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足助のおばさんと教育 21 高校生7

夢のつづき 7

夢のつづき
第7回 コンタクトレンズ
(前号まで:イラストとギターのうまい松田君に憧れていた由芽子だったが、いきがかり上、水田君と二人で昼食を共にすることになった。)
 星が丘のマクドナルドで、水田君はいつか由芽子に話してくれた映画の話をしてくれた。「果樹」というそのシナリオの中で、あいかわらず由芽子はヒロインということになっていたが、由芽子はそれは冗談だろうと、受け流していた。
 しかし、水田君の「果樹」にかけた情熱は、その年の学祭のクラス演目として発表されるよしクラスメートの了承を得ることになる。ただし、ヒロインは由芽子ではない。クラスメートの投票の結果、容姿性格ともに優れた村井さんという女生徒がつとめることになった。由芽子は、小道具係という役回りである。それが妥当だと、由芽子は思った。
 昨年撮ったハチャメチャなSFものとは打って変わって、「果樹」は真摯な青春ものの映画であった。当時、シラケ世代と一括りに呼ばれていた由芽子たちの世代だった。「果樹」の主人公はそんなシラケムードの漂うクラス運営に悩む級長で、彼に転校生であるヒロインが力を授けるというストーリーである。シラケムードに悩む級長は生徒会長である水田君自身であり、彼が由芽子の手を借りたがっていることがそのシナリオを通じて由芽子にはよくわかった。
 もし、水田君がこんな間接的な形でなく、直接に由芽子に交際を申し込んでいたら、この話はまるで別な展開になっていただろう。だが、彼はそれをしなかった。しないままに、由芽子が全てを理解してくれているものと思っているふしさえあった。
 水田君の個人的な思惑とは別に、映画の撮影そのものは順調だった。映画のロケと称してクラスの半数ぐらいがしょっちゅう定光寺くんだりまで繰り出した。もう時効なので書いてしまうが、中央線の定光寺は無人駅である。由芽子たちは、国鉄の千種駅で入場券を買ってホームへ入り、定光寺では券を出さずに映画の撮影に入る。撮影後には無人の定光寺で乗車して何食わぬ顔で千種駅で入場券を見せて降りてしまうのである。
 また、オープニングタイトルも凝っていた。「宇宙戦艦ヤマト」を模したアニメーションを取り入れることになったのだ。音頭取りは、もちろん松田君である。松田君の描いたセル画に、美術選択の生徒たちが色を入れていく。由芽子には、やはり松田君の方が魅力的に思えるのだった。
 クラスは、水田君の願いどおりに「シラケ」とは無縁の活況を呈していた。そもそも、由芽子たち自身、自分達がシラケてるなんて思ったことはなかったのだ。由芽子たちの少し上の、団塊と呼ばれた世代が大人になって、自分達と比べて今の若い者は、と名付けた「シラケ世代」だったかもしれない。大人たちの若者評は、いつも的を外れているものだ。
 高校二年生は忙しい。部活動の大会もあれば、修学旅行もある。同じ頃、栄にセントラルパークが出来上がり、お洒落な女生徒たちは学校帰りにちゃっかり「栄ぶら」を楽しんでいた。学祭の準備に重ねてこなしていたのだから、みんなどうやって勉強していたのだろう。
 17才の夏休み、由芽子は一つの決心をした。メガネを外そう。わがままをとおしても、コンタクトレンズを買ってもらおう。黒板の文字さえ見えにくくなっていた由芽子の決意は固かった。(続く)(2008年1月28日 記)

(元ブログ 夢のつづき 7: Here Come the 足助のおばさん (asukenoobasann.com)

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