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コテンラジオに出会って人生狂わされた男の話

皆さんは5年前、これから自分はどんな人生を歩むのか想像していただろうか。その道に今も進めているだろうか。
5年前の僕は、関東の大学を卒業したとともに、地元の島根県の島に帰り、家業の福祉に日々従事していた。島の未来に関しては期待してないし、自分が何かできるとも思っていない。ただ、本当にこの島を離れたほうがいい段階が来た時に、みんなが幸せに島から離れられる選択を残そう、その程度の信念はあったように思える。

そんなとき、コロナ禍に突入した。僕の唯一の職場内の強みだと思っていた、島の外部リソースを引いてくる力なるものは無意味なものになってしまった。
このコロナ禍の少し前から音声配信を始めていたのもあり、現実逃避としてのめりこんでいった。
楽しかった。格上ともいえる一人配信者に対し、とがった力を寄せ集めたチームの力を発揮できる場を作ろうとし、そのようになり、なくしかけた自信を取り戻しつつあった。
それでも、ほんの小さな炎上騒ぎが自分のチームにも延焼を起こし、昨日良くしてくれた人が今日には自分を疑い、なぜだかわからないうちに自分を離れていった。最後まで僕を信じてくれていた人もいたけど、その時の僕はありもしない嫌われた感覚が怖くてチームを解散、戦線を離れた。

配信という世界を失った僕は、再び島に視線を戻した。
自信がない。結局この島は終わる。運悪く島に帰ってしまったために、コロナを気にせず遊ぶことも、隠れることもできない。

そんなとき聞き始めたポッドキャストが、コテンラジオだった。
はじめて聞いたエピソードが、チンギス・カン率いる騎馬民族の話だった。全く違うルールや前提の中で、いろいろな常識を通り越した感覚を感じた。今まで、小さな島と小さな大学の中しか知らなかった僕にとって、初めて旅する物語ばかりだった。
歴史を知れば知るほどに、今自分がいるという認識も、島が終わるという感覚も、次から次へと塗り替えられ、塗り重ねられ、何層にもめくられ貼られを繰り返す。

コテンラジオを全エピソード聞いた時、僕は、歴史に語られることはなんと稀有でありがたいことだろうと感じていた。歴史がここまで残ってきてくれたことにすら尊さと有難さを感じていた。
僕の恐怖心なんて、歴史からすれば大した話でもなく、ただの認識に過ぎない。

再び視線を島に戻した。
この島に、今から残せる歴史はないだろうか。この歴史を、未来に届けることができたら、今の僕が答えを見つけていなくても、未来の人たちが僕らから道を作っていけるのではないだろうか。ライト兄弟だって、コペルニクスだって、多層な歴史の上に立っていた。
その出発点に数の大小は関係ない

こうして、僕の人生は僕なりに狂っていった

音声配信の時の経験から、僕は島の歴史を伝えやすいのは音声だと思っていた。
島を構成する要素は、目で見えるもが少ない。一人ひとりが持っているストーリーや縁、関係性に依存している。
過疎化の一番の難点は、地域資源を管理していた地域コミュニティがそれらに依存しており、人が減ればコミュニティと人をつなげるストーリーというチャンネルが減っていく。すると、資源の管理がうまくいかなくなったり、資源への新たなアプローチ方法が的を得なかったりすると仮定した。
だから、エモーショナル、フィーリングをより正確に、より容易に未来に届ける必要性を感じていた。音声は、そのような主観的ストーリーを他者に伝えることに強い

でも弱点もある。多くのポッドキャストを聞いて感じたことだが、自分が見たことも聞いたこともなく想像力がついていかないことを話されると、突然理解が遅れる。遅れるだけならまだしも、苦痛度が、動画を見て理解が難しい時と比べて、格段に上がる(気がする)。
コテンラジオの優れている部分は、その想像力との差分をできるだけ縮めた状態にして伝えている点だ。

だが、僕が思う歴史の語り手は島の普通の人で、その人たちにそこまでのスキルを求めることはできない。
だから、音を場所に縛り付けることにした。美術館の音声ガイドのようなイメージで、場所レベルで聴き手に想像力を近づける。そうすれば、どんなに言葉がうまく伝わらなくても、言語外のフィーリングで聴き手にリンクできる。

この構想をもって、音声配信をチームで一緒にやっていたエンジニアの友達を誘った。
このアプリは大して難しいものではないんだと、面白い今までにない音声配信なんだと訴え、エンジニアをもう一人加える形でスタートした。

でも、すべて目算違いだった。終わることのない借金。
それでも開発を前に進め続けて自分をだます。
でも構想は最初から間違っていたのではないかという恐怖。
僕の思いとは裏腹に、儲けを出さなくては続けられないという圧迫感。

そんな半年を超えて、ようやくテストリリースにこぎつける。
地元の高校生による一つの投稿に、僕らは初めて救われた。

「今から雪合戦しま~す」

後ろでははしゃいでる声と、日本海の重苦しい風の音が響く。
本土にいたエンジニアメンバーにも、投稿があった場所を後日歩いて聞いた僕にも、確かにその光景が見えた。僕の残したかった歴史は、こんな風に今は意味がないと思えるようなことだ。それでも、それが、今僕らがここで生きてきた何よりもの証拠になるんだと思う。

このあと、僕らは資金が底をつき、もう続けられないとも思える瀬戸際を迎える。
それでも、エンジニアの仲間たちが普通ではありえないくらいのたくさんの力を僕に与えてくれた。
島の人から、これは未来に価値があるからと、一年間の運転資金をいただいた

僕の意思ではどうにもならない狂った未来が、僕を突き動かし続けて2年が過ぎた。
今年、僕の生活の場は大阪に変わり、それでもなお、2年前からの道は途切れることはない。
コテンラジオで語られた歴史が、まだ語られてない歴史を未来に届ける道に突き動かしてくる。僕はこれが、自己実現だとも、自由意志だとも思っていない。
ただの、出会ってしまったを繰り返した先の帰結だ。
それでも、まったくいやだと感じないのは、僕がもう狂っているからなのだろうか。


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