彼20歳、私53歳 Ep017 ネット恋愛編 旦那さんの愛と優しさの正体

あれは約一年前。娘が第一志望の大学に落ちた。それを旦那さんは「努力が足りなかった」と激しく責めた。

娘は泣きながら大きく叫んだ。

「お父さんは普段は勉強してるとココアやおやつを持ってきてくれて優しいけれど一番優しくして欲しい時に優しくしてくれない!」

娘が旦那さんの優しさの正体を暴いた。

私は旦那さんに長年感じていた違和感を娘の言葉で気付いてしまった。私は泣き崩れる娘を抱き締めながら、その衝撃に頭の中は呆然としていた。

自分の怒りを交えて旦那さんに「何でこんなに頑張ってきた子にそんなことが言えるの!?うちの娘は優秀です!そして私たちには勿体無いくらいに良い子です!」と怒鳴った。そこから大喧嘩になった。

子供が産まれてから旦那さんとは一回しか喧嘩をしたことがなかった。この大喧嘩で私たちは一年間ギクシャクしていた。

旦那さんは外に楽しみを求めず家庭第一のお父さん。家事や育児は手伝いレベルを越え積極的に参加し重要な担い手だった。何でもしてくれた。どうしたら、そんな旦那さんになるの?と人に聞かれる程だった。互いを尊重する理想の夫婦だったと思う。

寝かしつけで子供と一緒に寝てしまい家が荒れたまま夜が明けても「大変だったね」と文句一つ言わなかった。

時には一人で出掛けるのもいいと飲み会へも快く出し娘たちの世話をしてくれた。

早くに父が他界して一人になってしまった母を自分の家族以上に、とても大事にしてくれた。

私の親戚、友人ら、社交的で感じの良い旦那さんをみんな好きになった。私の友達なのにと思うほど親しくなった。

仕事は情熱を持って真面目にし同期で一番の出世をした。

私が家族にすることを当たり前とせず、いつでも感謝してくれた。

家族を大事にし私や娘たちを何よりも大切にしてくれた。

でも・・・時々、旦那さんに激しい怒りや大きな虚しさを感じる違和感があった。旦那さんへの怒りに誰もいない時に物に泣きながら八つ当たりをしたこともあった。

しかし、こんなにいい旦那さんに違和感を感じる私が悪いと思った。また子供の前で喧嘩はしたくなかった。私は私の心を守ればいいと口を噤んだ。

旦那さんの優しさの正体。それは自分本位の優しさ。相手の気持ちを考えてではなく自分があげたいと思った時にしか差し出さない優しさ。

私が望んでも自分が気乗りしなければしない。もしくは渋々行う。寄り添って欲しい時は気乗りしなければ露骨に寄り添ってあげているという態度だった。

自分が優しくして気持ち良くなることしかしないのだ。きっと本人は無自覚だ。

でも基本が優しいので独りよがりな優しさであっても20年間仲良く暮らせた。気付かないように目を逸らしていたとしても私たちは仲の良い夫婦だった。ベストパートナーだった。

20年間で築いた関係は堅牢のはずだった。また旦那さんに対して信頼と愛情の気持ちを取り戻したかった。

一年ぶりの夫婦の営みで、もう戻れないんだなと悟った。旦那さんの愛の正体に気付いてしまった私は旦那さんに期待するのを諦めてしまった。

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