「あちこちオードリー」を見た

 もちろん、毎週観ているわけではない。だが、「あちこちオードリー」(テレビ東京)は、なかなかいい。少なくとも、裏(同じ時間帯)で放送されているバラエティ番組「お笑い実力刃」(テレビ朝日)よりも、確実に面白い。迷わずそう答えることができる。

 番組のスタイルはいたってシンプルだ。MCであるオードリーの2人が、ゲスト(1〜2組)とトークをする。ただそれだけ。頼れるものは単純な話術、喋る力のみだ。出演者の実力が、番組の出来にストレートに反映されると言ってもいい。つまり、誤魔化しや言い訳が通用しにくい番組というわけだ。

 そうした視点で「あちこちオードリー」を眺めると、若林正恭がかなり凄い人に見えてくる。ゲストへの話の振り方、自らの体験談を語るタイミング、相方(春日俊彰)へのパスなど、その全てが申し分ない。このレベルのMCができる芸人は、芸能界広しといえど何人もできそうにない、いまや最高レベルにあると思う。

 若林の才能は凄い。このことはオードリーがブレイクした10年以上も前から、すでにある程度知っていたことだが、それでもなお言いたくなってしまう。さらに言えば、オードリー自体も凄い。見逃せないのは、芸人としての価値を高め続ける若林の影で、こちらも活躍を続ける相方・春日の存在だ。若林も凄いが、春日も凄い。先日、ニホンモニターが発表した2021年のタレント番組出演本数ランキングによれば、若林が10位(417番組)、そして、春日は堂々の5位(433番組)にランクインしている。上位の3人(1位・設楽統、2位・川島明、3位・博多大吉)が帯番組のMCを務めていることを考えれば、この順位がいかに凄いことか、とてもよくわかる。しかも、両者ともに、このレベルの活躍をかれこれ10年以上続けているわけだ。

 お互いが高いレベルで活躍し続けるコンビ。オードリーはそう言い表すことができる。若林だけが突出しているわけでは決してない。ここがミソだ。ロンドンブーツ1号2号、麒麟らとの違いでもある。他のオードリーMCの番組を見れば、春日の活躍度も決して低くないことがよくわかるのだ。この2人の掛け合いからしか生まれない、独自の笑いの取り方がちゃんとある。彼らのラジオを聴けば、その辺りのことはお分かりいただけるだろう。

 話を「あちこちオードリー」に戻せば、この番組の特徴をひと言でいうと、トークの内容が深いことだ。ラジオで喋りそうなことを、テレビで話している。少なくともそうしたイメージが筆者にはある。

 ゲストにデビュー当時から現在に至るまでの遍歴やエピソードなどを話してもらう、いわゆる「掘り下げる系」の番組だが、そうした番組の中では、その価値はかなり上位にくる。ある程度のランクのタレント、それなりにブレイクしている芸人でなければ、この番組には呼ばれそうにない。言い換えれば、番組そのものに、すでにある種の高級感が漂っている。深夜番組ながら、その敷居はそれなりに高いのだ。

 昨日(12月1日)放送された回にゲストとして出演したのは、ビビる大木とAマッソ。ワタナベエンターテインメントに所属する、2組の芸人だった。オードリーよりも先輩にあたるベテラン芸人・ビビる大木はわかるが、Aマッソの出演は、僕的には少々意外だった。少なくとも1年前であれば、おそらくまだ呼ばれていなかったと思われる。

 このAマッソの出演は、まさに現在の彼女たちの立ち位置を示した事例と言えた。このレベルの番組でも十分通用すると、スタッフに認められたというわけだ。そして、それなりに存在感を発揮した。ネタ作り担当・加納は、福田麻貴(3時のヒロイン)やヒコロヒーらと同系統の、いわゆる弁が立つタイプ。決勝に進出している今回のTHE Wの結果次第では、さらに階段を昇りそうな勢いがある、今が旬の女芸人のひとりだ。

 ビビる大木、Aマッソ、そしてそこにオードリーが絡めば、番組はそれなりに上等なものになった。シンプルなトーク番組ながら、ゲストが少人数なので、番組が散らかることがない。目に優しい、見やすい番組なのだ。

 余計なことをしない、あっさりした番組。ここに番組側のこだわりを感じる。裏番組の「お笑い実力刃」と比較すれば、その違いは一目瞭然。アンタッチャブル、サンドウィッチマンという実力者たちが司会をしているとはいえ、番組の色は見えてこない。軸はブレブレだ。

 「あちこちオードリー」はトーク一本。これで十分番組として成立している。ネタもなければ、ロケもない。明快で、潔い。個人的にはこちらの方が好みだ。

 今後のゲストも気になるが、やはり注目すべきは若林のトークになる。有吉弘行、設楽統、矢作兼。僕が思う現在のお笑いBIG3の顔ぶれになるが、若林も思わずこの中に加えたくなる。若林の力がこれでもかと発揮されている「あちこちオードリー」。今後の放送も期待したい。

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