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下戸だった母

今年の10月で母が亡くなって、丸5年になる。年が離れた兄を妊娠中に高血圧がひどくなり、私がおなかにいた時は妊娠中毒症(妊娠中期から後期にかけておこる病気で、高血圧やむくみがおこる。母親だけでなく赤ちゃんの発育にも影響がある)プラス高齢出産で、いろいろ大変だったらしい。

母の食の好みは、今でも家族で話題になる。刺身に醤油をベッタリつけていた、酸っぱいものが好きだった、実は鶏肉が好きじゃなかったけど兄と私の好物だから、ということで唐揚げとか鶏肉系の揚げ物をよく作ってくれたとか。そして毎年祖母と伯母が作る梅酒をチビっと飲んでは、「あー、酔っぱらうわぁ」と言っていた。また一口飲んでは「あー、いい気持ちだぁ」と言っていた。そしていつの間にか布団に横になっている。その一連の行動を見て子供だったわたしは「そんなにすぐ酔っぱらって寝ちゃうなら、お酒を飲まなくていいんじゃない?」と冷静に思い、よく母に言っていた。ある日、母が「舐めてみる?」と笑いながら梅酒を差し出した。「あー、あれか・・」と一瞬ひるんだけど、無理やり乾杯をさせられ母の真似をしてチビっと飲んでみた。ふぅーん。またチビっと舐めてみた。ジュースとは違うけど、甘いね。結局4,5回舐めてみても、私の言動は変わらない。母がしつこく「眠くならない?」「フラフラしない?」と聞いてきたが、私の答えは「ううん」。そして母は「この子は私と違って、飲めるんだ!」と驚いていた。

そして母とお酒で思い出すのは「ビールの泡」だ。相当の下戸だった母が「あたし、これならイケるのよ!」と得意げに話し始めたのがビールの泡だった。わたしは一瞬考え、母に言った。「あのぉ、これってすぐ無くなるよね。ビール自体はどうするの?」そして母から「お兄ちゃんかあんたにあげるわ。だってこんな小さいのよ」と、おままごとに出てきそうな小さなビール缶を見せながら答えが返ってきた。ある日下戸とわかっていながら何故アルコールを口にするのか聞いてみると「だってみんな楽しそうじゃない。お酒を飲む場所って活気があるし。そういうのが好きなのよ」と、母から答えが返ってきた。「はい乾杯するわよ、乾杯」母はそう言ってわたしが持っていたグラスと合わせて乾杯した。母が比較的元気だった時は、こういうやりとりが何度もあった。下戸なのにお酒を飲みたがる人だったので、母との乾杯が記憶から離れない。

若い頃はよくわからなかった母の言動も、仕事をしながら息子を育てる立場となった今は理解できるようになった。ほんの少し息抜きしたかったんだ。下戸なりに楽しみたかったんだ。母とは何度か乾杯したけど母はどんな気持ちだったのかな。息子が成人して一緒に乾杯が出来るようになったら、何を思うのかな。

まだ先になるけどわたしがあの世に行った時は、「マミ、よく頑張ったね」の一言と一緒に乾杯したいな、お母さん。





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