見出し画像

「フィンランド語始めました」

フィンランド語を習って6年になりました。きっかけは、インド・ヨーロッパ語族ではない言語の文法に興味をもったことでした。

学び始めてみると、文法は想像以上に複雑でした。
1. 動詞は人称変化する。(これは、普通。)
2. 動詞の不定詞は5種類ある。(うそでしょ!)
3. 名詞、形容詞の格(「~が」「~を」「~へ」など)は普通使われるものだけでも 12種類ある。単数形と複数形のそれぞれが格変化をする。(まあ、ロシア語も格は多いし...。)
4. 動詞の不定詞も格変化する。(こんなのって、聞いたことある?)
5. 所有接尾辞がある。つまり、私の」「あなたの」「彼/彼女の」などを接尾辞で表すことができる。(接尾辞がそのままつくならまだしも、単語本体の形も変化させる場合が多い。)
6. 分詞が5種類あって格変化する。(英語は現在分詞と過去分詞のみなのに。もうここまで来たら勝手にしてよ。)

例えばドイツ語だったら、英語に似ているので、1年勉強するとやさしい本は読めるようになります。一方、フィンランド語は、たとえ1ページに1行しか書いていないムーミンの絵本でも、なかなか読めるようになりません(それを思うと複雑な文法規則を自然に身に着けてしまう子供の能力はすばらしいですね)。結局ムーミンの絵本を読めるようになったのは、ヘニング・マンケルの『霜の降りる前に』のフィンランド語訳”Ennen Routaa”を読めるようになったのと同じころでした。

文法が複雑でも、なぜかもっとできるようになりたいと思わせ、魅了して離さない言語です。フィンランド語は日本語と同様に母音の割合が多く、日本語で言う濁音(d、g、 b など)は少ないので、耳にやさしく心地よく響きます。

フィンランド語の勉強は、6年前から朝日カルチャーセンター横浜で、毎週土曜日に五十嵐淳先生の授業を受けています(今はオンライン)。五十嵐先生の授業は、格変化や動詞の人称・時制変化の規則(単に決まった語尾をつけるだけでなく、単語の形によって変化のしかたが異なる)を「厳密な規則+例外」として綺麗にまとめて、繰り返し繰り返し教えてくれます。標準的な文法書よりずっとまとまっていて、この五十嵐方式は、数学屋の私にとって、とても分かりやすいものでした。

単語を覚えるのは、まったく未知の音の組み合わせなので最初から大変でした。外来語が少ないので、英語から推測できるということはめったにありません。やっと3000~4000語ほどたまってきて、さらに小説を読むために語彙を増やそうと思っても、今度は年齢による記憶力の低下を感じました。でもあきらめたくありません。『霜の降りる前に』からよく使われる単語、物語の鍵となりそうな単語を600ほど辞書で調べて、単語ノートを作りました。単語だけでは覚えにくいので、単語ノートで「フィン←→ 日」の練習をしながら、『霜の降りる前に』を読み返して、文脈の中で意味を確認しています。読み返す中でノートの単語も少しずつ増やしています。

上で、年齢による記憶力の低下に触れましたが、6年の間に、仕事で手いっぱいでフィンランド語のことを考えるだけでプレッシャーになった時期もありました。『霜の降りる前に』を読む余裕ができたのは定年退職してからです。

去年から朝日カルチャーセンター新宿で、上山美保子先生の「フィンランド語の小説を楽しむ」という購読のクラスも受講しています。辞書と首っ引きでの予習は、それはそれは大変です。内容を正確に理解したいので、フィン英の大辞典も使って日本語訳を作って授業に臨みますが、それでもよくわからない箇所がいくつか残ります。それが授業内で先生の説明で解消する爽快感は最高です。今読んでいるのは Antti Tuomainenの”Parantaja”(勝手に訳すと『必殺世直し人』か?)というディストピア小説です。あまりに面白いので、辞書を引かずに最後までざっと目を通してしまいました。これから辞
書を引いてじっくり読んでいきます。このクラスは受講者がいろいろ意見を言いながら訳していくのが楽しくて、タイトルのParantajaは「良くする人(improve, healする者)」という意味ですが、タイトルのぴったりした訳は最後まで読んで考えましょう、ということになっています。

私はミステリー好きなので、フィンランドのミステリーを読めるようになることが目標です。フィンランドはまだ翻訳されていない面白いミステリーの宝庫に思えます。もう少し語彙が増えたら、Heikki Valkamaの”Pallokala”(フグ)を読みたいです。フィンランド人シェフRikuが日本でフグの毒を使った犯罪に巻き込まれるミステリー小説らしいです。

次にフィンランドへ行く機会があれば数学、科学の本を買ってきたいと思います。せっかく北欧語翻訳者の会に入れていただいているので、メンバーの翻訳の際に、スウェーデン語、デンマーク語に加えてフィンランド語も、数学・物理に関して何かお手伝いできるようになれればと思っています。

註:ヘニング・マンケルはスウェーデンの作家ですが、文章が平易で同じ単語を繰り返し使うので、読解練習向きです。フィンランド語訳もしっかりその特徴を受け継いでいました。内容もスウェーデン社会の問題、人物の心理描写などが興味深く描かれています。
『霜の降りる前に』は記念にとヘルシンキの古本屋で1ユーロで買ったものですが、私のフィンランド語学習の要になりました。

(文責:服部久美子)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?