シン仮面ライダー

シン仮面ライダーむちゃくちゃ良かった。
予想通り、静かな映画だった。全編を張り詰めた静けさが支配していて、エヴァ→シンシリーズとして、どんどん地味になってきており、元々オードブルのようなものだったのが、仮面ライダーは新幹線で独り静かに食べる幕の内弁当のようだ。

そして、この静けさは起きる一瞬前に見ている夢のような静けさでもある。雰囲気としてはちょうどエドワードホッパーの絵のよう静寂。これはいわゆる「キタノブルー」みたいな、庵野の素晴らしい手持ち武器なんじゃないかなと認識した。

どんどん地味になっていくシンシリーズだが、それぞれの原作に宿っていたマッチョなテーマ性を黒魔術で原作通りのまま現代に復活させるというテーマというか課題もある。仮面ライダーならば、「人間愛と改造人間の人生の悲哀」だろうが、ここもとても良くって、胸に刺さった。

人間とか人生はとても面倒なものであり、逃避のためにサイクロン号(ライダーのバイク)はあるのかなと。
つまり、救われるためには、遠くに移動する用意をしておく必要がある。庵野は精神的、物質的逃避の末に茫漠とした日本の風景が目の前にある的な表現を多用してきたが、今回もこれらの風景たちが美しい。不意にゴダールの映画を思い出した。ゴダールの「気狂いピエロ」は逃避自体がテーマだが、今作ともに果てのような風景の中で似たような桟橋を歩くシーンがある。
地球なら、逃げた先に最後に辿り着くのは、海である。逃避があり海が美しい映画はどれも素晴らしいが、今回のシン仮面ライダーの描く海は涙が出るほど美しかった。

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