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「辻退団」に「寺嶋の離脱」…"CS絶望"からB1の頂点に立った広島ドラゴンフライズの快進撃

「最高の景色を見て終われることは本当に最高のことだと思います」
24チームあるB1の頂点に広島ドラゴンフライズが立った。この結果を予想していた人はファン・ブースター含め、評論家たちは誰もいなかっただろう。なぜならば、紆余曲折だらけのシーズンだったからだ。Bリーグ2023-24シーズンが終了したいま、不安定だらけだったこの1年を振り返りたい。

「辻ショック」で始まった2023-24シーズン

昨年広島はクラブ初のチャンピオンシップ(CS)にワイルドカード下位で出場した。初出場の喜びは束の間、CSの壁は高く、千葉ジェッツに1勝したもののクォーターファイナル(QF)で敗退した。それでも、出場できたという収穫だけでも大きく、来季に向けて広島ブースターの期待は高まるばかりだった。だが、5月24日大きなニュースが飛び出す。

「ドラゴンフライズ、辻の退団を発表」

広島にとってショックすぎる出来事だった。辻直人といえば、人気も実力も確かな選手だ。Bリーグを見るなら知らない人はいないだろう。「広島の顔」ともいえる選手の退団。来季へのステップアップやBプレミアに向けたアリーナ集客などを期待する中で一気に絶望に落とされた気分になった。その中でチーム編成も変わり、期待よりも不安の方が大きい中で2023-24シーズンが10月5日に開幕した。

不安をさらに掻き立てる開幕2連敗

広島は10月7日にFE名古屋のホームアリーナで開幕を迎えた。結果はまさかの2敗。エースの寺嶋良など選手が揃っていなかったとはいえ、すでに天皇杯敗退もしていることもあり、「本当に今シーズン広島ヤバいんじゃないのか」と開幕したばかりにも関わらず、降格まで覚悟したブースターまでもいた。

そしてオールスターまでの前半戦を15勝13敗で、まだ前半とはいえCS出場は難しいのかもしれない、という空気があった。

「CS出場は絶望」そう思った寺嶋の大怪我

さらにCSへの希望を閉ざされるような出来事が起こった。グリーンアリーナで迎えた千葉ジェッツとの2戦。2戦目に寺嶋が大怪我を負い、そのまま戦線離脱を余儀なくされた。「どうにか軽傷であってくれ」そんなファン、ブースターの思いは虚しく、立つことができず担架で運ばれていく寺嶋。そんな姿を見ながら「もう今シーズンは終わった」と、どこか上の空になった。

その時点で41試合を消化し、21勝20敗と五分で戦っていたが、その先には名古屋DDや群馬、川崎、島根など強豪クラブとの試合が待ち受けている。寺嶋なしでどう戦うのか……気持ちはただただ下を向くばかりだった。

ファン、ブースターが戸惑うほどの快進撃が始まる

広島の快進撃が始まった。

第27節の名古屋DD戦と第29節の群馬戦を接戦の末、どちらも2連勝をおさめた。「これまで苦手にしていた名古屋を相手に接戦をモノにするなんて…」と喜びを噛み締めつつ、だがCS進出にはまだ厳しい状況には変わりなかった。

「今の広島は強いのかもしれない」と思い始めたのが第30節の川崎戦だった。川崎は歴史あるクラブで地区でも天皇杯でも優勝経験のある、毎年CS常連の強豪クラブだ。今シーズンは開幕から首位を走っていたが、ビッグマンの離脱などでチームは下降気味だった。それでも2連勝するのは難しい相手。そんなチームを相手に圧勝したのだった。川崎は明らかに広島の強固なDFに攻めあぐねて、OFは個人技に走り、チームプレーが全くできていない。OFがうまくいかないからか、DFにも綻びが見え、簡単に走られる場面が目立った。

川崎をこんな状態にさせるほど、広島のバスケットが見違えるほどに強くなっている。「もしかしたらあるかもしれない」希望を感じ始めた2連戦だった。

最大のライバルをも撃破し掴んだCSへの切符

平日の試合は落としてしまったが、その後の大阪戦を2連勝し、いよいよ大きな山場がやってくる。最大のライバル、島根スサノオマジックとの2連戦だ。B2時代から常に負け越していて、今シーズンはすでに2試合消化し、1勝もできていなかった。しかもホームゲームでだ。第35節の島根戦は観客がブルーに染まるアウェーでの対戦。1つも落とせない試合で2連勝もできるのだろうか……不安と期待が最高潮になった。

