THE SECONDは今後どれくらい続くのか。大会存続のために必要なものとは

 昨年(2023年)第1回大会が行われたお笑い賞レース「THE SECOND ~漫才トーナメント〜」。その第2回大会が今年も開催され、昨日生放送されたグランプリファイナルでガクテンソクが栄えある2代目王者に輝いた。

 初代王者のギャロップに続く、吉本興業所属の関西系実力派コンビの優勝。だが、その戦いぶり及び安定感は、今回優勝したガクテンソクのほうが数段上だった。3試合を通して危なげなムードはほぼゼロ。決勝を含むどの対戦も審査結果が出る前からすでに勝負は見えていた。

 接戦度合いで言えば、ギャロップが優勝した第1回大会のほうが今回よりも上だった。昨年初代王者に輝いたギャロップだが、その準決勝では同じ吉本所属の囲碁将棋と全くの同点(284点)だった。「同点の場合は3点をつけた人数が多いほうが勝ち上がる」というルールにより際どくこの試合をものにしたわけだが、そうした見どころが第2回目となる今大会は少なかった。審査や結果に対するワクワク感や緊張感に欠けていた。あえて言えばそうなる。

 すでに何年も前から賞レースでそれなりの実績を残していたガクテンソクの優勝は極めて妥当。そうした中で今大会1番の番狂わせと言えるのは、タイムマシーン3号が1回戦でザ・パンチに敗れたことだろう。「有吉の壁」や「ラヴィット!」などの人気番組にレギュラー出演する、知名度の高い優勝候補が初戦で消えたことが今大会最大のサプライズだった。

 しかし、こう言ってはなんだが、僕にはタイムマシーン3号がやりにくそうなことはなんとなくだが読めていた。少なくとも彼らの優勝はないと思った。先述の人気番組に頻繁に出演する、今回の8組の中では最も前評判が高そうに見えたコンビだ。言い換えれば、最もプレッシャーがかかるコンビ。少なからず「勝って当たり前」的なムードに包まれたなかネタをさせられることになるわけだ。実力者のタイムマシーン3号とはいえ、そうした空気のなか3連勝するのは難しいとはこちらの予想だったわけだが、遠からず当たっていた気がする。周りのメンバーの顔ぶれから今回強者の立場に祭り上げられた結果、僕の目にはネタのノリがややいまひとつに見えた。

 人気番組での露出が増え知名度が高まったが故、優勝候補として挑まざるを得なくなった。ブレイクしたことが逆に優勝を難しくさせるというこの皮肉。お笑い賞レースの奥深さを思い知らされる一件だと思う。いまより露出が多くなかった3,4年前のほうが実はタイムマシーン3号にとってはよかったのではないか。思わずそう言いたくなったが、そんなタイムマシーン3号の影に隠れることができたのが、今回優勝したガクテンソクだった。

 タイムマシーン3号という優勝候補の存在が逆に追い風になった。ガクテンソクも本来なら優勝候補に推されてもおかしくないコンビだが、チャレンジャー的な立場で挑むことができたことが今回の優勝に繋がった。タイムマシーン3号とは異なり、あまり売れていない現状が逆に奏功したとは筆者の見立てになる。

 手前味噌で恐縮だが、今回の8組のファイナリストが発表されたとき、筆者の目に最も光って見えたのがガクテンソクだった。予選の模様を見ていないのでネタの内容はわからなかったが、なんとなくいい線行きそうな匂いはした。タイムマシーン3号、ななまがり、金属バットより可能性を感じたのは確かだ。

 ガクテンソクを推したくなった理由。それはツッコミ担当、奥田修二の存在にある。

 この人の喋りはなかなかいい。何年か前に抱いたこちらの感触なのだが、そんな奥田はこの1年くらいの間、「アメトーーク」に頻繁に出演していた。『BiSHロス芸人』、『芸人持ち込み企画 プレゼン大会』、「アメトーークCLUB」の『実は東京に出てきてました芸人』、『コンプラがゆる〜い立ちトーーク第4弾』、『地下アイドルサミット』など、その姿はこちらの視界によく入っていた。昨年のM-1グランプリで準優勝したヤーレンズの出井隼之介のように、全国区ではないが気になる存在として、常にこちらの頭には存在した芸人だった。

 何を隠そう、筆者が奥田にピンと閃くものを感じたのも、およそ5年前のアメトーークで彼の姿を見たことにある。2019年10月10日に放送された『BiSHドハマり芸人』。そこでリーダー役を務めた千鳥・ノブの横に座っていたのがコンビ名改名前(当時は学天即)の奥田だった。決してそこまで売れていない芸人が多くの売れっ子を差し置いて前列2番手のポジションに着席する姿に何か特別な匂いを感じた。「喋りがうまい」、「センスがある」とはその時抱いたこちらの印象になる。

 想起するのはブレイク前のモグライダー・芝大輔やコットン・西村真二、そして先述のヤーレンズ・出井など。いずれも何かきっかけさえあれば売れるだろうと思った、こちらが喋りによい感触を感じた芸人になる。そしてご承知の通り、上記の芸人たちは賞レースの決勝進出を機にいずれも大ブレイク。ガクテンソク・奥田はそのなかに取り残されていた感じもしたが、初出演から数年が経ったアメトーークで再びその存在感を発揮するなど、虎視眈々とブレイクの機会を狙っていた。少なくとも僕には今回のファイナリスト8組の中では最も勢いのありそうな芸人に見えていた。そうした意味でもガクテンソクの優勝には必然を感じる。このTHE SECONDは彼らのために作られたのではないか。思わずそう言いたくなるほどに、だ。

