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誰も作ってくれない「コロナ語辞典」を作り始めた

あのとき、何があったっけ。

過去の出来事を思い出すとき、きっかけになるのは言葉です。記憶の大海に糸を垂らして引っかかった言葉から、奥底に沈んでいた「あのとき」がよみがえる。

でも、その言葉さえも忘れてしまったら、思い出すことさえできなくなるかもしれません。まるで初めから、そんなことなどなかったかのように。

たとえば、東日本大震災。まもなく10年の節目を迎え、自分の中で記憶が薄れてきているのを痛感します。

もちろんテレビに映った津波の映像は目に焼きついてますし、わが事のように悲しみにくれた出来事もまだ頭の片隅に残ってます。喧々諤々の議論がなされたトピックのかけらたちも、まだ体温をとどめています。

でも、そのほとんどは時間が経てば忘れてしまうことでしょう。印象的な「絵」だけが頭に残って、言葉は海に沈んでいく。

だから「あのとき」を思い出すには、どうしても言葉が必要なのです。

当時の出来事、その背景。巻き起こった議論と、そのとき自分が考えたこと。キーワードとなる言葉がひとつあるだけで、モノクロ写真に色がつくようによみがえるから。



さて、2020年1月頃から世界が「コロナ」で覆われました。まもなく日本でも緊急事態宣言が発令されて、世界的な感染症を意識しない日はなくなりました。

そのころから僕は、コロナに関する言葉を集め始めました。

今はまだコロナ禍のど真ん中で生々しいけれど、ほとんどのことはきっといつか忘れてしまう。だから後になって「当時のこと」を思い出せる字引きがほしい。そんな思いで、せっせと単語を採集することにしたのです。

その数、2021年2月15日時点で191個。

集め始めて1年近くが経っているので、中には「これってどういう意味だったっけ」と、早くも記憶があいまいになり始めているものもあります。

なのでそのひとつひとつを、まだコロナ禍にある今のうちに、自分なりに簡単な解説を加えて残しておきたいと思いました。

そうして作り始めたのが、オンライン版「コロナ語辞典」です。


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https://www.coronawords.com/


コロナ禍で生まれた新語、改めてよく聞くようになった単語、医学用語、政治の言い回し、社会的に広まった流行語、ネット発の造語など、自分の観測範囲で確認できた言葉をピックアップしました。

まだまだ辞典としての完成度は30%ほどで、解説を書ききれていない単語がほとんどです。

ですが、ひとまず「単語が網羅されている」だけでも(自分にとっては)有用だと思い、ベータ中のベータ版ながら公開することにしました。




少々古い話ですが、Google が登場する以前のインターネットは Yahoo! の「ディレクトリ型検索」を頼りにしていました。カテゴリーで区分けされた有用なサイトが網羅されていることに価値があった時代でした。

その利便性を圧倒的に上回ったのが後発の Google なわけですが、一方で万能と思われた「ググる」には「知らない単語は調べようがない」という側面がありました。

さらにはブラウザに表示される広告も、SNS のタイムライムも、今やすっかり最適化されてしまう世の中。自分にとって都合のいい情報だけに包まれてしまう「フィルターバブル」の外側が、どんどん縁遠くなる一方です。

コロナにまつわる言葉たちも、そのいくつかは自分のまわりに形成されたバブルの外側にはじけ飛んでいるのかもしれません。

そこで僕が求めたのは「辞典」でした。一瞬でも世の中に登場し、耳目を集めた単語を抽出し、会社の思惑や忖度が反映されがちなニュースサイトとは異なる、可能な限りバイアスを排した解説付きの辞典が欲しかったのです。

そして辞典の価値は「索引があること」です。単語ごとの解説はもちろん大切ですが、まずは言葉の地図があること。言葉の海を探求するための「海図」があることが何より大事だと思ってます。もっと詳しく知りたければ、そこからググるなり、関連書物を読めばよいのですから。




そんなわけで、コロナの世の中になってから1年経って、待てど暮らせど誰も作ってくれないので、自分で辞典を作り始めることにしました。

着手してみて感じたのですが、ここの文章を過去形にするのか進行形にするのか、この言い回しをした方がいいのかそうでないのか、そもそも何を書いて、何を書かないべきかなど、とにかく神経を使う作業であることが分かりました。

三浦しをん著『舟を編む』という小説がありましたが、まさに辞書作りは大海原を漕ぎ進むようなものなのだなあと実感しています。

現状、1日に2つか3つくらいのペースで解説を書いているので、いつ完成させられるかは分かりませんが、というかコロナ禍であり続ける限り新しい言葉が生まれ続けて永遠に完成しないのかもしれませんが、少しずつ時間を見つけて埋めていきたいと思います。

もしも「これは追加した方がいいんじゃないの」と思われる言葉や正確性に欠ける記述、誤字脱字、配慮の足りない表現等がありましたら、ぜひ教えていただけるとうれしいです。

より良い辞典をめざして、これからアップデートし続けます。よろしくお願いいたします。


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https://www.coronawords.com/





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