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アメリカの”中絶裁判”(3):1973年判決を覆した最高裁判決の意義

共産化に向かっていっていた、アメリカのここ数年

今回の最高裁判決のポイント

最高裁が1973年判決(”中絶規制は違憲”)を覆したことで、「6月24日の判決で、中絶問題が”アメリカを分断する新たな火種”となった」と、メディアや活動家の間で大騒ぎになっています。先例拘束力の原則(裁判所はやむを得ない理由がない限り、過去の判例を覆すべきではないという考え)があるアメリカで、最高裁判決が覆されるというのは、大変な出来事です。

この判決により、アメリカの法的秩序がみ出されたかのような印象を与える報道が続きますが、それは違います。1973年判決に従った下級裁判所の判決に対する上告があった最高裁で、もう一度、憲法に照らし合わせて違法かどうか検討したところ・・・
1)憲法には中絶についての言及がない、
2)適正手続条項によって保護される憲法権利は、アメリカの歴史に深く根ざした権利でなければならない

この2点から、1973年判決が適切ではないという判断が下り、そのため、1973年判決を元にした下級裁判所の判決も却下されたわけです。

なぜこのようなことが起きるかといえば、アメリカの判事には、憲法解釈の方法により、現代社会のニーズに合わせ、憲法をより拡大した解釈を行うリベラル派と、憲法設立時の解釈に忠実であろうとする保守派に分かれています。

1973年判決時の憲法解釈では・・・
妊娠を継続するか否かの決定は、アメリカ市民としての身分の広範な定義が盛り込まれた憲法修正第14条に規定されているプライバシー権に含まれる
とし、”中絶規制は違憲”という判決を下したのでした。

詳細は↓
■アメリカの”中絶裁判”(1):最高裁判決を適切に伝えないメディア、判決が意味するもの

このどちらの解釈が適切なのか?ということは、憲法学者の間でも論争が広がることころであり、私にはわかりません。その判断を行うのが現行法上では最高裁判所ということになっています。

今回、最高裁判所が言及したことには、もう1つ重要な点があります。中絶問題がはアメリカ人の見解が大きく対立する深遠な道徳的問題とした上で、だからこそ、「国民の代表での議論に戻されるべき」と、強調されています。

ここ数年のアメリカの裁判

ここ数年間の(もしかしたらもっと以前から?)アメリカの裁判には、うんざりするものがありました。重要な裁判において、法よりも情に従ったような判決が続いたからです。

でっち上げが広く認識されることとなってきた、トランプ大統領をめぐるロシアゲート疑惑ですが、最近、この疑惑についてFBIに事実無根の通報したサスマン
被告が、ヒラリー陣営の弁護士であるという自らの身分についても虚偽の報告を行なっていた件についての裁判がありました(中立な立場の人が通報するのと、支持者が対立候補を通報するのとでは、FBIによる事件性の判断が影響を受けるため)。
一般人を名乗る被告がFBIを自由に出入りできたりする一方で、FBIはサスマン被告に対しトカゲのしっぽ切り的な証言をしたり・・・と、ヒラリー陣営との関係性以上に問題がありそうな証拠が数々出てきて、いよいよOゲートなのか、Hゲートなのかの扉が開かれるか?と思いきや・・・。裁判が行われたワシントンDCは9割が民主党支持者という、真っ青なブルーステイトだったということもあり、最終的には、無罪。理由としては、FBIに通報した時のタクシーの領収書がヒラリー陣営ではなかったからセーフとか何とか・・・。

無罪という結論にたどり着くためには、どの証拠を採用すべきか?という検討を、陪審員の間で行なったのではないかと邪推してしまうほどの結果でした。

現大統領とその息子くんに対する捜査も同様です。「新たな証拠が!」みたいな報道がなされていますが、保守派にしてみれば、そんなことは2020年の選挙前から明らかにされていたことで、息子のものとされる、同じパソコンから見つかった同じ動画、メール等に対し、当時は陰謀論的な扱いをしていたにも関わらず、何を今さら、という気もします。

2020年といえば、個人的にはファウチ博士とCDCのコロナ対応に不信感を募らせていた時でしたし、BLM運動が高まる一方でアジア人への暴力事件が度々起きていた頃で、アメリカは一体どうなってしまうのだろう?という不安がどんどん大きくなっていった頃でした。結論ありきで、その結論にたどり着かせるためには手段を選ばないーーアメリカの民主党は、リベラルではなく、共産党なのだと気がついたのもこの頃でした。

リベラルな憲法解釈は、柔軟と捉えられる範囲であるならば、有効なのかもしれません。しかし、結論ありきで、その結論を導き出すために捻り出した拡大解釈が認められるのであれば、”権力を持った一部の人間が好き勝手にできる社会”へまっしぐらになる危険性があります。

