕で優勝できたと僕は思っている。
 今回収めた「3位」という結果及びその戦いぶりにより、今後活躍の場はそれなりに与えられるだろう。や団の課題は、そうしたバラエティなどでのトークや立ち回りになる。喋りはそう悪くなさそうに見えるが、これまで露出が少ないこともあるせいか、平場での立ち回り方は正直まだまだだ。先日出演した「ラヴィット!」(TBS)でも、そうした経験不足な様子は幾度も散見された。
 すでにベテランということで、今後どれだけチャンスが巡ってくるかはわからないが、同じ事務所の錦鯉の例もある。将来に悲観する必要は全くない。内容的には優勝にも匹敵しそうな、今回の「3位」の価値は滅茶苦茶高い。今後の活躍に期待したい。

・コットン(吉本興業 東京)[初出場]

 ようやく陽の当たるところに出できたか、という感じだ。準決勝の戦いぶり見れば、決勝でもうまくいきそうな予感はした。マックス優勝もあり得ると予想していた筆者にとって、今回の準優勝という結果自体に特段驚きはない。なんとなく想像していたことが、予想通りに起きた。コットンの準優勝をひと言でいえばそうなる。
 ネタは基本的にシンプルでオーソドックス。だがそこに、ボケ役のきょんが演じる癖のあるキャラと、西村真二の作るひとひねりあるネタの展開が加われば、それは独特で新鮮な味わいのあるコントへと昇華される。あっさりしているのに、深みがある。これがコットンの特徴と言ってもいい。それが今回、見事に花開いた。今大会を経て、彼らを知らなかった人の多くはおそらくその名前を覚えたのではないか。
 この結果により、これまでは決して多くなかったその露出が、おそらくそれ相当に増えるはずだ。そして幸い、そこで活躍できそうな実力が彼らにはある。きょんはやや天然系という感じだが、こちらが期待を寄せているのは、見た感じシュッとしている西村の方だ。彼の喋りの筋は悪くない。この西村にスポットを当てれば、おそらくそれなりに面白くなると僕は見ている。
 そしてこちらも注目はM-1だ。コットンのこれまでの最高成績は準々決勝。だがそれでも準決勝以上を戦う力は十分ある。現在は5年連続準々決勝で敗退中だが、このキングオブコントでの活躍を機に、一気に駆け上がっていく可能性は決して低くない。かまいたちやニューヨークに続くことはできるか、注目だ。

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