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ノルディックトークスジャパン「デジタル社会における平和と民主主義の進め方」

デジタル技術の活用は、様々な形で国際平和、安全保障、民主主義に貢献する可能性を秘めています。例えば、平和プロセスや選挙において、より包括的な参加を促進することがで来ます。しかし、同時に、偽情報の拡散などを通じて、紛争を悪化させる可能性もあります。

平和と民主主義を促進するために、デジタルツールをどのように活用すればよいのか。デジタルメディア環境は、欧米社会にとってどのような課題と機会をもたらすのか。デジタル化とデータ社会における民主主義の未来とは?

4月26日開催のノルディックトークスジャパンでは、このテーマについて北欧と日本の第一人者をパネリストとして招き、ディスカッションを行いました。会場は、共催のUNIVERSITY of CREATIVITY。会場とオンライン合わせて150名以上が参加しました。

基調講演:
アン マリー エントフト ラーセン氏、デンマーク技術担当大使
パネリスト:
市原麻衣子氏、一橋大学大学院法学研究科教授 
ラウノ・メリサーリ氏 フィンランド 民主主義・人権担当大使
ヤコブ・ハルグレン氏 スウェーデン国際関係研究所所長 
モデレーター:
大門小百合氏 ジャーナリスト、東京女子大学非常勤講師、前ジャパンタイムズ編集局長

©︎UNIVERSITY of CREATIVITY

デジタル化の恩恵にはグローバルな協力関係が不可欠

基調講演でラーセン氏は、デジタル技術が人間社会にもたらす肯定的な影響を強調。「ソーシャルメディアは、地球規模での共感、コミュニケーション、エンゲージメントを生み出し、平和と繁栄を高めることができます。しかし、これらの機会を十分に活用し、リスクを軽減するためには、国際社会の協調が不可欠です」。この分野の北欧のイニシアチブとして、デンマークのデジタル・デモクラシー・イニシアチブ(テクノロジーで声なき人に声を届けるプログラムを支援するための助成金)と、2022年5月に北欧閣僚会議によって設立されたNordic Think Tank for Tech and Democracy」を紹介しました。

©︎UNIVERSITY of CREATIVITY

デジタル技術は、市民に力を、政府に透明性をもたらす

パネルの冒頭、モデレーターの大門氏は各パネリストに、デジタル技術のプラスの影響をどのように捉えているかを尋ねました。ハルグレン氏は「デジタル技術はより多くの人々に声を与え、政府に透明性をもたらし、人と人との直接的な関係を強化することができきます。例えば、スウェーデンのグレタ・トゥーンベリの活動は、デジタルツールなしには、これほど世界的な動きにはならなかったでしょう」と言及。メリサーリ氏は、フィンランドがデジタル技術を国家と国民の直接的なコミュニケーションの手法として捉えていることを紹介。「例えば、フィンランドの「国民のイニシアチブ制度」では、有権者の5万人以上から署名を集めれば、国会に立法案を提出することができます。同性婚法はこの制度によって実現しました」。
市原は「解放のための技術」という言葉を紹介し、かつては国家主権だけが持ち得た力を、デジタル技術の普及により市民も持つことが可能になり、国際社会に大きな影響を与えることが可能になったことを説明。またデジタルプラットフォーム上の匿名性は、危険な状況にある人々に声を上げやすくしていることにも言及しました。

©︎UNIVERSITY of CREATIVITY

基本的人権、包摂性、責任の所在がリスクに

続いて、デジタル技術の弊害について意見が交わされました。メリサーリ氏は前提として、弊害について話すとき、技術そのものが弊害を起こすのか、あるいは人間の使用方法が弊害をもたらすのか、その区別をはっきり認識しべと注意を促しました。「多くの場合、デメリットをもたらすのは人間の使用方法です。例えば権威主義的な社会では、デジタル技術の使用方法が基本的人権の侵害リスクとなり得ます。また、デジタル世界における包摂性の問題にも注意が必要です。例えば、フィンランドでは、75歳以上の人口のうち、オンライン公共サービスの手続きをしているのは20%に過ぎません」。ハルグレン氏は、匿名性が責任感の欠如につながるというマイナス面を指摘。市原氏は、「ソーシャルメディアは市民にとって、意見や懸念を表明するためのプラットフォームとして機能しています。しかし、気づかないうちに、同じ考えを持つ人だけが集まるフィルターバブルの中でしかコミュニケーションをとっていないことに注意すべき」と指摘しました。

©︎UNIVERSITY of CREATIVITY

 ChatGPTの利用は規制されるべきか?

ChatGPTの使い方についても触れられました。産業革命で自動車が社会に登場した際、初めは何の規制もない状態で使用が始まりました。その後、人々の安全を守るためにやがて規制が入りました。ChatGPTも同様プロセスを踏むべきなのでしょうか?倫理的な側面はどうコンセンサスを形成すべきなのでしょうか?メリサーリ氏は、あらる政策や規制は、規制と技術開発を可能にすることのバランスを保つ必要があると指摘。国際人権条約など、既に存在する関連規制を改正・改善することも、対処法のひとつだと言及しました。ハルグレン氏は、あらゆる技術は中立であるべきだが、ChatGPTは中立を保てるかどうかは開発者の間でも不安が広がっていると指摘しました。市原氏は、権威主義国家がAIを使った監視技術で市民のデータを収集している現状に言及した上で、ChatPGTの台頭により、当局はこうした監視技術すら必要すらなくなることを指摘。むしろこのような監視から市民を守るためのChatGPTの使用方法を考えるべきと指摘しました。

©︎UNIVERSITY of CREATIVITY

若い世代と共に作るカウンターシナリオ

終盤には、教育の重要性が提起されました。ハルグレン氏は、偽情報やエコーチェンバーなどの弊害を認識させるために、幼少期からの教育が重要であると指摘。メリサーリ氏も、デジタルリテラシーやメディアリテラシーのハイレベルな教育が非常に重要であることに同意。市村氏は、AI技術が人権や民主主義、平和の侵害ではなく啓蒙のために利用されるよう、カウンターナラティブを設計することの重要性を強調しました。その際、若い「デジタルネイティブ」世代とのコラボレーションの必要性を指摘しました。

ディスカッションに続き、活発な質疑応答が行われました。会場から、デジタル技術の分散化、「アラブの春」におけるデジタル技術の活用、現段階でのChatGPTの規制の正当性など、多岐にわたる質問がなされました。

©︎UNIVRESITY of CREATIVITY

人間中心のテクノロジーへのアプローチ

最後に、駐日フィンランド大使のタニヤ・ヤースケライネン氏は、デジタル技術に対する人間中心のアプローチ、市民の安全を守るための教育、デジタル技術の良い面を生かすための当局と市民の信頼関係、より多くの声を行政に届けるための市民のためのオンラインスペースの重要性を強調しました。

©︎UNIVERSITY of CREATIVITY

最後までお読みいただきありがとうございました。下記より当日の録画もご覧いただけます。Please visit here for an event summary in English.

ノルディックトークスジャパンは、持続可能な未来に向けた、インスピレーションを与え合うことを目指して行うイベントです。デンマーク王国大使館、フィンランド大使館、アイスランド大使館、ノルウェー大使館、スウェーデン大使館、フィンランドセンター、ノルディックイノベーションハウス東京が共催しています。

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