最高裁の決定の意義は、アメリカ民主主義の原点回帰

選挙システムに見られる、アメリカの民主主義

植民地からの独立の歴史があるアメリカでは、人々は基本的に政府を信頼しておらず、大きな政府も望まない人が多いと言われています。日本の多くの制度は、性善説に基づいて制定されたものが多く、近年、悪意を持った外国勢に好き勝手にされている節がありますが、アメリカは違います。民主主義の要とも言える、選挙ですが、この選挙システムでさえ、適切に運用されない前提で、制度が作られています。

これは2020年度選挙の時に知っったことですが、選挙を監視し、不正を正す方法として用意されたのが下記のプロセスです。

大統領選の投票
   ↓
州務長官が開票結果を認定
   ↓
州知事が、州務長官により認定された開票結果を承認
  ・開票結果に基づき、選挙人を選出
  ・ネブラスカ州とメーン州以外は、”勝者総取り方式”を採用。
  ・上記2週は、候補者間で選挙人を分割
   ↓
選挙人団投票を行う(12月14日)
  ・選挙人は通常、州で最多得票を得て勝った自党の候補に投票すると誓約。
  ・とはいえ、最終的に誰に投票するかはその選挙人次第。
  (”不誠実な選挙人”と呼ばれる人たちも)。
   ↓
連邦議会の上下両院合同委員会を開催(1月6日)
  ・副大統領が選挙人団の投票を読み上げる。
  ・連邦議会議員には、選挙人投票の集計に異議を唱える権利がある。
  ・異議があった場合は下院、上院それぞれに分かれ、申し立てを議論、採決。
  ・次期大統領を正式に認証

通常は形式的に行われていることとはいえ、選挙のプロセスに問題があると見なされれば、上記の各段階で、選挙結果を覆すことができる仕組みになっているのです。このプロセスを知らない方にとっては、2020年の大統領選挙結果について1月21日の就任式まで揉めていたことに対し、「いつまで揉めているんだ?」と不思議だったかと思います。「不正があった」と信じる保守派支持者にとっては、この各段階で、”不正追及が行われること期待し、そして落胆し”を繰り返していていました。

さらに、議論が割れた”大統領選プロセス”に、次期大統領選挙における、現役副大統領権限がありました。

・副大統領は、”不正選挙があった疑いがある”として、不正選挙疑惑で混乱している州から送られてきた選挙人団名簿の受け取りを拒否できる。その場合、州議会で選挙人を選び直した上で再送。
・両院合同委員会の議長である、副大統領には議長権限が認められる

余談ですが・・・

  • 2020年選挙時には、副大統領自身が権限を否定し、使用されることはありませんでした。

  • 州レベルでの認証では、不正疑惑のあったジョージア州で、RINO(共和党のふりをした民主党員)と言われたケンプ州知事が何か行動起こすのでは?という期待が高まっていたところで、彼の娘のフィアンセ(同州共和党議員の秘書)の車が通常の追突事故とは思えない大破し、死亡した事件も起こりました。

  • 議会襲撃事件が起こったことで、上下合同委員会は異常事態の中で行われる等もありました。

そもそも投票所にも、不正行為を告発する”選挙監視員”がいます。不正選挙を訴えた宣誓証言を行った人の多くには、この選挙監視員もいて、監視活動の妨害があったことを訴える人も少なくありませんでした。

というわけで、機能したかどうか?という点はわかりませんが、アメリカの選挙制度には、これだけの”監視の目”が働いているわけです。なぜ監視するのか?といえば、信頼できないからです。そして、これだけ制度が複雑化するほど重要になってくるのが、権限の範囲だと思います。例えば、選挙監視員は不正選挙についての証言はできても、警察ではないので当然ながら、逮捕権はありません。ここで、明らかな違反行為を行ったので、現行犯逮捕する等のことが認められれば、おかしなことになってきます。

一方、日本で投票所に行き、選挙管理委員が適切に運営しているか、監視するボランティアになろうと思う人はいないかと思います。不正行為があれば、警察が暴いてくれるだろうという前提があるからではないでしょうか。

民主主義社会であり続けるために、
民主主義の制度、運用をしっかりと見守り続けることが重要

言い換えるならば、民主主義の脆さを理解している故に、民主主義を守ろうという強い力が必要・・・アメリカには、そんな考え方があるように思います。

今回、”アメリカの民主主義”の特徴のような形で述べてきましたが、特殊なのはむしろ日本の方かもしれません。

最高裁の判決の意義

1973年判決に対する、最大の批判は『憲法の明文にも、修正第14条の制定者の意思にも、根拠を持たない”新たな権利”が、裁判所によって承認された』ということでした。裁判所が持つ権利は司法権であり、立法権を持つのは議会です。その権限範囲を超えた、近年の最高裁判決は、”司法積極主義”と批判されています。

