『祈り選集』13月号

ヒョウモントカゲモドキと暮らしています

『祈り選集』13月号

ヒョウモントカゲモドキと暮らしています

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テレビショッピング(散文詩)

彼がテレビの電源をつけると、若い男が一人、何か講演をしているようでした。 「今、自分に絶望しているあなた。そう、たった今テレビをおつけになった、あなたです。大丈夫、あなたはいい人です。自分に絶望しているのは、あなたに良心と向上心があるからです。それはとても素晴らしいことです。つまり、あなたには素質がある。さらに私が紹介するこの商品を買いさえすれば、あなたは絶望から救われ、正真正銘の善人になることができます。商品の効果はあなたが死ぬまで保証します。永久保証です」 なんだ、商品の

    • 生まれてきてよかったね

      私は大学を卒業した後、1年間働いて適応障害になり退職してニートになった。その後は実家に帰って、少しだけ働いて暮らしている。案外すんなり両親が受け入れてくれ、助かった、と思いながら今も少ししか働いていない。 今ではあまり強い言葉も言われないが、子どもの頃は母親からのモラハラがあり、毎日のように殴られていた。死ねや捨てるなどの暴言も一度ではなく、いつも貶され、理解できないことで激昂されて殴られて嫌だったなと思う。 今では母親も、多少狂ってるところはあるが落ち着いていて、自分も

      • 跳ね橋問題

        大学生のときに雑談で教えてもらったもので、トロッコ問題のような、盛り上がりそうな話がある。跳ね橋問題だ。 登場人物は男爵、男爵夫人、門番、船頭、友達、恋人の6人である。 男爵は嫉妬深い人で、遠くの領地を訪問するとき、男爵夫人に「私がいない間、この城から出るな。もし出て行ったら、戻ってきた時に罰を与える」ときつく警告を行って外出した。 しかし、しばらく経って、男爵夫人は寂しくなり、恋人に会いに行くことにした。しかし、城は島のような場所にあり、そこから出るには川を渡っていかな

        • アジアン・ポップ展

          アジアン・ポップ展に行った。 ポスターにも出ているケンタッキーの絵は、トロツキーの顔が重ねられているそうだ。 印象に残ったのは台湾の作家の『春宵夢Ⅳ』と、パキスタンの作家の『ハート・マハル』だった。 『春宵夢』の方はすこし照明を落とされた部屋に一枚がドン、と展示されていて存在感があった。レバーを踏むと周りのライトが光るようだったが、壊れていた。こういう展示には始まってすぐに行く方がいいのかもしれない。 ある昆虫展で、2回見に行ったのだが、実際にカブトムシを触れるコーナーがあ

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        テレビショッピング(散文詩)

          自傷者

          素直に自分の話ができたらどれほど良かっただろうか! 誰にも気兼ねせず幸せになり 誰にも気兼ねせず不幸になり 私が悲しいだけで「悲しむほどのこと」と受け入れられるなら! 「泣くほどのことじゃない」と咎められ 許されているのは他人の目を通した悲しみを悲しむことのみ。 あなたはもういないにも関わらず、あなたの視線だけが私をじっと捉え続ける。 だから私は私の悲しみを取り戻すため、ナイフを腕に滑らせる。 そうすれば私の悲しみは、これでようやく、「自傷するほどのこと」となる!

          夢から覚めて(三題噺)

          涙、枷、体温計 絶対に熱が出ているから、体温計は使わない。 私はぼんやりとカーテンから漏れる朝日をみながら、布団をかけなおした。 こういう苦しさから逃れるためには、眠ってしまうのが一番良い。そう考えながら再び目を閉じて大人しくしていると、また眠くなっていく。 夢の中で私は手に枷をつけられていて、石造りで殺風景な薄暗い部屋にいた。一つだけある小さな窓から覗くと、地面は遥か遠く、ここは塔の上のようだった。部屋には特に物はなく、ひんやりとする地べたに私は裸足で立っていた。扉はな

          夢から覚めて(三題噺)

          お花屋さん(三題噺)

          花 笑顔 携帯電話 あるところに、体から花が生えてくる女の子がいました。その花はとても美しく、女の子はたまに大切な人にそのお花を渡すのですが、もらった人はみんな幸せになる、魔法のお花でした。 さて、その子のお父さんはお花屋さんでした。ある日、その魔法の花の噂を聴いた街の人が、花を売ってくれないかと頼みました。 お父さんが女の子を呼んで相談すると、女の子はいいよ、と言ってお花を渡し、お客さんは高い代金を支払いました。 「恋人に渡すんだ。ありがとう」 そう言って丁寧にお辞儀をし

          お花屋さん(三題噺)