結果は2連勝という最高の結果に。だが、バスケットボールの神様はまだ広島に試練を与える。他の地区の勝敗により、次節の琉球戦に最低でも1勝しなければならない状況になった。相手は昨年の王者。名古屋DDとの優勝争いがもつれ、琉球は1敗もできないのだ。互いに1敗も譲れない中、最終節は広島のホーム、広島サンプラザホールで行われた。

この日も島根戦同様、息を呑む大接戦だった。1Qはリードを許したが、2Qでは琉球を10点で抑え、終わってみれば10点差をつけて勝利し、CSへの切符を手に入れたのだ。

下剋上じゃけぇ!」をスローガンに挑んだ2度目の挑戦

CS出場を諦めかけた2ヵ月前とはうってかわり、ファン・ブースターは広島の強さはホンモノだと確信して臨んだチャンピオンシップ。クオーターファイナルは中地区を制覇した三遠ネオフェニックス。12月に対戦した印象としては圧倒的に強いというよりは「なんか知らない間に負けている」といった着実に点数を重ねていくチームだ。

Game1は3Qまで接戦だったが、4Qで広島が突き放し大手をかける。Game2は広島が前半をリードで終えるが、3Qでは7得点とシュートがなかなか決まらず逆転を許した。最後4Qは得点を入れて入れられての繰り返しで、30秒切っても試合はどちらに転がるかわからない展開だった。残り約23秒で、エバンスがカットインしたところに山﨑のバウンズパスが通り、見事エンドワンを決めた。フリースローは落としてしまったが、広島のチームファウルがたまっていなかったことからファウルゲームに持ち込め、時間を止めながら相手のプレータイムを消費することに成功。最後は大浦の放ったスリーが外れ、広島がセミファイナルに進出した。

身長で不利な広島。それでも勝ち抜いたセミファイナル

セミファイナルは西地区王者の名古屋ダイヤモンドドルフィンズ。同地区で何度も対戦してきた相手だけに互いをよく知る相手だ。広島に比べ、ウイング陣も高さがあり「須田のスリーが止まらなくなったら厄介だな」「スミスのところのリバウンド争いに勝てるか」「インサイドをしっかり止められるか」など、どこからでも得点が取れるチームだけにあらゆる不安や心配事が浮かんだ。

Game1は走られて得点されるシーンが目立ち、14点差で前半を終える。まだまだ諦める点差ではなかったが、相手が名古屋ということもあり、巻き返すには少し重たいと私は感じていた。だが3Qに入ると、相手のシュートが決まらなくなり、反対に広島のシュートが入り出した。3Q終えたときには名古屋をわずか3得点でおさえ、48-55と逆転に成功した。4Qに入ると名古屋が詰め寄ってくるが、要所要所で広島がスリーを決め、Game1を勝ち取った。Game1の前半の入りを反省しつつ、ファイナル進出に向けて挑んだGame2。課題だった前半を克服できず、昨日同様に大きくリードを許した。名古屋は3Qの入りも積極的にシュートを打ち、さらに点差を突き放していく。一桁差まで追い詰めたが、広島のDFエラーなども重なり、Game2を落とし、決着はGame3までもつれ込んだ。

広島はGame1と2で課題にあげていた前半の戦いを覆すべく、Game3ではスターティングファイブをメイヨではなくブラックシアーに変えると、それが見事に的中し前半を大きくリードされることなく、前半を35-38で終えた。後半は名古屋のスリーが立て続けに決まったが、エバンスが立て続けに得点を重ねたり、山﨑が嫌な流れを断ち切るスリーを決めるなど、リードしては追いつかれるの試合展開に終止符を打ち、広島がファイナルへの切符を掴んだ。

