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足助のおばさんと教育 25 高校生11

夢のつづき  11

    夢のつづき
第11回 受験
(前号まで:水田君をふったものの、松田君との接点もなく、寂しい青春を送っている由芽子だった。)
 三年生になって、クラスは文系と理系の受験希望によって分けられた。由芽子は坂立ちしても文系である。松田君は理系に違いない。夢のオールキャストだった二年生を終えて、由芽子も他の生徒たちも、いやおうなしに受験になだれ込んでゆく。
 ただ、ラッキーなことが一つだけあった。他の進学校では、普通芸術科目は三年生に残さないらしいのだが、千種高校では、三年生になっても週に一時間の芸術選択クラスがあった。由芽子の属する三年八組と、松田君の属する三組は、芸術科目の時間が合同だった。週に一度、美術の時間にだけ、松田くんを目にすることができる。これだけのことが、どれほど由芽子の慰めになったことか。松田君は、いつも笑っていた。その笑顔は、今も由芽子の脳裏に焼き付いている。
 さて、これまでは噂話にすぎなかった「共通一次」が、ついに現実の壁となって由芽子の前に立ち現れてきた。しかし、実際には共通一次が由芽子に味方したとも言えなくはない事態にことは運んでいた。
 というのは、共通一次に向けて、三年生の受業は全て一年生の復習のようなことになったのだった。三角関数にカウンターパンチをくらった由芽子だったが、数Ⅰの受業に戻ってみれば、なんとかついていくことができた。英語も、担任の先生の言葉を信じて、一年生からの教科書をやり直してみた。案外いけるぞ、という手応えだった。
 ところが、三年生になって、さらに盛り上がるのが学祭である。一年、二年と映画をとり続けてきた由芽子だったが、三年生は舞台(演劇)と、なぜか相場の決まっている千種高校だった。そして、由芽子はクラスの出し物の脚本を手掛けることになったのである。
 演目は「ユタと不思議な仲間たち」。劇団四季で当たりをとったミュージカルである。由芽子はこの脚本のために、受験勉強の時間の相当を費やさねばならなかったが、苦にならなかった。
 劇は、大好評で学祭最終日に再上演されることとなり、CBCのニュースカメラも入って、まさに由芽子たちの劇が、その日の夕方のニュースで放映されたのである!
 それはそれで、充実した青春であったが、由芽子は恋愛に関しては、一種の諦観に陥っていた。自分に恋愛は似合わない。一生を職業婦人として暮らすのだ。それには、教員をおいて、自分の道はあるまいと、固く思い詰めていた。18才にしてである。ちょっとお待ちよ、と声をかけてやりたいほどの切なさである。
 共通一次の本番に向けて、クリスマスも正月もないような冬休みがすぎた。いよいよ受験シーズンである。共通一次の導入に伴って、国公立大学は一校のみ受験可という改悪も施されていたから、過去の受験情報が何も役に立たない状況だった。しかし、由芽子は不思議に落ち着いていた。教育大学一本、すべりどめはなし、という由芽子の方針に、担任も両親も同意してくれた。もし駄目なら、服飾学院に行って、お針子の道を選ぼうと考えていた。
 結果は、共通一次1000点満点のところ750点という大奮闘で、由芽子は教育大への進学がかなえられそうだった。(続く)(2008年2月1日 記)

(元ブログ 夢のつづき  11: Here Come the 足助のおばさん (asukenoobasann.com)

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