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【Day 60】最後の日記 2020.5.26

朝からクレジットカードの利用明細を眺めていたら、身に覚えのない履歴が目についた。

Amazonで22,000円の何かを買ったらしいのだけれど記憶にない。ログインして注文履歴を見てもそれらしいものが見当たらない。別のサイトでAmazon Payで決済した何かがあったのかと考えるも、思い当たる節もない。何かお買いものをすれば必ずメールが届くため、Gmailに金額を入力して過去のメールを検索したけれど、やはり何も表示されなかった。

これはおかしいということでAmazon側に問い合わせ、いろいろ調査してもらったものの、やはりその日、その金額で何かを注文した形跡はないという。これは不正利用されたかもしれない。詐欺師もステイホームで、パソコンを使った犯罪に力を入れていたのかもしれない。次はステイプリズンでお願いしたい。

お昼を過ぎ、公園の向こうのイタリアン・レストランに家族で行くことにした。外出自粛が開けたら「まずしたいことはなにか」と考えて、家族で美味しいイタリアンを外食したいと思っていたからだ。

公園を抜ける途中、すべり台やブランコといった遊具を取り囲んでいたネットが撤去されていることに気がついた。今日の0時に緊急事態宣言が解除されたことを受け、これまで通りに子供たちが遊べるよう元に戻してくれたらしい。

さっそく遊具で遊んでいる子供たちがいたし、平日のお昼にしては人出もそこそこあった。「日常」が戻りつつあることを喜ばしく思う。

ただしベンチのいくつかには「公園の利用を控えてください」と書かれた紙がまだ残っていて、これは「警戒を緩めるな」という意図的なものなのか、ただの外し忘れなのかは分からない。

正直なところ、このコロナ禍にあって「あそこにウィルスが付着しているかも」という考えが頭にこびりついて離れなくなってしまった。でも「汚いものを見る目」で世界を見たくはないし、人に対してもそうした失礼な態度を取りたくない。引き続きマスクと手洗い、三密回避とソーシャル・ディスタンスの確保に励みつつ、濁ってしまった自分の目を少しずつ洗い落としていこうと思う。

レストランに到着すると、すぐに店内に入ることができた。お昼時はいつ行っても満席だった超人気のお店なのだけれど、すこし遅めの来店とはいえ、埋まっているテーブルは2割にも満たなかった。それでいて厨房では以前と同じように大勢の人たちが働いていた。客足が戻らなければお店自体の存続が危ういのではと、経営の素人でも思う。

宣言が解除されて、雨後のたけのこのように外出しまくる人がもっと増えるのかと思ったけれど、世間はまだまだ警戒ムードが解けていないらしい。その意識の高さは喜ばしいことだと思う。一方で、経済の回復はかなり遅れるだろうなとも感じた。

とにかく難しいことを考えるのはやめて、美味しいパスタとピザを食べることにした。もう、涙が出るくらい美味しかった。


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いつもだったらランチにはサラダとデザート、食後のドリンクまで付くのだけれど、今はセットはやってないらしい。いや、そんなことはどうでもいい。この大好きなお店が存続してくれたらそれでいい。

あまりに美味しすぎて、『千と千尋の神隠し』のブタになってしまった両親みたいにがっついて、苦しいくらいにお腹いっぱいになってしまった。家に帰っても「睡眠剤でも入ってたのか?」と思うくらい身体がけだるく、ソファーに吸い込まれるように意識を失った(要するに昼寝した)。

家族で時間割を決めて毎日を張りきっていたのも、とうの昔。早寝早起きすらうやむやになり、すっかりだらしのない生活に逆戻りしてしまった。こんなことで「ウィズコロナ」を生き抜けるのか、さっぱり分からない。

60日間のステイホーム期間を経て、私は英語のリスニングが上達しました。ぬか漬けにトライしたら新しい自分と出会えました。筋トレの成果でムキムキの身体になり、今では20kgある子供を片手で持ち上げられるようになりました。

などと書ければ、どれほど格好よかっただろう。

現実は、なにひとつ達成したことはない。ちょっと部屋の模様替えをしたくらい。「これまでやり残していたこと」を片づけるのに精いっぱいで、ろくに本を読む時間もなく、新しい時代を迎える種蒔きもできなかった。よくて現状維持。これが自分にとっての「成果」だった。

誰かに「あのとき、どう過ごしてた?」と訊かれたら、僕には「日記を書いてた」くらいしか答えられない。しかもその日記の内容が実りあるものだったわけでもない。ただその日に起こったことと、ついでに思ったことを朝から夜まで順番に並べて書いただけだ。

でも「読者」を想定しない、事実を列挙するのみに徹した「純粋な日記」こそが、のちに読み返すに値する記録として機能するのではないかとひそかに期待している。すくなくとも書いた本人にとっては。

そうそう、ひとつだけ続けていたことがあった。それは「言葉の採集」だ。

新型コロナウィルスが発生してから、メディアやSNSではいろんな情報が乱れ飛んだ(なお進行形でもある)。その中で新しい言葉が生まれた。前からあったものの、よく聞くようになった言葉もあった。人口に膾炙していないけれど、とても的を得た表現のネットスラングも生まれた。

それらの言葉を一か所にまとめた「コロナ辞書」のようなものが、誤解が生じやすい言論空間に求められるのではないかと思い、誰に頼まれるでもなくせっせと言葉を集めていたのだった。

ちょうど「FOOT X BRAIN」というサッカー番組の録画を観ていたら、元日本代表監督の岡田武史さんがサッカー指導における「共通言語」を作るために『岡田メソッド』という本を書いたとおっしゃっていた。

たとえばフォワードの選手にボールを預ける「くさび」というプレイがあるけれど、そもそも「くさび」とは何を指すのか人によって解釈が微妙に異なるため、本を書くことで言葉の定義をはっきりさせたかったのだという。議論の中で同じ言葉を、同じ意味で使っていたら、次の議論に発展できる。確かにそうだなと思った。

岡田さんと並べて語るのはおこがましいけれど、自分としてもコロナに関す言葉を集めた「コロナ辞書(仮)」をまとめ上げたいと思っている。それが世間の役に立つかどうかは分からないけれど、自分が自分に課したワークとして最後まで取り組みたい。

今日まで採集してきた言葉を50音順に並べたものがあるので、ここに記して、最後の日記をしめくくりたい。


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この60日間、一日も休まず更新できたのは家族のおかげです。どうもありがとう。

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必ず春は来る。この非常時に何が起き、何を考え、何をしたか。コロナ終息宣言が出るまで綴る日記です。早くこの日記を終えられますように。

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