2021年5月20日から21日にかけての枚方での大雨 ~①事例解析~
こんにちは、nooooon(@nooooon_met)です。
最近は、職場と家との行ったり来たりに時間を費やすことが多くなっています。いちどテレワークを経験すると、「通勤時間がもったいないなぁ」と感じてしまう・・・ただ、職場に出ないとできない&好きな仕事ではあるので、仕方のないところです。
さて、だいぶ時間が経ってしまいましたが、5月下旬に地元の枚方で大雨となり、新しく運用され始めたばかりの『避難指示』が発令されました。
今回は、この大雨事例について解析してみたいと思います。
1.総観場
気象現象には、竜巻のような小さな規模(スケール)の現象から、高気圧や低気圧のように天気図でも表されるような大きな規模の現象まで、さまざまなスケールの現象が存在します(また、小さな現象ほど短時間で終息するなど、時間と規模が比例する傾向があります)。
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その中でも、低気圧等の大きめのスケールのことを総観規模と表現し、総観規模の現象が存在する環境・・・場(「ば」と読む)のことを、総観場(「そうかんば」)と呼んだりします。
気象現象は、まずは総観場の状況を把握してから、より細かなスケールのメカニズムを調べていくという・・・順番で解析していくのがセオリーとされているような気がします。
そんな考え方はさておき、今回の事例はどんな感じだったんでしょうか。まずは、地上天気図を見てみます。
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天気図によると、20日夕方から夜のはじめ頃にかけて温暖前線が、21日朝から昼過ぎにかけて寒冷前線が大阪府付近を通過していました。
また、温暖前線と寒冷前線との間にあたる地域を『暖域』と表現するのですが、おおよそ20日夜は、大阪府付近は暖域内にあったと言えます。
次に、上空について見てみます。
500hPaの天気図によると、20日21時の時点ではボッ海に切離低気圧があり、東シナ海に気圧の谷(トラフ)がみられます。その後、21日9時の時点では、切離低気圧は日本海へと進んでいました。
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また、850hPaでの数値予報による予想天気図を見てみると、紀伊水道付近では、一時的に風速50knot(25m/s)以上と非常に強い風が吹くと予想されており、また、相当温位(θe)339K以上の暖かく湿った空気(暖湿気)流入が予想されていました(相当温位を示すために予想天気図を使っています。実況の相当温位を示す天気図が無いので・・・)。また、図としては示せないのですが、その前の時間帯についても、相当温位336K程度の暖湿気が流入すると予想されていました。
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上図は予想天気図でしたが、実際に高層気象観測での観測されたデータを見てみると、潮岬では21日9時に風速51knot、相当温位340.7Kが観測されており、予想と同等あるいはそれを上回る状況となっていたことが分かります。
また、ウインドプロファイラのデータを見てみると、21日明け方から朝にかけて、下層では高松で西南西風が、美浜では南南西風が観測されていたことが分かります。特に、美浜では20m/s以上の風が観測されている時間帯があったようです。
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ここまでをまとめると、下記のようになります。
〇地上
大阪府付近では、
・20日夕方から夜のはじめ頃:温暖前線通過。
・21日朝から昼過ぎ:寒冷前線通過。
→この間、暖域内。
〇500hPa
・20日21時:ボッ海に切離低気圧、東シナ海にトラフあり。
・21日09時:切離低気圧は日本海へ、トラフもそれを回る形で東北東進。
〇850hPa
・20日夜には、紀伊水道にθe≧336Kの暖湿気が流入すると解析。
・実測でも、21日朝に潮岬でθe≒341Kを観測。
〇上空1km以下
・瀬戸内にある高松で、西南西風を観測。
・紀伊水道にある美浜では、非常に強い西南西風を観測。
2.局地解析
総観規模と比べてかなり地域を絞った、より細かい範囲の解析を局地解析と表現します。
実際には各アメダスの観測値をプロットした天気図を解析したりするのですが、ちょっと横着して気象庁HP掲載図を利用します。
まず、アメダスの風を見てみると、和歌山県の友ヶ島では継続的に風速15m/s近い南寄りの風が観測されていました。また、そこから進んで大阪湾側にある関西空港や神戸空港でも、10m/s程度の風が観測されていました。
また、気温については、紀伊水道から大阪府南部のあたりで周辺より高めになっています。
これらから、紀伊水道からの暖かい風が、大阪湾内から内陸へ吹き込んでいたことが連想されます。
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降水量については、アメダス枚方では、20日夜遅くと、21日明け方から朝にかけて多くなっていました。特に、朝6時までの1時間には、35.0ミリの激しい雨が降りました。
