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短歌

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短歌
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2023年5月の記事一覧

満ち足りた一人も一人琥珀色求められない海の花びら

手遅れに人を誘う須臾の火々世界を閉じたびいどろひとつ

咳き込んで足りないものを並べ立て小雨ちらつく「あなたはいない」

百合ケ丘光の季節カラス麦アネモネの花アッチカの鶏

恐ろ世で片糸ついに声も出ずひたひたと隙音も濡れぬる

五線譜の歯並びかくも軽やかにいつも遅れて来たるあこがれ

清かなる記憶の川に隠れ身の玻璃の太陽揺りかごの月

人間の瞳に炎は隠される九割九分の先に本望

朝焼けに誰かの香り振りほどき真顔のために駆ける香水

永遠へ還れるものは風景と止まった時と詩の暴力

ひとたびはみかぎりあったせかいどもよごとなまめかれてはにくらし

華はまた戸惑いも無くそこにある「何も知らない」不条理の苑

限りなく二人の嘘を鮮やかに明日の瞳に芽生えゆくもの

喧騒の遥か向こうで微かなる只雉鳩の山の呼び声