キングオブコント2022ファイナリスト寸評(その2)。「序盤は不利」の通説は今回も覆らず

前回の続き

・ネルソンズ(吉本興業 東京)[3年ぶり2回目]

 最終結果は4位。数字的には可もなく不可もなくという感じだが、あえてどちらかと言えば、ネルソンズにとっては決して満足のいく結果ではなかった。
 その決勝進出は3年ぶり2回目。今回のネルソンズの優勝への本気度は、おそらく相当高かったものと推察する。初出場だった3年前と比較すれば、その認知度は大きく上昇。同じトリオのライバルでもあるジャングルポケットやジェラードンがいない今回は、まさに絶好のチャンスだった。しかし、「2番目」というその順番が判明した瞬間、今回のネルソンズの優勝がなさそうなことは、少なくとも筆者にはなんとなくイメージできていた。
 ファーストステージの得点(466点)は決してそれほど悪くなかった。だが、確実にトップ3に残れるほど高くはなかった。順番的に不利だったこともあるが、それ以上に確かなのは、見る側の期待を超えるようなネタができなかったということだ。        
 つまらなかったわけではない。そのネタはファイナリストに相応しい、十分に面白いものだった。だが、それと同じくらい、「ネルソンズならもっとやれた」という感想を抱いた人も、たぶん結構いたのではないかと僕は思う。実際に審査員のロバート・秋山竜次は次のようなコメントを述べている。「後半もっと掻き回すやつ(ネタ)を僕は知ってるんで、そういうのも求めちゃいましたね」。これはネルソンズに対する期待の大きさを表した言い回しに他ならない。秋山に限らず、これと似たような思いを抱いた人はおそらくそれなりにいたはずだ。ネタは悪くなかったが、前評判を超えるようなインパクトを与えることはできなかった。今回のネルソンズをひと言でいえばそうなる。
 審査員の点数に関して言えば、山内健司(かまいたち)と飯塚悟志(東京03)の点は高かったが、よく見れば、他の3人はトップバッターのクロコップよりも低い点数をつけている。繰り返すが、ネルソンズが登場したのはクロコップがネタを披露した直後の2番目だ。つまり、秋山と小峠英二(バイきんぐ)と松本人志さんの3人は、「ネルソンズよりもクロコップの方がよかった」と評価した。早い話がそうなるわけだ。山内と飯塚の点が高かったので、合計ではネルソンズの方が6点上回ったが、これがもし投票制であれば、ネルソンズはクロコップに負けていた。そう言い換えることもできる。
 もうひとつ述べたいのは、ネルソンズと同じ今大会におけるファイナリストトリオ、や団との比較になる。ネルソンズは2番で、や団は6番。両者のネタ順番が入れ替わっていれば、もしかしたら結果は違っていた可能性はある。だが、それらを差し引いても、筆者はや団のネタの方がネルソンズを上回っていたと見る。や団が見慣れていない新鮮なグループだったこともあるが、や団のネタの方が、トリオのネタとしてはより完成度の高いものに見えた。一方でネルソンズに対して抱いたのは、あくまでも「和田まんじゅう頼み」というか、エースのキャラを重視した個人技中心のスタイルだということだ。和田まんじゅう以外の2人(岸健之助と青山フォール勝ち)が輝いて見えたとは、正直言い難い。3人全員がもっとよく見えるようにならなければ、これより上の成績を残すことは難しい気がする。
 今回を含む2度の決勝進出によって、すでに手の内がバレてしまった感のあるネルソンズ。ここから再び優勝を目指すことは、決して簡単な道のりではない。はたして今後、上りの階段をどこまで上がることができるか。この後しばらくは続くであろう、バラエティ番組での立ち回りに目を凝らしたい。

・かが屋(マセキ芸能社)[3年ぶり2回目]