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雨雲の動きを見ても、確かに21日明け方から朝にかけて、大阪湾あたりを起源に南西~北東走行の強いエコーが見られ、雨が強まっていたことが分かります。
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1項での総観場の解析、そしてアメダスによる観測データから、「トラフの通過」や「下層での暖湿気の流入」に起因して雨雲が発達し、大雨に至ったと考えられます。
3.キキクル(危険度分布)と被害
2項にて、枚方市周辺で激しい雨が降ったというふうに書きましたが、土砂キキクル(大雨警報(土砂災害)の危険度分布)では、うす紫色の「非常に危険」な領域が現れた時間帯がありました。
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また、浸水キキクル(大雨警報(浸水害)の危険度分布)や洪水キキクル(洪水警報の危険度分布)では、赤色の「警戒」となっている時間帯もありました。特に、淀川水系寝屋川流域では、『氾濫危険情報』が発表されていました。
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実際に、各地で浸水被害や土砂災害が発生していたようで、避難指示も発令されました(・・・というか、一部地域ではまだ発表されてるのでしょうか。解除の情報が見当たらない)。
まだ書き足りないことがあるのですが、かなり長々と書いてしまったように思うので、ひとまずここまで。続きはいつ書けるか・・・書かないで終わることがないようにします・・・。
→書きました。
そんな、今日このごろ
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1:気象庁HPから取得(2021.6.5閲覧)→http://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/whitep/1-1-2.html
2:気象庁HPから取得(2021.6.5閲覧)→https://www.data.jma.go.jp/fcd/yoho/wxchart/quickdaily.html?show=20210520、https://www.data.jma.go.jp/fcd/yoho/wxchart/quickdaily.html?show=20210521
3:気象庁HPから取得(線等を加筆。2021.5.21閲覧)→http://www.jma.go.jp/bosai/numericmap/#type=upper
4:気象庁HPから取得(線等を加筆。2021.5.20閲覧)→https://www.jma.go.jp/bosai/numericmap/#type=nwp
5:気象庁HPから取得(2021.5.21閲覧)→https://www.jma.go.jp/bosai/windprofiler/#code=47891&type=chart
6:気象庁HPから取得(2021.5.21閲覧)→https://www.jma.go.jp/bosai/windprofiler/#code=47795&type=chart
7:気象庁HPから取得(2021.5.21閲覧)→https://www.jma.go.jp/bosai/map.html#9/34.534/135.21/&elem=wind&contents=amedas&interval=60
8:気象庁HPから取得(2021.5.21閲覧)→https://www.jma.go.jp/bosai/map.html#9/34.534/135.21/&elem=temp&contents=amedas&interval=60
9:気象庁HPから取得したデータをもとに作図→http://www.data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/index.php?prec_no=62&block_no=1065&year=2021&month=5&day=&view=a1s
10:国土交通省HPから取得(2021.5.21閲覧)→https://www.jma.go.jp/bosai/realtimerad/
11:気象庁HPから取得(2021.5.21閲覧)→https://www.jma.go.jp/bosai/risk/#zoom:12/lat:34.813240/lon:135.669479/colordepth:normal/elements:land
12:気象庁HPから取得(2021.5.21閲覧)→https://www.jma.go.jp/bosai/risk/#zoom:12/lat:34.813240/lon:135.669479/colordepth:normal/elements:inund
13:気象庁HPから取得(2021.5.21閲覧)→https://www.jma.go.jp/bosai/risk/#zoom:12/lat:34.813240/lon:135.669479/colordepth:normal/elements:flood
~~~~2021.7.13、改題および一部追記~~~~