ポスト・ダウンタウン最有力候補か。令和ロマンにかかる期待

 昨年末に放送された「お笑いアカデミー賞 2023」(TBS)という番組を見ているときに思ったことだ。

 ダウンタウンの2人を司会に据え、近年活躍が目立つ芸人をたくさんスタジオに集めて様々なチャレンジ企画を行う。こうした構成の番組を目にするのはもちろん初めてではない。もっと言えば、これまで何度も見てきたいわゆるお決まりのような番組だ。かつての「リンカーン」(TBS)をはじめ、筆者がお笑い系の番組を見始めてから20年以上の間、この構図は全く変わっていない。若手の顔ぶれは時代によってそれなりに変わってきたが、彼らを束ねるトップの顔はずっと不動だ。昨年末の「お笑いアカデミー賞」を見ていると、いまだにダウンタウンがお笑い界の頂点に君臨していることを強く思い知らされた。

 ダウンタウンの2人は昨年、両者ともに大台となる60歳を迎えた。「リンカーン」が始まった2005年は、2人ともまだ42歳。だが、ダウンタウンがいわゆるお笑い界のトップに立ったのは、それよりもさらにもっと前だ。筆者はダウンタウン世代ではないので詳しい時期はわからないが、少なくとも彼らが30歳前後の時点ではすでに芸能界の頂点付近まで到達していたはずだ。過去の高額納税者のランキングなどを見れば、どの程度のランクに位置していたかを想像することは容易だ。

 筆者が印象に残るのはいわば「リンカーン」以降のダウンタウンになるが、そのパワーや勢いが衰えたと感じたことは、これまで見てきたおよそ20年間で一度もなかったと言い切れる。むしろそのスター性やカリスマは、ここ10年でさらに上昇したという感じだ。「水曜日のダウンタウン」(TBS)の存在も大きいが、彼らの特別感を際立たせてきた1番の要因は、やはり松本人志さんの存在抜きに語ることはできない。

 今回の松本さんの芸能活動休止問題。内容的にセンシティブな題材だけに触れ方には最大限慎重になる必要がある話だが、実際のところ“シロ”か“クロ”かといった、その裁判の行方にこちらは特段関心はない。今回の件がどんな結末を迎えようと、これまでこちらが松本さんに数えきれないほど笑わせてもらったという事実は変わらない。こちらが語ることができる、いまハッキリしていることはただひとつ。今回の件で松本さんが今後しばらくの間(あるいはこのまま)テレビから消えてしまうということだ。
 仮に無事復帰したとしても、さすがに以前と変わらずというわけにもいかないだろう。こだわりが強そうな人だけに、このまま引退してしまう可能性もある。お笑い界の頂点に君臨する人物が突如としてメディアから姿を消すことになった今回の件は、お笑い好きの筆者にとっては間違いなくこれまでで最大の芸能ニュースだ。

 想起するのは今からおよそ12年半前。反社会的勢力との交際発覚により電撃的に芸能界を引退した島田紳助さんだ。芸能界のトップが突如としてテレビから姿を消すことになった衝撃的なニュースとして、いまなおこちらの記憶に残っている。
 紳助さんをもっと見たかったという気持ちはいまなおある。だが、それでも筆者は比較的すぐ割り切れたというか、当時そこまでの落胆はなかったと記憶する。紳助さんはたしかに芸能界のトップクラスのタレント及び司会者だったが、お笑い的にはダウンタウン、特に松本さんのほうが紳助さんを上回っていたというのが当時から(いまなお)抱くこちらの印象だった。唯一松本さんには事前に(引退の)連絡をしたと記者会見で語った紳助さんだが、実は筆者もそれとある意味似たようなことを思っていたのだ。「少なくとも松本さんがいればお笑い界は大丈夫」、「紳助さんの代わりはそのうち誰か現れるだろう」とは、12年半前に抱いたこちらの思いだった。