現政権を含め、リベラルを名乗る米国共産党は、何かと権限範囲を越えた政策を行なってきます。一党独裁による大きな政府を目指しているのですから、当然といえば当然です。民主主義であることにあぐらをかき、”過大解釈”という名のもとの、越権行為を許していけば、あっという間に独裁政権の支配下に置かれてしまうでしょう。というのも、彼らは、平等や弱者救済等々の社会的に正しいとされるスローガンを抱え、「あなたの今の(望んでいない)状態は、あなたの責任ではなく、社会の責任」と、耳障りの良い言葉で近づいてきます。そして、「正義のためなら手段は選ばなくて良いのよ」・・・と。
これは中国や、ソ連の歴史を見ると明らかで、手段を選ばない正義なんてあり得ないわけです。

憲法に中絶についての言及がないことは、1973年判決時に多数派だった”中絶を女性の権利”とする判事も、少数派の反対判事も認めていたところです。意見がわかれたのは、これが適正手続き条項によって保護される憲法上の権利かどうかとう点です。憲法修正第14条が批准されたのは、南北戦争後の1868年のことで、解放された元奴隷の権利確保のために提案されたものでした。中絶が権利だとする判決は、この修正条項を拡大解釈したプライバシーの権利にあたるとするものでした。
一方、これに対し、中絶が適正手続き条項には当てはまらないとする派は、採択時までには、36の中絶禁止法が制定されていたにも関わらず、これらの法律が憲法上問題視されることがなかったことを挙げ、修正14条批准時、製作者が権利とするものに中絶はなかったと主張しています。

解釈の幅について判事の判断に任せるというのは、立法行為との線引きが難しくなるように思います。解釈で揉めるよりも、国民の代表であり、立法権のある議会が新たな修正条項を設ける方がスッキリしますし、メディアが言うように、大多数のアメリカ人が”中絶は女性の権利”と考えているのならば、批准への心配もいらないと思います。

メディアをはじめ、左の方々は、「女性の権利が制限された」と言いますが、今回の判決で制限されたのは、むしろ最高裁自身の権限。繰り返しになりますが、最高裁判決は、中絶を禁止したものではなく、中絶規制を違憲とした判決を覆し、その根拠とした、最高裁自身が出した1973年判決が間違えだったと判断したに過ぎません。最高裁が自らの権限について、適切な範囲に戻した判決と言えると思います。

「アメリカが古い価値観に戻ってしまった」米最高裁“中絶権利の権利”剥奪…なぜ49年ぶりに判決が覆ったのか というような記事を出しているメディアもありますが、裁判所の役割を理解した上でのこの見出しなのか、疑問です。それとも、憲法は古い価値観だとでも言いたいのでしょうか。
判事も人間ですので、判決にそれぞれの価値観が反映されないとはいえないと思いますが、判決理由として言及されていたのは、あくまでも憲法や修正第14条の解釈がどうか?について。最高裁は中絶の良し悪しについては判断していないので、判決に反対の意を唱えるのであれば、憲法解釈で行うべきです。
また、同じ記事中の、”イギリス、カナダといった国からも遺憾の意が示されている中、国際社会からの批判を最高裁はどのように受け止めているのだろうか”という疑問も愚問です。最高裁が考慮すべきは、国際社会が何を語っているかではなく、あくまで憲法がどう語っているかです。最高裁が、国際世論を考慮に入れた判決を出すようになったら、それこそ悪意ある外国勢力の思うツボ。最高裁に何を期待しているのでしょうか?

こんな記事が出てしまうのも、三権それぞれの役割分担が曖昧な状態にあるという”三権分立の危機”、ひいては”民主主義の危機”の現れなのかもしれません。

三権が分立し、互いをしっかりと監視し、国民はさらにそれを監視する

危うさのある民主主義だからこそ、しっかりと民主主義を守り抜く姿勢は不可欠です。そして、そのためにも、曖昧な越権行為を許さず、三権をきっちりと分立させ続けることが重要だと思います。

今回の最高裁判決は、崖っぷちにあるアメリカの民主主義を、憲法という原点に回帰させ、決められた以上の力を発揮しようとする権力を制限したという点で意義のあることだと思います。とはいえ、これでアメリカの民主主義が守られたというわけではありません。様々なところで共産党との熾烈な闘いは続いています。

中絶規制については、判決を受け、当面、州政府レベルでの決定が優先されることになりますが、憲法レベルで必要だと思う人が多いのであれば、連邦議会で話し合えば良いと思います。”国民の代表が話し合うべき”というのが最高裁の判断なのですから。

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