自分のオフィシャルスタンダードがあること
「汐留ってなんだかのちが住んでいるっぽくないよね」
「えー、どのへんが?」
「そもそもオフィス街にいなさそうじゃん。もっと素朴っぽい場所を選びそう。”街”より”町”でしょ。こっち(空中で漢字を書く)の字のほうね」
「吉祥寺とか?」
「三軒茶屋とか。」
「あーはんなるほどねー」
***
時折そんな会話を友達と繰り広げる。
同棲していた家を解消し、広尾から汐留に越してきて4ヶ月目に突入した。
前住んでいた広尾はもともと彼が愛していた場所で、わたしがそこにお邪魔した形だったけれど、今暮らしているこの汐留は、自分で選んだ。
出て行こうと思えばいつでも出ていけるこの街に、わたしは自ら選んで暮らしている。
なぜなら、この街には手放したくないわたしの「スタンダード」が存在するからだ。
2年前服を試着するように国や都市をコロコロと着替えながら暮らしていた頃、滞在場所を決めたらまずすることが「徒歩圏内にお気に入りのカフェを探すこと」だった。
私の「徒歩圏内のお気に入り」は以下の条件。
・天井が高く光がたくさん入ること
・大好きなニューヨークチーズケーキまたはベイクドチーズケーキがあること
・窓から見える景色がゴミゴミしていないこと
・店内が寒かったり暑かったりしないこと
・机の高さと椅子が合っていること
・電源とWi-Fiがあること
・店内が適度に静かなこと
たったこれだけの条件なのだけど、意外に「これ!」を見つけるのは難しい。
だからぴったりのカフェを見つけてしまうと「もうここに住みたい!!」となってしまうし、もはやタイ・バンコクに家を決めたときも、間取りや町並みではなくお気に入りのカフェが自分の家のすぐ側にあることで決めた。
私にとって家ではなく外にある「心地よい場所」が生活圏内にあることは、自分が思っているよりも優先順位が高いらしい。
だからここ汐留でその理想とぴったりと重なるカフェを徒歩圏内に見つけたとき「やった!」と心が躍った。
そのお店は誰もがよく知るチェーン店で、特段お洒落なわけでもないし、なんなら窓に真っ赤な大きなゴシック体で貼られている「営業中!」の文字は、清潔感漂う汐留の街と見事なミスマッチをおこしていて、みるたびに笑ってしまう。
だけれどこのカフェの窓際、カウンター席は特別だ。
座ると、気持ちの良い光が燦々と入る大きな窓に、時々流れるように走るゆりかもめ。目の前の遊歩道には犬を連れたお姉さんや駅に向かうどこかの国の人が歩く。その横をサラリーマンが足早に、電話を片手に走って行ったりする。その全てが緩やかで、ゆっくりとした音楽のようで、リズムがとてつもなく心地良い。
電源とWi-Fiと、ニューヨークチーズケーキを揃えた店内の天井が適度に高くて、温度も適温。
正直、こんなに心地よいカフェを他の街で探すのはなかなか大変だと思う。
それほどまでに、ここはまさに私が私のままいられる、お家以外の「オフィシャルスタンダード」なのだ。
ちなみに数少ない私のカフェでのマイルールは「ニューヨークチーズケーキは朝食べること」だ。おやつタイムじゃない。甘いものは絶対に朝食べたい。
そんな訳のわからないこだわりに寄り添ってくれるのも、チェーン店の良いところだなあと思う。
汐留はわたし「ぽくない」のだろうけれど。
それでもこのカフェは最高にわたし「ぽい」のだと思う。
自分のスタンダードをどこにおくのか。
言葉にするとどんなものなのか。
そういうものを知っておくと、きっと自分が生きる場所を、部屋や職場の近い遠い以外のベクトルで探すきっかけになる。
そうしたきっかけが、自分でも想定もしなかった驚く場所に運んでくれたりする。
人生って、おもしろいね。
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現在わたしが暮らしているレジデンスホテル ▽
(このカフェまでは徒歩5分)
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