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ここからあと一歩

新聞ラテ欄はNHKの番組紹介、ワールドカップのドイツ戦を前にした特集予告には「ムゲン」「チャンピオン」「タマシイ」……といった単語が並ぶ。その目線を下に下にずらしながら、1行目に縦読みを試みた。
いや、違うな。もう一度上から順に、そしてそれぞれの共通点に気付くと同時に目の前がじわりと滲んでいた。
ちなみに日本代表が初出場した98年フランス大会時のNHK放送では番組テーマ曲を設けていなかったらしい。その次の日韓大会がもう20年前。はっきりと覚えているはずの得点シーンでさえも、対戦国やその他の選手名となるとおぼろげになる。それだけ確かな年数と歴史が紡がれている。

きっと、どうしようもないことなのだけど、各大会でワールドカップトロフィーを掲げた歓喜の瞬間よりも、その記憶と同じかそれ以上に敗者の去り際が焼き付いて残る。
両手を腰に当てたままでうなだれていたり。
怪我を抱えた状態も追いつかずに転倒したり。
ゴールポストにもたれて座り込んだり。
駆け巡ったフィールドで仰向けのまま寝転んだり。
退場を告げられ届かなかったトロフィーに背を向けたり……
そうして、過去から現在へと近くなっていくはずの記憶は、馴染みが薄くなったテーマ曲とともに鮮明さが失われる。

どうも思い出されるのは昔のことばかり。
現代を象徴するスピードに圧倒されても、立ち止まることなく。
1オクターブ下げたKing Gnuを曲に合わせて口ずさんでみる。

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