 話をグランプリファイナルに戻せば、今回はガクテンソクの優勝に終わったが、もう1回最初から大会をやり直したとしても、おそらく結果は変わらないと僕は思う。それくらいの圧勝というか、完勝劇だった。ほぼパーフェクト。近年のお笑い賞レースでこれほど優勝者がダントツだったケースがあったかどうか、そう簡単には思い出せない(あえて挙げればキングオブコント2021で優勝した空気階段くらいだろうか)。

 だが、裏を返せば、大会の展開、エンターテインメント性は決して高くはなかった。およそ4時間10分にも及んだこのグランプリファイナルの放送だが、その放送時間に匹敵する満足度を得られた人ははたしてどれほどいただろうか。決勝戦の放送時間が約3時間40分のM-1のほうがその濃密度や緊張感、エンタメ性は確実に上。今回のTHE SECONDを視聴して多くの人がそう感じたのではないか。

 令和ロマン対ヤーレンズ。5ヶ月前に行われたM-1で目にしたこの名勝負が、おそらく多くのお笑いファンの記憶にはまだ鮮明に残っている。勝負がどう転ぶがわからない。ハラハラ、ドキドキとした接戦、高い緊張感に支配されたM-1に比べると、THE SECONDのムードはかなり緩く見えた。

 お笑いは緊張と緩和だ。緊張感が増せば増すほど、それが弾けた時の爆発も大きくなる。昨年のM-1で優勝した令和ロマンがまさにそれ。トップバッターながら大きな笑いを起こすことができたのは、大会が高い緊張感に包まれていたからた。そこからの弾けっぷりに多くの人が魅了されたわけだが、もしM-1の雰囲気がTHE SECONDのような感じだったら、おそらく令和ロマンは優勝していなかった。少なくとも僕はそう考える。

 緊張感をいかにして生み出すか。第1回大会にアンバサダーとして松本人志さんを起用した理由はそこにあると僕は見るが、今回は大会の冒頭で司会の東野幸治さんも触れたように、現在活動休止中の松本さんはいなかった。その代役的な存在として起用されたのは、くりぃむしちゅ〜の有田哲平と博多華丸・大吉の2人、それに初代王者のギャロップの2人を招いたという形だった。運営側も可能な限り頑張ったと思うが、松本さんが備える緊張感やそのコメントには及ばなかったというのが率直な感想だ。有田も博多華丸・大吉の2人も、緊張感を出すというよりも番組の“お飾り”的な感じで呼ばれたという印象が強い。

 M-1やキングオブコントとの大きな違いは、やはりというか、審査方法が大きく異なるということだ。松本さんを筆頭とするプロの芸人が点数をつけるのではなく、会場にいる観客による審査だ。観客による審査を悪く言うつもりはないが、ピリッとした緊張感が生まれるのは顔や名前を明かしたプロの芸人による審査であることは言うまでもない。

 M-1やキングオブコントの場合は出場者はもちろんのこと、審査員もいわゆる“勝負の場”に立っている。自分の審査も審査される(見られている)ので、そこにも緊張感が生まれるわけだ。自分がつけた点数は公に記録として残る。ほぼ匿名の観客がつける点数とは訳が違う。審査に対する緊張感が、そのまま大会全体を覆う緊張感にも繋がっている。そのことを今回のTHE SECONDを通して改めて気付かされた次第だ。

 松本さんついでに言えば、気になるのは今後のM-1とキングオブコントの審査員を誰にするのかということだろう。松本さんがいつ復帰するのかは知る由もないが、現状では今回のTHE SECONDのように誰かしら代役を立てる必要がある。キングオブコントではシソンヌ・じろう、M-1ではNON STYLE・石田明、オードリー・若林正恭あたりがその候補に挙げられているが、はたして新しい審査員は誰になるのか。こちらも注目したい。

 ガクテンソクはおそらくギャロップよりは売れるだろう。少なくとも奥田は能力的にもっと上に行ける。準優勝のザ・パンチ、ベスト4のタモンズはわからないが、少なくとも今年はそれなりに露出のチャンスは与えられるはずだ。前回のマシンガンズや囲碁将棋のように、これまで出ることのなかった番組で見かける機会はあるだろう。そこから先は本人たちの頑張り次第だが、それよりも重要なのは、大会の出来栄えそのものだと僕は思う。

 今大会で個人的に最も面白かったのは金属バットの1回戦のネタ。その他では3本通して面白かったガクテンソクのネタだが、全体的にはやはりまだまだ物足りなかったというのが率直な感想だ。少なくともM-1における令和ロマンの2本目のような弾けっぷりを見せたコンビは今回1組もいなかった。出場者のレベルも含め、まだまだ発展や改善の余地がある大会だと考える。

 大会独特の緊張感を生み出すのは決して簡単ではないと思う。M-1やキングオブコントのようにそれなりに時間が必要に見えるが、はたしてTHE SECONDはそれまで存続することができるのか。それともかつてのTHE MANZAIのように、短期間で終わってしまうのか。

 緊張感がなければ、大会に威厳や高級感は生まれない。少なくとも現状では今後10年以上続くような大会には見えてこない。来年以降、目を凝らしたい。

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