 「前回が微妙だったんで」。ネタが終わり、かが屋の2人がMCのもとに移動してきて第一声のことだった。ネタ作り担当・加賀翔が上記の台詞を吐露したように、3年前のかが屋は決して大きく弾けたわけではなかった。前回の2019年は率直に言えば消化不良。そうした意味でも、今回は自分たちの本当の力を見せつける、まさにリベンジに値した。
 今回見せたネタは、準決勝1日目で爆笑をさらったネタ。決勝での出来も決して悪くなかった。少なくとも3年前より良かったことは明らかだ。だが、それでも結果は5位。満を持して挑んだ今回も、2本目のネタを披露することはできなかった。
 成績的には今回のかが屋の評価は割れるだろう。だが、彼らがそれなりに前評判の高かったコンビだったことを踏まえると、満足度は低くなると言うべきか。
 繰り返すが、ネタは悪くなかった。だが、もし仮に出番順が後半であっても、おそらく上位3組には残れなかったと僕は見る。それくらいハイレベルな争いだったこともあるが、今回かが屋に関して感じたことを言えば、彼らのようなタイプと大会との相性が決してよくないということだ。
 ビスケットブラザーズ、コットン、や団。今回上位を占めたグループとの違いをあえて言えば、ボケとツッコミがハッキリしていないところになる。ボケ役のキャラがとりわけ強力というわけでも、ツッコミが鮮明というわけでもない。日常でありそうな場面を切り取った、演技力を武器に笑いを生み出す正統派。それゆえか、彼らのネタにはある種のこだわりを感じるのだ。「僕たちはこのスタイルでいく」。ネタを通して、かが屋はそう語っている気がする。
 ネタは面白いのに、勝てない。点数は思いの外、伸びない。ではいったい、彼らはどうすればいいのか。
 すでにそれなりの知名度はあるかが屋だが、今回のファイナリストの中では唯一の20代(両者とも29歳)、いわゆる最年少のコンビだった。にもかかわらず、そのスタイルはすでに完成しているようにも見える。この先、キングオブコントにはまだまだ参加すると思うが、彼らにどれほど幸が訪れるだろうか。決勝には再び進出すると思うが、いまのままでは、そう簡単に優勝する姿は想像することはできない。
 展開に少々こだわり過ぎというか、理屈っぽいというか。本人たちも自ら述べているように、その見た目も含め、芸風は地味そのものだ。ネタは悪くないが、キングオブコント優勝を狙うコンビとしては、やはりボケがいささか弱い印象は否めない。安定感はあるが、コンビとしてのパンチ力に問題ありだと見る。レベルが大幅に上がった近年のキングオブコントだと、どうしても打ち負けそうな感じに見えてしまうのだ。
 いい意味でバカにはなりきらない。そのスマートさとキングオブコントとの折り合いをいったいどうつけるのか。次回、3度目の決勝進出を決めた際の彼らの変化に注目したい。

・いぬ(吉本興業 東京)[初出場]

 決勝戦は初出場。それに加え、これまでテレビで活躍した経験も決してそれほど多くない。そうした意味では、彼らにとって、今回のキングオブコントはいわゆる「全国デビュー」に相当した。
 最終結果は9位。ニッポンの社長がうまくいっていれば、最下位だった可能性もある。成績だけ見れば完敗に終わったように見えるが、印象は決してそれほど悪くなかった。「他のネタも見てみたい」。そう思わせるインパクトを与えたことは確かだ。
 いぬの出番は4番目。審査の結果、前の3組を超えることが出来ずにその場で敗退が決定した。だが、審査員の点数をよく見てみると、いぬに対してそこまで悲観的なイメージは湧いてこない。秋山が付けた94点、松本さんが付けた95点は、その時点においては両者の最高の点数になる。「ここまでの4組の中では、いぬが一番面白かった」。少なくとも秋山と松本さんはそのように思っていたことが、その数字から見て取ることができる。
 他のネタも見たことがあるが、ここまで露出していなかった分、彼らにはまだまだ余力がある。力を出し尽くした感は全くない。再び決勝に進出する力は十分あると僕は見る。今回決勝に進出したことで、優勝までの具体的な距離感を掴むことはできたはずだ。
 今後、テレビで目にする機会はそれなりに増えるだろう。決勝で見せたネタのような、体力系の仕事も増えるはずだ。だが、こちらが見てみたいのは、あくまでもネタそのものになる。いぬにはまだまだ面白いネタを見せてくれそうなムードがある。9位とはいえ、上位とそこまで大きな差はない。いぬよ、自信を持て。1〜2年後、今よりも飛躍している姿に期待したい。

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