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大手オンライン書店以外から本を買う(スウェーデンの場合)

 日本にいてスウェーデンの本を物理的に手に入れようとすると、選択肢は限られてきます。出版されるほとんどの本が取り揃えられている大手オンライン書店はスウェーデンにもいくつかあります。けれども、国外への発送はあまり盛んではなく、ヨーロッパ圏外への発送を行っている書店はたったのひとつだけなのです。その唯一の書店 BOKUS は1997年創業と、スウェーデンでは老舗のオンライン書店です。ちなみに、BOKUS に先駆けること3年、1994年創業のアマゾンは、スウェーデンには長らく進出していませんでした。昨年秋にスウェーデンでもサービスが始まりましたが、現時点では国内発送のみとしています。

 そんなわけで、海外でスウェーデンの書籍を読みたい人にとって、BOKUS は非常にありがたい存在です。ところが、2021年1月の終わりごろから、BOKUS は EU 圏外への発送を止めています。ある日、本を注文しようとすると、手続きを進めることができなくなりました。当初は、新型コロナウィルス感染症拡大による輸送機減便などの影響か、と思ったのですが、どうもそうではなく、郵便業者との間で関税についての協議が原因で発送を一時停止しているそうです。

 「EU圏外への発送一時停止」というお知らせが、BOKUS ウェブサイトの「よくある質問」コーナーの端に、ひっそりと記載されています。「協議中ですが、来月には解決する見込みです」や「思っていたよりも時間がかかっています」というような文言もあります。毎月のように「依然協議中ですが、来月にはなんとか」という希望的観測の見通しが更新されて、今にいたります。

 スウェーデンの書店では、毎年2月の終わりから3月にかけて、「BOKREA」と呼ばれる本のバーゲンセールが行われます。今年の BOKUS でも、例年どおりセールがにぎやかに開催されていましたが、海外には発送されないので買うことができない、という状態でした。つい先日も、「チェックリストに入れていた本が刊行されたので購入できますよ」というお知らせが届いていました。ええ、購入できるものなら購入したいのですが……。

 では、ここ数ヶ月、スウェーデンの本を全然買っていないのかというと、そんなことはありません。いろいろな方法でいつもよりも買っているくらいです。

その1.電子書籍を利用する
 電子書籍であれば発送は関係ないので購入可能です。とはいえ、電子化されていないものも多くあります。

その2.デジタル配信サービス(定額読み放題、サブスクリプション)を利用する
 スウェーデンには、StorytelNextoryBookBeat など、自国発のデジタル定額読み放題サービスがたくさんあります。オーディオ版(聴く方)と電子書籍版(読む方)の両方がサービスに含まれていることが多いので、ある程度の本はこの配信サービスを使って読むことができます。

 わたし自身が配信サービスを利用し始めたきっかけは、とある本を急ぎで調べることになったことでした。紙版の到着を待つ日数の余裕はなく、電子版もない、という状況で、なんと配信サービスでは電子版を読むことができたのです。その便利さに驚き、そのままその配信サービスを使っています。調べ物などで多くの資料にあたりたいときには、とてもありがたいサービスです。

 使ってみているうちにわかってきたのは、「紙版が品切れで電子版も刊行されていないのに、配信サービスでは電子版が手に入る」というケースも少なくないことです。スウェーデンの出版業界は、近年ますますデジタル配信サービスに力を入れているようです。どうせ電子版を作るのであれば、電子ファイル単体で販売してくれてもいいのでは、と個人的には思うのですが、今後も「紙版品切れ、電子版なし、配信あり」というケースは増えていきそうな気がします。

 配信サービスを利用する場合、出版社によっては特定のサービスにしか配信をしていないところもあるようなので、注意が必要です。

その3.個人書店や出版社
 そうはいっても、やはりデジタル配信を行っていない出版社や、デジタル配信されない作品、というのもたくさんあります。小さい出版社のものは特にそうです。デジタルで手に入ってもやっぱり紙で読みたい、確かめたい、というものもあります。

 では、どうすればいいのか。個人経営の書店や出版社の直販サイトを利用すればいいのです。これまでは BOKUS 一択だったため、あまり知らなかったのですが、個人書店で海外発送を行っているところがあります。また、出版社でも海外発送に対応しているところがあります。ほしいと思った本を検索してたどり着いた書店や出版社の直販サイトで確認すると、意外とスムーズに手続きが進みます。

 ある書店では、カートで自動的に注文すると、「1冊ほどで箱のサイズや重量が変わって送料も変わるけど、どうする?」という確認のメールが届きました。そして、「これからは注文の前にメールして、そしたらできるだけ送料がかからないように(それか、送料がかかるようにか、そこはお好みで)対応するから」とも。

 ああ、この個人的なやりとりの感じ、懐かしいなあ、と思いました。以前に CD をレーベルから直接購入していたときには、注文に関するメールの中に、バンドや音楽全般に関するちょっとしたひとことが書いてあることが多く、それを楽しみにしていたことを思い出しました。

 また、出版社直販サイトを利用すると、その出版社が刊行している別の作品も目に入るため、「こんな本があったのか!」という発見があります。そういうかたちで見つけた何冊かは、個人的にこの春の最大のヒットでした。探していた資料が偶然に見つかったり、気になっていたことがよくわかったり、と、とても重宝しています。

 「書籍の海外発送に対応している書店が少ない」という先入観で、もうずっと大手のサービスを使っていましたが、こういう手があったのか、こんなこともあるんだな、と、一周まわった感じでの発見でした。

 小さな書店では、手に入る書籍にどうしても限りがあることもあり、BOKUS の海外発送再開を待つ気持ちがあるのは否めないのですが、今回知った第3の方法も併用していきたいと思っています。

BOKUS については、創業者の書いた本があり、日本語訳も出ています(現在絶版)。詩が大好きな文学青年とモデルの女性という幼なじみカップルによる、異色のスタートアップ物語です。ほんの少し出てくる BOKUS に関するエピソードでは、アマゾンがこんなふうに書かれています。

「株式公開は利益をあげてからだ」一人がそう言い放った。
「《アマゾン》の例があります」と、カイサ。
「《アマゾン》ね!」彼はふんと鼻を鳴らした。「あの会社はぜったい儲からんよ」


エルンスト・マルムステン『夢があるなら追いかけろ』(鈴木彩織訳、ヴィレッジブックス、2003年)より

(文責:よこのなな

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