初のファイナルで選手もファンも圧倒されたGame1

いよいよファイナルの地、横浜アリーナへやってきた。相手は同地区の琉球ゴールデンキングス。琉球のファイナル出場は3度目で、広島は初出場だ。選手もファン、ブースターもファイナルの雰囲気に慣れないままGame1が始まると、開始直後から圧倒された。選手はどこか浮き足立ち、OFにもまとまりが見えない。応援も「GO!GO!キングス」の声援に負け、DFどころか音楽が流れるはずのOF時も琉球にかき消されていた。これまで数々のターンオーバーを誘発したDFにも綻びが見え、簡単にスリーを決められていく。前半は43-25と18点差もつけられた。後半はOFもDFも少し立ち直すことができ、接戦で終えたが、前半のリードが響き、Game1を落とした。

どのクラブのファン、ブースターも注目するファイナルの試合。CSに出場できなかったチーム、優勝したけどファイナルの前に敗退したチーム、さまざまな思いをもってこの試合に注目している。特に琉球の山は大混戦だっただけにGame1での広島の戦いぶりを見て「広島には力不足」などの声もSNSで上がっており、それだけ広島のバスケットができていなかった試合だったのだ。

負ければ終わりのGame2。ファン、ブースターも試合前に応援練習をし、気合いを入れ直した。最初に得点したのは中村。シュートタッチの柔らかさから、いつもの広島に戻っていることが確認できた。1Qはリードに成功したが、2Qは逆転され3Qには11点様まで広げられてしまった。だが、エバンスのスリーを皮切りに山﨑のスリーなどで詰め寄っていくと、エバンスのジャンプシュートで逆転に成功した。そこから一進一退の展開が続いたが、広島のシュートが立て続けに決まり、5分切ったときには11点差をつけてリードしていた。勢いづいた広島は逆転を許すことなくリードを保ち、Game2を勝ち取った。

最高の景色。頂点から響いた「勝ちじゃけぇ!」

運命のGame3。琉球にとっても広島にとっても、全Bリーグファンにとってもこの日が今シーズン最後の試合。

スターティングファイブは両チームともGame2と同じメンバーだ。1Q、2Qともに20点以下とロースコアな展開で、アウトサイドのシュートを射抜く広島に対し、琉球は個人技で得点を重ねていく。広島がリードしたまま後半に入ると、開始約2分で河田がファウルトラブルに見舞われ不利な状況に追い込まれることが予想されたが、この穴はマーフィーのリバウンドや強固なDFで埋めることができた。僅差の展開が続く中、山﨑のスリーやエバンスの1on1でリードを広げていく。4Qはファウルアウトとなった河田を欠く中、この日3×3でチームを離れていた三谷が初出場した。新人でファイナル初出場とは思えないほど、強度が落ちることなく、チームDFにしっかりと加わっていた。

広島のDFに攻めあぐねた琉球は4Qにターンオーバーを連発し、反撃ムードを一切つくることなくリードを広げ、悲願の初優勝を飾った。歓喜に湧く横浜アリーナの地で「勝ちじゃけぇ!」が3回響いたのだった。

希望をくれた広島のチーム力

日本代表に選ばれるような誰もが知るスター選手がおらず、エースガードを欠いていた広島がBリーグの頂点に立った。今シーズンの広島の戦いは決して順調ではなく不安定で、諦めている期間の方が多かった。(むしろ期待し出したのは、シーズン終盤の3月下旬くらいだった…)

だけどそのRS残り1ヶ月からファイナルまでの戦いぶりは広島ファン、ブースターでなくても「お見事」と言える内容だったではないだろうか。それと同時に大きな勇気をもらった。最後の最後まで可能性がある限り、希望を自ら手放すべきでないと。そして、1人の力ではどうにもならないことで、チームで一つになれば大きな力になることを。

広島のスイッチディフェンスが話題となったが、あれを40分間続けるメンタルと体力、そしてチーム力は相当のものだ。どのチームも遂行できるわけでない。全員をスイッチしていくわけだから、一人でもサボったり、気持ちがめげればあっという間に穴ができる。ファイナル3日目の琉球戦では本当にズレをつくらず、琉球は攻めどころを失い、最後はDFにエラーが出たり、フラストレーションがたまっていた。

朝山さんの引退、寺嶋の大怪我、そしてシーズン終了後に知ったことだが、すでに構想外となっていた選手やフロントのスタッフたち、さまざまな思いが広島を強くしたのだろう。

こんなに不安で興奮できるシーズンを過ごさせてもらえた広島ドラゴンフライズに感謝したい。ありがとう、そしておめでとう広島ドラゴンフライズ!

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