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新説発表 常滑弁の法則性

「トランプをねる」という言い方、聞いたことありますか?

私の生まれ育った愛知県常滑とこなめ市では、家族や友だちとトランプで遊ぶときにそう言っていました。なんの疑問も持たずに使っていましたが、あるときそれが方言だと知ったのです。愛知県内でもあまり言わないよと聞いて驚きました。
西日本では「トランプをくる(繰る)」と言うと聞いたことがあります。
どちらもだいたい意味は通じますよね。標準語ではトランプを”切る/混ぜる”ことです。

なぜトランプを”ねる”という独特の言い方が生まれたのでしょうか。
常滑は古くから陶器、焼き物の街として知られています。そのため粘土をねる/練るになぞらえたのだろうと私は仮説を立てています。

ということは他の焼き物の街、近くでは瀬戸市や美濃焼の盛んな岐阜県土岐市周辺、ほかにも全国で見れば有田焼、九谷焼など粘土を扱う産業が盛んな地域はたくさんありますが、同様にトランプを”練る”と言っているのでしょうか。それを立証できれば仮説は成立しそうです。どなたかご存知の人がいらっしゃいましたら、ぜひ教えてください。あるいは焼き物の街ならではの方言が他にもあるか研究したいところです。

そんな感じで、方言についてわたくし少々興味があり、情報をストックしているのです。といっても、言語学者でも何でもない一介のサラリーマンなので、日本の方言すべてを突き詰めるには至りませんが、愛知の方言にどんな特徴があるかにおいては一家言いっかげんあります。
そして常滑弁に関して、ある法則を発見し温めておりました。ここでそれを発表したいと思います。

その前に、愛知県は尾張國おわりのくに三河國みかわのくにに分かれていたため、方言もおおむね東西で二分されることをご存知でしょうか。「みゃーみゃー」言ってばかりと誤解されている名古屋弁と「じゃん・だら・りん」に象徴される三河弁の区別から、歴史的成り立ちをもとに説明します。

名古屋市は尾張を代表する都市です。そのためメディアでは尾張弁イコール名古屋弁と認識されています。名古屋を取り巻く北の稲沢市・一宮市・犬山市といったエリア、西の津島市などは名古屋弁を色濃く残した尾張弁を話します。織田信長、豊臣秀吉が生まれ、尾張國は統一されました。大河ドラマなどのセリフでは、信長はあまり尾張弁を話しませんが秀吉(藤吉郎)はきつい尾張弁を話していることが多いですね。カリスマ化された信長には尾張弁は似つかわしくないのでしょう。現代人の偏見ですね。

私の生まれた常滑市は名古屋の南、知多半島の中央西部に位置し、地理的には尾張國になります。陶器や海産物を運ぶため、三河や伊勢との海上交易が方言にも影響してきたでしょう。しかし伊勢弁に関しては、現代の常滑弁に痕跡はありません。三重県の松阪市や伊賀市、鈴鹿市などに私と同世代の知人友人がいますが、伊勢弁は明らかに関西系で異なります。

常滑弁は、尾張弁/名古屋弁の一種で、西三河弁の影響を受けたハイブリッド型になっています。名古屋弁と同じように

  • おそがい……恐ろしい

  • けなるい……うらやましい

  • こすい/こっすい……ずるい

などの用例が挙げられます。

お待たせしました。私が発見した常滑弁の法則は、
濁る傾向がある。特に”ま行”が”ば行”になりやすい
というものです。以下のような例が見受けられます。

  • とこなべ(常滑/とこなめ)

  • ひぼ(紐/ひも)

  • さぶい(寒い)

  • せばい(狭い)

単語だけでなく形容詞も該当するところが興味深いです。
※当てはまらない例もあります。
常滑より知多半島の南にある美浜町や南知多町のことを「下(しも)」と言います。これは「しぼ」には変化しません。

地名自体が言い換えられ方言化しているのは特筆したい点です。生粋の常滑市民ほど「とこなべ」と話すのです。私の母もその傾向がありました。
テレビ番組で、茨城県民が「いばらぎけん」と発音してしまうということを観たことがあります。正しくは「いばらきけん」なのに、地元民の発音が濁って「いばらぎ」と聞こえてしまうことと似ています。これでは他県民にしてみればどっちが本当かよと言いたくもなるでしょう。

なぜ古くからの常滑市民ほど「とこなべ」と言ってしまうのか。東に接する半田市には「岩滑」という町名も存在します。「いわなめ」とでも読みそうなものですが驚くことに「やなべ」が正式な読みとなっています。知多半島には同じ傾向があるのでしょうか。

郷土の方言研究も楽しいものですよ。

《2023.4.24天狼院書店ライティング・ゼミ10本目》

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