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♪ 雑記 ~○○地方のチーズケーキ~

オチのない雑記 _ 2021.7.5


わたしは、母から料理をほとんど教わっていない。短大の近くでひとり暮らしをするまで実家にいたが、母の手伝いをしない親不孝な子どもであった。

高校生のときは特に、自分のことで精一杯で、まわりを見る余裕がなかったし、正直、母親が家事をするのが当たり前だと思っていた。

「雑記  ~子育ては楽しいですか?~」の記事に少し書いたような、「一家の主人は外で仕事をして稼いでくれば良い。家事は母親がするものだ」という昔ながらの昭和の家庭。わたしこそが、そういう考えを持つ父のもとで育ってしまった、残念な子どものひとりだったのである。


そんな中、唯一、母から受け継いだレシピがある。「チーズケーキ」である。

料理の得意でなかった母は、わたしが小学生のころ、料理教室に通っていた。それは、パスタや野菜が入った味のないゼリー(煮こごりとも違う)など、よくわからない料理を教えてくれる、不思議な料理教室だったと記憶している。

もしかしたら、あの料理教室は「世界の料理」がテーマだったのかもしれないと勝手に解釈しているのだが、時折よくわからない料理が食卓に並ぶと「あ、あの料理教室の日だな」と子ども心に感じていた。

そんな料理教室から教わってきたレシピの中に、それはあった。記憶では「○○地方のチーズケーキ」とタイトルがつけられていたと思う。

そのチーズケーキは、母の作る料理の中では一番と言っていいほど最高に美味しくて、子どものときは「いつものチーズケーキが食べたい!」とよくおねだりして焼いてもらっていた。

18歳で家を出るとき、母に「あのチーズケーキのレシピを教えて」と言ってレシピを見せてもらい、ノートの1ページ目に書き写してきた。書き写したときに、特に意味はないだろうと思って「○○地方の」という部分を省いて書いてしまった。

でも、その不思議な料理教室のよくわからない○○地方のチーズケーキは、母の一番の得意料理だったのと同じように、我が子たちにとっても大好きなケーキとなった。わたしの作るおやつの最前線を、何年もずっと走っていたのだ。


やがて子どもたちも大きくなり、あまりチーズケーキを焼く機会がなくなって、そのチーズケーキに「○○地方の」と付けられていたことなんてすっかり忘れていた 2018年、バスクチーズケーキが流行した。

その流行に乗って、流行り始めるキッカケとなった「ガスタ」というお店のチーズケーキを食べようと友だちに誘われ、買いに行って食べてみた。

友だちが先に食べて「わぁ、おいしい〜」と喜んでいるのを見ながら一口食べたとき、わたしは思った。

「これ、母のチーズケーキだ」

それは似ているとかではなく、母のチーズケーキそのものだった。わたしは困惑した。テレビでこぞって特集をして、お客さんが殺到しているこのチーズケーキと、母が作るチーズケーキが同じだと?    そんなわけがない。だって、あの不思議な料理教室のよくわからないレシピなのに。

わたしは動揺していることに気づかれないよう、友だちの真似をして「うん、ほんとだ~、おいしいね!」と驚いたふりをして、その場をやり過ごした。

しかし、帰ってきて、よく考えて思い出してみると、それはいとも簡単に納得できた。だって、あのレシピにはもともと「○○地方の」と書いてあったんだから。


今さらながらネットで調べてみたが、バスク地方では「バスクチーズケーキ」という名前では流通していないとのこと。もともとは、スペインの とある地方の、とある料理店のレシピだそうだ。なんだかちょっと、残念な気持ちだ。

母にレシピの名前のことを聞いてみたが、「そうだっけ?」という返事で、レシピの名前のことは覚えていなかったし、もうレシピはどこかにいってしまったということだった。今となっては、「○○」の部分に「バスク」が入っていたのか、とある地方の名前が入っていたのか、わからないままである。

でも、わたしは、きっとあのレシピには「バスク地方のチーズケーキ」と書かれていたと、勝手に信じている。だって、こんなに有名になったバスクチーズケーキと同じ味なんだから(本当はバスク地方で流行ってないけども)。

あの日、友だちと初めてバスクチーズケーキを食べたときからずっと、「わたしはバスクチーズケーキが流行る前から、バスクチーズケーキを作っていたんだぞ~!」と自慢したかった。

だから今、ここで自慢した。うん、満足。


1ページ目にチーズケーキのレシピが書かれたそのノートは、その後、たくさんのレシピが書き加えられ、料理雑誌のおいしそうなレシピの切り抜きがたくさん貼られ、便利な料理アプリがたくさんある今でも、たまに引っ張り出して活用している。

それを開くたびに、ああ、母に初めておそわったレシピはチーズケーキだったなと懐かしく思い、わたしは昔からバスクチーズケーキを作っていたんだぜと、ちょっと得意げにふふんと笑ってしまうのである。


最後に、タイトル画に載せた写真の言い訳を。

チーズケーキをよく焼いている割に、なぜかチーズケーキ全体の写真が1つもなかった。

上に載せた写真は、息子が高1のときの写真。部活で引退する3年の先輩を見送る「引退式」にて、後輩は料理を各自1品ずつ持ち寄る(パートごとなのでトランペットは30人分)という、親にとってはとてつもなく過酷なミッションがあり(息子が自分でやると言っておいて実際にひとりでやったことは一度もない)、チーズケーキを前日に3ホール焼き、冷ましてから、先輩用に1ピースずつ、他の部員用に小分けにして1つずつラップで包むという作業途中の写真である。

ちなみに、先輩用に包んだのが下の写真。

画像1

そして、後輩用が以下の写真である。めんどくさくなって、超適当に包んでいるところ。

画像2


ひとり暮らしをしている娘が帰ってきたら、久しぶりにこのチーズケーキを焼こうと思っているので、写真を撮ってこの記事を更新しようと思う。

乞うご期待!


いや、嘘です。きっと上手に撮れないから、期待しないで。




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