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書かない優しさ

大学で研究室生活を送っていた頃、
メモ帳に「嬉しかったこと」「感動したこと」などを
書き留めて日記がわりにしていました。
ほとんど読み返すことはないのですが、
3年ぶりに読んでみたら、忘れていた記憶が沢山。
書き留めておいてよかったと心から思いました。

1行で終わる日から2ページに渡る日まで、さまざまです。
いくつか紹介します。(人に見せる予定ではなかったから字が汚い!)
たとえば…

2017.06.05

覚えてないなあ。笑
こういう小さなことに幸せを見出すのは大事です。
マツキヨとかウェルシアとか書かずに
ドラッグストアって書いてるのがなんか面白い。誰に配慮してんねん。

2017.07.19

これはですね、一見すると大したことないんですけど、
当時の自分の気持ちを考えれば
何故これを書きたかったのかはっきりわかります。
私は長く動物と暮らしてきて、実家に犬や猫もおりますが
子犬・子猫の時代から育てたことがなかったのです。
保護犬と保護猫なんで。
私はこのとき獣医学生。(さらっと打ち明ける)
「子猫触った経験がないまま獣医になるの不安だなあ」と
思っていたんですよ。
だから、「ついに子猫を触ったぞ!」と喜んでいるんですね。
おそらく、大学病院の診療補助をしていたときに
だっこしたのでしょう。
ちなみに、大学病院に子猫が来院するのは結構珍しい。


2017.12.15

研究室の忘年会の帰り道のできごと。
こういうの、いいですよね。
…いや、忘年会の感想は!?
帰り道のできごとの方が印象に残っているところに
私の飲み会嫌いが読み取れます。

大学には素敵な先生がたくさんいらっしゃいました。
高校時代まで、先生と呼ばれる存在で心から尊敬できる人に
ほとんど出会ってこなかったので、
優しくて個性的で尊敬できる先生方との交流は
楽しくて仕方ありませんでした。

つづいて、こちら。 素敵な思い出です。

2018.01.12

一般的にどうかはわかりませんが、
私の学部では基本的に1人の先生と二人三脚で研究を進めていきます。
こちらの"先生"は、研究室生活における私の師匠でもあり、
人生の師でもあります。
高校時代にオープンキャンパスで見かけてからずっと憧れの存在で、
そんな大好きな先生のもとで研究できたのは本当に幸運でした。
師匠の優しさも沁みますが、
自分の頑張りにも泣けてきました。
こういう日あったあった!
蛍光顕微鏡って、真っ暗な中で使わなきゃダメなんですよ。
真っ暗な部屋に1人でこもって観察するのは孤独でした。
朝から実験して、結果が出るまでに卒論を同時並行で書き進めて、
隙間時間でお昼を食べて。
とにかく、実験のスケジュールが最優先で、
実験計画を正確に進めるために常にタイマーが手放せない日々でした。

最後に、こちら。 
2ページに渡って書かれていますが、
赤裸々すぎて恥ずかしいので前半だけ公開します。

2018.02.08

この"先生"も、さきほどの師匠のことです。
師匠のアメリカ行きが濃厚になって、
具体的な予定を聞いた日のことです。
書かれている通り、家のドアを開けた瞬間に大泣きしました。
基本的に嬉しいことを書く予定のメモでしたが、
このときのことはどうしても書き残したかったんでしょうね。
留学後、師匠に会えないまま卒業しましたが、
国家試験を乗り越え、無事に獣医になった私は
複数の病院が集まって開催している勉強会で
師匠と再会を果たすことになります。
(…しかし私は今はもう病院を辞めまして、
別の夢を追いかけております。)

さて、いろいろ見てきましたが、気づいたことがあります。
それは、母についての記述がないこと。
詳しくは書きませんが、
私の母は2018年に強制入院しました。
この日記を書いている期間中の出来事です。
卒論と研究発表の準備、国試勉強もしなきゃ…
という、ただでさえしんどいとき。
心は磨耗しきっていました。
嬉しいことを書く日記とはいえ、
あれだけ衝撃的な出来事ですから
やはり書いているだろうと思ったんですが。
入院したその日でさえ
「〇〇先生と一緒に写真を撮った!」しか書かれていません。
明らかに、意図的に母の話題を避けています。

この母に関する空白の記録は
過去の自分の強さと優しさの表れではないかと思います。
後で読み返して「幸せだったな」と思うために書いていた日記です。
そこに、書くわけにはいかなかったのです。
悲しみをぶつけたい気持ちをぐっと押し殺して
後に日記を読むであろう未来の自分、
つまり今の私を守ろうとしたのだと思います。
せっかく思い出さないように隠蔽してくれたのに
思い出してしまった。ごめんね!

日記を読んで過去の自分からの優しさを受け取れるとは
思っていませんでした。
日記、なかなかいいものですね。
未来の自分のためにnoteを日記代わりにしてみようかな。

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