          「彼氏」の話

           私は少し前まで、「彼氏」という言葉が使えなかった。付き合っている男性のことは必ず「恋人」と言って、絶対に「彼氏」と言う言葉を使わなかった。  なぜ「彼氏」という言葉が嫌いなのか分からなかったが、「相手の性別を本人に確認したわけでもないのに性別を限定しているのが気に入らないのかな」と思い込んでいた。しかし、「そうじゃない」と気づくきっかけがあった。  彼女ができたのだ。彼女にも相手の性別を本人に確認したわけではないが、相手が自分のことを「(筆者)の彼女」と言ったからそれに合わ

          ラブレターパック(散文詩)

          Netflixでアニメを観ていると、突然インターホンが鳴り、こんなときに一体なんなんだ……と思いながらしぶしぶドアを開けると、郵便屋さんが立っていた。 「こんにちは。ラブレターパックをお届けに参りました。こちらは、ポスト投函でなく対面でお渡しして、さらにその場で絶対に返事を書かせるというサービスになっております。今すぐ読んでお返事を書いてください。一刻も早くです」 彼は慇懃な調子でそう言って、丈夫そうな封筒を私に寄越した。封筒には「ラブレターパック」「愛の重さ4kgまで」の文

          ラブレターパック(散文詩)

          天使の勧誘(三題噺)

          愛されない、終末、ミルク あるところに1人の女性がいた。女は、「自分は愛されないし無能」だと感じていたため、とても孤独だった。 駅の改札を出て、流れて行くような人の動きを見ながら、「人がいない、静かなところへ行きたい」と言葉が口から溢れた。 「おやおや。私もそう思っていたところなのです。このあとお時間ありますか。一緒にお茶でもどうですか」 突然、嘘みたいな笑顔の男性に声をかけられた。彼は真っ白い服を着ており、顔は彫刻の如く美しく、もはや聖性さえ感じさせるものがあった。 驚い

          天使の勧誘(三題噺)

          バイバイ(三題噺)

          愛着、置き手紙、バイバイ 仕事で引っ越すことになって、部屋を片付けている。そこそこ愛着のあったものもたくさん捨てて、あとは本を段ボールに片付ければ大体の作業は終わりだ。 本棚をざっとみて、少し心が痛む。売るかどうか迷ったが、結局手元に置いておいた本が一冊あるからだ。昔、その本を貸した友人がそれを返してくれた日以来、彼女とは音信不通になっている。 「あなたが寛容で優しくみえるのは、人類に絶望しているから」 私たちが最後に会った日に言った言葉を思い出す。そのときは「へぇ、

          バイバイ(三題噺)

          ちはやふる神がこの世にいなくても君の光が君を照らすよ

          ちはやふる神がこの世にいなくても君の光が君を照らすよ 抱っこして!あなたの愛で数分の間だけでも僕を助けて 人間を愛してたいの そのために神と摂理を憎んでいるの わかりあえないのがわかりすぎるから絶望するの ただひたすらに 通学路 朝の光よ夏の樹よ 僕の嘆きを聴いてくれるか

          ちはやふる神がこの世にいなくても君の光が君を照らすよ

          罪から生まれる神(三題噺)

          宗教、女優、犬 目が覚めると、真っ暗で、何も見えなかったけれど、肌で感じる温度が暑くて、直射日光を浴びているはずなのは間違いないし、手触りで草むらにいることは察しがついた。 「どういうことなんだ、全く......」と頭を抱えようとするけれど、頭があるべき場所に手をやっても、なにもない。お湯がたくさん入っていると思って持ち上げたやかんが空っぽだったときみたいな肩透かし感を100倍で食らったような気持ちになってびっくりしてしまう。 慌てて周囲の地面を弄ると、何か柔らかい毛皮

          罪から生まれる神(三題噺)

          狭い部屋(三題噺)

          恋、停電、葬列  目が覚めると、真っ暗で、停電かと思ったが、どうやら箱に閉じ込められているらしい。パニックになって周りの壁を叩くと、どうやら目の前の部分が押せば簡単に開きそうだとわかった。少し重いので慎重に蓋を開け、外に出る。  かなり狭い部屋だった。「なんなんだ一体......」そう思いながら信じられないくらい重い扉を開いて別の部屋に出てみると、昔の恋人がいた。慌てて隠れたが、相手は気づいていないらしい。ぼうっと虚空を見つめている。すごく怖い目をしている。ちょっと気にな

          狭い部屋(三題噺)

          (約)140字小説2

          眠りたいどうにかして眠りたいので、念を送って応援してください。用事があって起きてるわけではありません。横になって、ずっと眠れずにいます。あなたさえ私が眠れるよう祈ってくだされば全てが解決するのです。眠れなかったとしてもあなたが念を送ってくれたのだと思えば、私は苦しまずに朝まで待つことができます。  眠りなさいこのまま起きていては危険です。一刻も早く寝てください。どうか、私を信じてください。私だけを信じれば、この忙しい学期を乗り越えることができます。本当です。嘘ではありません

          (約)140字小説2

          花と詩

          僕の死んだ言葉が生きている僕を超越する 生きている僕が気の狂った思考を巡らせる 気の狂った思考が美しい花を踏み潰す 美しい花が僕の死んだ言葉を促している