 紳助さんの引退後、代わりではないが、空席となったその座に着いたと言えるのは有吉弘行さんだろう。紳助さんが引退する前後辺りからすでに勢いは十分あったが、いわゆる新たな毒舌系の司会者としてその地位を徐々に確かなものにしていったという感じだ。そしてその極めつきが昨年の紅白歌合戦の司会というわけで、いまや押しも押されもせぬ芸能界トップの司会者と言えるだろう。

 紳助さんに代わって台頭したのは有吉さん。それは紳助さんが引退した直後になんとなく見えていたが、では、今回の松本さんの場合ははたしてどうだろうか。松本さんに代わってその座に収まりそうなのはいったい誰なのか。何を隠そう、今回語りたいポイントはズバリここになる。

 今週土曜日に放送される「IPPONグランプリ」(フジテレビ)。松本さんの代わりにチェアマン代理を務めるのはバカリズムとのことだ。これは納得できるし、わかりやすい。この芸人の才能は言ってみれば松本さんクラス。松本さんがいない今後、そのタレント価値をさらに高めていきそうなムードが漂っている。

 松本さんと同じ吉本所属で近い存在と言えば、千原ジュニアさんの名前も挙げないわけにはいかない。芸風的にも才能的にも、僕には松本さんに最も重なる人物に見える。紳助さんの穴を今田耕司さんが埋めたように、ジュニアさんが松本さんの穴を埋める機会がそれなりに訪れるのではないかと僕は思う。
 その他では川島明(麒麟)、山里亮太(南海キャンディーズ)の2人も頭を過ぎる。両者ともに朝の帯番組でMCを務めるなど、頭の回転が速いスマートなタイプの芸人だ。ここ数年で急激に価値を高めたこの2人だが、松本さん不在の間、その存在がさらに重宝されそうな気がしてならない。

 先述のバカリズムをはじめ、バナナマン、劇団ひとり、サンドウィッチマン、若林正恭(オードリー)、小峠英二(バイきんぐ)といった、非吉本系の中堅のMCクラスの芸人も、松本さん不在の間にそれなりに活躍の場は増えそうだ。

 だが、松本さんの代わりを探す点において忘れてはならないのは、松本さんはダウンタウンというコンビとしての活動も目立っていたということだ。ピンでも凄いが、浜田雅功さんとのコンビとしても圧倒的な存在感を誇っていたこと。そうした点を踏まえると、浮上するのは千鳥、かまいたちの2大巨頭か。すでに2組とも現在十分過ぎるほど活躍しているが、ダウンタウンが浜田さん1人となれば、この2大巨頭にさらなるチャンスが巡ってくる可能性は高い。特に大悟(千鳥)はキャラやビジュアル的にポスト松本人志の最有力候補との呼び声もあるほどだ。松本さん不在の間にどれほどの存在感を見せるか、注目だ。

 その他にも今後さらなる活躍が見込める有力な芸人は数えきれないほどいるが、ここまで挙げたのはすでに以前から活躍が目立つ有名なベテラン芸人ばかりだ。そうした芸人ばかりを挙げてもあまり面白くない。というわけで最後にこちらが挙げたいのは、近い将来、すなわち未来のポスト・ダウンタウンになりそなコンビになる。そのコンビとはズバリ、令和ロマンだ。記憶に新しい、昨年末に行われたM-1グランプリ2023優勝コンビ。まだ感触程度に過ぎないが、このコンビがお笑い界のトップに立つポテンシャルは十分にあるとは筆者の見立てになる。

 紳助さんがM-1でサンドウィッチマンに投票したように、令和ロマンの優勝を決めたのも最後の松本さんによる1票だった。今回の松本さんの活動休止のニュースを耳にした直後、代わりに台頭するのは誰かと考えて真っ先に筆者の頭をよぎったのは、令和ロマンの優勝が決まったあの最後の開票の場面だった。

 活動休止直前の松本さんが最後に選んだコンビ。それが後継者を選ぶシーンに見えたと言える日が訪れることははたしてあるのか。お笑い界の頂点、松本さんの活動休止ニュースが話題をさらった2024年1月。その空位となった王座に着くのははたして誰か。令和ロマンを含め、お笑い界から目は離せない。

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